分からない
「爆発しそうだ、何もかもめちゃくちゃにしたい」
――1度壊れたものはもう元には戻らないよ?
「いいんだよ、それで。何もかも失っちゃえば怖いものなんてないんだろ?」
――大切なものがあるから強くなれるし、頑張れるんだよ。雫だって体育祭の時にさ…
「きっと僕は君が何よりも大切だったんだ。何よりも失いたくなくて、愛おしかった」
――まだ残っているものがあるでしょ?
「……」
「いや、僕には何も無い。君が唯一で無二だったんだ。何も無い僕に価値を、意味を、与えてくれたのは君なんだから」
――……
――もしも立場が逆だったら、私はきっと立ち直れない。世界が色を失って、環境を憎んで、友達や家族を傷付けて自分も傷付ける。私なら絶対そうする。
――でも、私は出来ないことだけれど雫にはそうなって欲しく無い。とんでもない我儘だけどさ…
たった一つの私の宝物が壊れていくのは見たくないな。
「僕は君が思っているほど強くないんだよ」
――知ってる。弱虫で泣き虫でいつも私に助けられて、腕相撲では全敗、おまけに押しに弱い。
――でも、他の誰にも絶対に真似出来ない事があるのも知ってる。
――雫は、人の為に頑張れる人だよ。
「人の為?」
――そう、人の為。それって本当に凄いことなんだよ?
また彼女の夢を見ていた。
いや、あれは想い出か…彼女と話せる機会があるのに僕があんな話をするはずが無い。
日吉が帰った後、どうやら僕はぶっ倒れてそのまま眠っていたみたいだ。起き上がって時計を見る。
午後4時2分。微妙に不吉な時間。
もう一度横になって眠ろう…
…
……
ちくしょう…こんな時に寝れるものか。
分かってるんだよ。彼女を失ったのも、今友達を失いかけているのも、全部全部、自分のせいって事くらい。
分かってるんだよ。自分で壊しておきながら元に戻らなから悲しいなんて言ってることくらい。
でも、分からないんだ。僕はどうすればいいか。
何をすればいい?誰に聞けばいい?
ずっと目を逸らしてきた僕には分からない。
ポケットに熱を感じる。
「ああ、そういやお守り入れっぱなしだった…」
何故か熱を持っているお守りを取り出す。
すると何だか分からないけれど、心がじんわりと温かくなる様な感覚に襲われた。
気力が少しずつ湧いてくる。
「よし、行くか」
誰かにではなく、自分に向けて言った。
僕は再び起き上がり顔を洗って家を出た。




