雨天
外は最近稀に見る土砂降りだった。雲がさらに黒くなり、まだ夕方なのに太陽も見えない。
そんな中傘をさして悠々と歩いて向かうなんて僕には出来なかった。傘もささずに走り出す。
何だか最近走ってばかりだ。走らされている訳はないのだから自分の意思で走っているのだけれど、まるで誰かに背中を押されているようなそんな感覚で走る。
ほんの少しだけ走ることが好きになれそうだった。
僕はひたすら走る。
辿り着いたのは、日吉の家。
さっき(徒花ハウス)とは違う緊張、けれど迷っている時間さえも今の僕には惜しい。深呼吸、そしてインターホンを押す。
―ピンポン。
昔は日吉の家のインターホンを押すのが嫌だった。
日吉の家のインターホンはマイクもカメラも着いていない、言わば人を呼び出すためだけのもので、押せば玄関から日吉ファミリーの誰かが出てくるのだった。
僕は知らない人と会うのが苦手だったから(得意な人なんているのかな…)いつもインターホンを押すことを避けていた。
けれど今、初めてこのインターホンに感謝した。
面と向かって話せるから。
ドアが少しだけ開き、日吉が半分だけ顔を覗かせる。
一瞬驚いたような表情をして"なんだよ…"と不機嫌そうに聞いた。
「本当にごめん!日吉!今更だけれどちょっとだけ話を聞いて欲しいんだ」
「明日にしてくれよ…」
「今じゃなきゃ駄目なんだ!」
反射的に僕は叫んだ。バタンとドアが乱暴に閉まる。
いつでも真摯に向き合ってくれた日吉の初めての拒絶のように感じた。
再びドアが開き、"拭けよ"日吉がタオルを投げる。
ああ、拒絶じゃなくてタオルを取りに行ってくれたのか…
一呼吸置いて僕は言った。
「彼女を殺したのは僕だ。これは間違いない」




