想い出
その公園はあの時と同じだった。ブランコも鉄棒もジャングルジムも砂場も。
変わったことと言えば、高くなった僕の視点と…
隣に彼女が居ない事。
「…!?」
あれ?今って確か朝だよな?
一瞬、目を瞑ったほんの一瞬で景色が変わった。
朝日が夕日になり、伐採されたはず木々が山を形成している。一体何が起こったんだ?
後ろから子供の声が聞こえる。
「しずくー!走るとまた転けちゃうよ!」
「ひよりは心配し過ぎなんだよー」
反射的に振り返り、僕は自分の目を疑った。
僕は夢を見ているのか?
そこに居たのは紛れもなく10年前の僕達だった。
間違いようもなく、疑いようもなく、僕達だった。
「ひよりー!早くー!」
僕は…一体いつから彼女を、ひよりを名前で呼ばなくなったんだろう。思えば名前で呼ぶ事を心のどこかで避けていたような気がする。
「ねえひより、夕日すっごく綺麗だよ!ジャングルジムに登ったらもっとよく見えるかなー?」
「登ってみよ!」
2人でジャングルジムに登る姿を見て、僕は近づこうとしたけれど足が前に進まなくなっていた。
てっぺんに座り夕日を眺める2人に思わず涙が溢れる。
「大好きだよ、ひより」
そう言って微笑むかつての自分を見つめる。
ああ、これは夢なんかじゃない。幻でもない。
これは想い出だ。彼女の願いと記憶の、忘れられない想い出なんだ。
その想い出に触れようと手を伸ばす。
僕が僕に触れかけた瞬間、煙のように消えた。
景色も元の青空に戻る。残るのは虚しさだけ…
あまりに一瞬の出来事に呆然とジャングルジムを眺めていると、あることに気が付いた。さっきは無かったものがぶら下がっている。
近づいてみるとそれはどこかで見た事のあるお守りだった。青をベースに金の文字。1つだけ違うところは文字が2になっていたこと。
「なんだよ…」
と僕はつぶやきお守りを握り締める。
そのお守りは何故かほのかに暖かい気がした。




