血判状
模擬戦に誘われた僕。
僕はただの薬草採りで剣が使える訳もない。
薬草採りならだれにも負けないけど、剣の試合なんてできる訳もない。
当然、僕は断った。
でも、爺さんは粘り強く僕に試合を勧める。
「大丈夫ですぞ。使うのは柔らかい葦で作った模擬刀。試合で怪我は絶対にしませんぞ」
「でも王子様は剣の扱いに慣れているようですし、僕に勝ち目が有るわけもなく、完全に負けが見えています。結果がわかっている試合を、やる必要が有るんでしょうか?」
「お主を一発でも殴れば、ペットを殺された王子の気も収まると思ってのう」
そういう事か。
試合で勝たせてガス抜きをして、王子の怒りを鎮めたいらしい。
恨まれたら困るし、一発ぐらい殴られといた方がいいかな?
「それにお主が勝ったら褒美を差しあげますぞ」
ご褒美?
なにそれ?
いいね!
何かの間違いで勝てたら、お宝をもらえるかもしれない。
開幕一番に忌避剤を投げたら勝てるかな?
でも、そんなものを使ったら卑怯者呼ばわりで、それこそ国家反逆罪に問われるな。
王子をなだめる為にも、負ける前提で試合は受けておいた方がいい気がする。
「そういう事でしたら……」
「では、血判状を用意するから、そこに捺印をして下さい」
血判状?
ずいぶんと仰々《ぎょうぎょう》しいな。
負けたら死刑とかじゃないよな?
疑って血判状を読んでみる。
――――――――――
一.戦闘は模擬刀を使って行い、相手を殺さぬこと。
一.どちらかが負けを認めた時、戦闘不能になった時点で試合を決する。
一.勝者は望むものを得ることが出来る。
――――――――――
特に問題が無い内容だった。
俺は指を針で突いて、血判状に捺印をする。
王子も僕に続いて捺印をした。
「契約は成立した」
王様は爺さんから血判状を受け取ると、読み上げる。
そして、僕は模擬刀を渡される。
王子は物凄い殺気で僕をにらんできた。
そんな王子に王様が声を掛ける。
「王子よ、こやつを殺すことはならん」
「わかっております」
「ペットを殺されたぐらいで平民を処刑にしたら、隣国の笑いものになるからな」
「は、はい」
「でも、この試合で勝てば、こやつを死に追いやれる。御前試合を利用した、実質的な処刑だ」
「はい!」
な、なにいっているの?
この王様!
ダメじゃん!
実質的な処刑とか言ってるよ!
どういうこと?
葦の剣を使った単なる模擬試合なんじゃないの?
なんでそれで死ななきゃならないんだ?
死ぬ方が難しいと思うんだけど?
もしかして、王子だけ普通の剣を使ったりするの?
「葦の剣を使うんですよね?」
「そうじゃ」
「じゃあ、なんで処刑になるんです?」
「それはあとのお楽しみじゃ、ほーっほっほ」
そ試合に負けたら死ぬの?
そんな事、血判状には何も書いてなかったよね?
あの血判状のどこをどう読めば、処刑になるの?
わけがわかんないよ!