迷い
台風一過。台風が過ぎ去ったあとは雲が全部払われて晴れ晴れとした天気になるらしい。
ふうん、窓から空を見てみればなるほど憂鬱になるくらいの青空が広がっていた。
せっかくあれだけ雲を持ってきたのだから、ちょっとくらいは置いて行けよ…と思わなくもない。
自然現象に腹を立てても仕方が無いので僕は出かける準備をする。準備と言っても寝癖を直すくらいのものだけれど。あと一つだけ習慣になった、バカと書かれていないか鏡を見ること。書かれることなんて二度とないだろうけれど見ることが習慣になった。
靴を履いて家を出る。外に出ると季節外れの蝉が一匹だけ喧しく鳴いていた。
台風を超えたのだろうか?
台風に起こされたのだろうか?
たった1匹の蝉が鳴いているだけなのに、何だか"生きているぞ"って叫んでいるような気がした。
少しだけ元気が湧いてくる。
いつもより少しだけ早足で僕は日吉の家に向かった。
―ピンポン。
「はぁーい」
気だるそうに出てきたのは日吉…のお姉さん?
「ど、どうも日吉…じゃなくて義輝くんのクラスメイトで色取って言います」
「あー!!君が色取君か!よしからいつも話聞いてるよ!よしが世話になってるねー、取り敢えず上がりなよ」
肩をバンバン叩かれながら僕は家に入った。
何か兄弟なのに見た目はあまり似ていないと思っていたけれど、中身がすごい似ているのか…
頭をガシガシと撫でられながら僕はそう思った。
「ヨッシー!色取くんが来てるよー!」
家に入るや否やお姉さんが叫ぶ。
「ちょっと光姉!?俺が出るって言ったじゃん!」
またしても叫びながら日吉が出てきた。
「光姉ぇ!いらん事喋ってねーだろうな」
「でも、ヨッシーは要らない事しか無いじゃん」
「分かったよ、じゃあ色取、光姉とは一切喋らなくていいからな!」
そう言い残して日吉は走って自室に戻った。
喋るなって…そんな事を言われても喋るけれどね。
「ヨッシーって学校でもあんな風なの?」
「学校でもあんな風ですね、まあ流石に彼女さんの前では静かにしているみたいですけれど」
「ぇ」
光さんの口から声が漏れた。
「え、まさか…ヨッシーに彼女いるの?」
「そのまさかです」
知らないけど。
「ふぅーん、そっかそっかぁ。あいつも大人になるんだなあ」
光さんは急にニヤニヤしだし、"ははーん"とか"ふふーん"とか言いながら日吉のいる方を眺めた。
も、もうちょっとマシな嘘にしておいた方が良かったかな…
「おまたー!」
(当たり前だけれど)何も知らない日吉が部屋から出てくる。その日吉を光さんが嬉しそうに肩を叩く。
「はっはっは!青春青春!それで…可愛いの?」
"はあ?"と呆れ顔の日吉、なんか今更嘘ですとは言い出しにくくなってしまった。
「その気合いの入り様からして今日会うんだろ?その子と」
「ん?ああ、徒花か?まあ…そうだな可愛いと思うよ」
"キャー!"と顔を隠す光さん。
「なんだよ光姉ぇ怖いし。ほっといて行こうぜ色取」
歩き出した日吉について行く。
「よっしぃぃ!今日は帰って来なくても大丈夫!母さんは説得しておくからねー!」
そう言いながら見送ってくれる光さんに会釈をして、日吉家を出た。
「ったく…光姉ぇの奴意味わかんねーよな」
「ははは、いやーでも良いお姉さんだと思うよ」
「はぁ?色取まで意味わかんねー」
そんなどうでもいい会話をしながら、徒花さんの家に向かった。




