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堀の攻防

 僕たちはオオカミが堀の水を飲まないように対処をする。


「この毒水を流し込めば、もう堀の水は飲み水にならなくなる」

「食料として魚があったとしても、水が無くなれば喉が渇きまくって倒れるかもしれないですね」

「少なくともこれで壁に近寄れなくなるのです。安心なのです」


 堀の中に毒水を流し込むと、さすがの聖水も毒々しい色に変わった。

 これで防御壁の防御は完璧だ。


 *


 人間どもはちょっと前に言ってたように、本当に堀の水に毒を流し込みやがった。

 人間側は俺たちを殺る気満々だな。

 降伏すれば眷属にしてやってもいいかと思っていたが、これで遠慮は要らなくなった。

 全員抹殺だ!


 早速、フェルは配下の者たちを使い人間の砦の攻略を始める。

 フェルは砦の防御壁を見つめあらゆる可能性を模索する。

 すぐに答えは出た。

 この砦の防御は一見完璧なように見えて、実は穴だらけである。


 防御壁の素材は木材なので、火矢を使えば一瞬で燃やし崩すことが出来る。

 まあ、これは誰でも考え付くことだ。

 だが、オオカミには無理な攻略法だ。

 魔法や炎ブレスでも使えれば話は変わるのかもしれないが、手先が切り裂くことしか出来ないオオカミに火を利用するのは無理なのである。

 

 だが穴はまだまだある。

 鉄壁の防御を誇るのは聳え立つ棘の山。

 だが完璧なのは上だけだ。

 下はガードががら空き。

 柵は地上に置いただけで地面の下はなんの防御策も取られてないらしく、普通の大地と変わらない。

 狙うならそこだ!


「ガルウ!(おい、お前ら。この堀の水を全て掻き出せ)」

「ガウ!(わかったっす!)」

「ガウ!(任せるっす!)」


 フェルは、自ら手を出さずに、ここは配下の自主性に任せる。

 なにからなにまでフェルが指示を出していたら指示なしの状態では動けない無能に成り下がるからな。


「ガウ!(これだけ飲むのは大変だなー)」

「ガウ!(でも、兄貴の指示だから頑張って飲み干さないと!)」


 ちょっ!

 お前ら、いきなりなにをしようとしてるんだ?

 人間が堀の水に毒を流し込むのを見てたよな?

 見てなかったのか?

 フェルは配下を問いただす。


「ガルウ!(お前らなにをやろうとしてるんだよ?)」

「ガウ!(なにをって、堀の水を飲み干そうかと)」

「ガウ!(ちょっと多いけど、頑張るっす!)」


 ちょっ!

 飲む気満々じゃねーか!

 フェルは慌てて配下たちを止める。


「ガルウ!(おい! バカ! 止めろ! 堀の水は毒で満たされてるんだぞ!)」

「ガウ?(えっ? マジっすか? ヤバいじゃないっすか……)」

「ガルウ!(さっき人間が塀の上から水を流し込んでいるのを見なかったか?)」

「ガウ!(見ましたよ。おいらたちが水を飲んだんで減った分の堀の水を補充してたんですよね?)」


 そんなわけあるかい!

 どうしてその結論になる?


「ガルウ!(あれが毒の入った水なんだよ! 今の堀は毒で満たされている)」

「ガウ?(えっ? 嘘でしょ? さっき、おいら、思いっきり飲んじゃいましたよ!)」

「キャン!(死ぬっす! 毒をお腹いっぱいになるほど飲んじゃったよ!)」


 絶望の表情を浮かべ慌てふためく配下たち。

 フェルは混乱して配下を殴りつけて正気を取り戻させた。

 

「ガルウ!(安心しろ。毒を入れたのはついさっき。俺たちが堀の水を飲んだ後だ)」

「ガウ(よかったー)」


 安堵のあまり、腰が抜けてグデっとその場にへたり込む配下たち。

 半端なく情けない姿なんだが、こいつら本当にオオカミなのか?

 犬っころにしか見えねぇ。

 フェルはため息をついた。


「ガルウ!(飲む以外の方法で堀の水を掻きだせ)」

「ガウ!(飲まないで堀の水を掻きだす事なんて出来るんですか?)」


 だめだ、こいつ等。

 人間に飼われて腑抜けにされている。


「ガルウ!(そんなこともわからないのか? お前の手の先に付いているのはなんだ?)」

「ガウ!(肉球?)」

「ガルウ!(お前、バカだろ?)」

「ガウ!(じゃあ兄貴、どうやればいいんです? 手本を見せてくださいよ!)」


 口で説明するのは時間が掛かりそうなので実際にやって見せた。

 手の先に付いている爪で地面を掘り、水路を作り、堀の水を全て流し出し空堀にする。


「ガルウ!(これを手本にお前らもやってみろ)」

「ガウ!(やってみろって、兄貴? 兄貴がすべてやってくれたじゃないですか! もうやることないっす)」

「ガウ!(さすが兄貴っす。一瞬で堀の水を掻きだすとはさすがっす! さす兄っす!)」


 配下にやらせるべき仕事を取り上げて自らしてしまう、統率者として一番やってはいけないことだ。

 フェルは反省しつつも、配下に褒めちぎられる心地よさを楽しんでいた。

 でも……なんだ……こいつらって本当に役に立つのか?

 こんな奴らを従えて人間と戦わないといけないだと?

 実質一人で戦うのと変わらねーじゃねーか。

 やれやれだぜ。


 そんなことを考えていると堀の水が完全に抜け、この砦の最大の弱点を曝け出した。

 一人だろうがなんだろうが、やりきってやるぜ!

 ここから一気にケリをつけてやる!


 ガルウウウウ!


 俺はとき代わりの咆哮を上げ、自分自身を鼓舞した。

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