シャッター音
「それってつまり、人身事故か?」
日吉が微かにこわばった声で僕に聞いた。
「多分そうだろうな」
「この人だかりは、電車待ちなのか?」
「……」
僕は答えない。
ーカシャリ
とシャッター音。
それに続いて二度、三度シャッター音が聞こえた。
全身の毛が逆立つ。
込み上げてきた感情は、怒りなのか呆れなのか僕には分からないものだった。
「え、何だ今の音?カメラの音じゃねえよな?」
「……」
僕はもう答える気力がなかった。
込み上げる吐き気を抑えるのに精一杯だったからだ。
「やめてください!」
悲鳴にも似た声が響く。
「人が亡くなったんです!自分達かが何をしているか分かってますか!?」
叫んでいるのは駅員さんだった。
恐らく日吉が言っていたであろう美人な駅員さんが、悲痛な表情で人々に叫んでいた。
クスクスと笑う人が数名。
「あいつ…」
その人に向かって歩き出す日吉を僕は食い止める。
「落ち着け、アイツらを殴っても事態が悪化するだけだ」
日吉は僕の手を乱暴に振り払い、チッと大きな舌打ちをした。
「今日はもう、帰ろう」
僕がそう言うと日吉は小さく"そうだな…ごめん"と言い残し、来た道を引き返した。僕も後を追おうとしたけれど何故か足が前に出ず、呆然と立ちつくしたまま小さくなるその背を見送った。




