商人のおっさん
おっさんは「仕事だ、仕事だ、商材探しだ!」と、つぶやきながら僕らの村を勝手に物色し始めた。
ラビィその後をついている。
僕はその後をついて様子を見ている。
「これが神の泉か」
「そうぴょん! とってもおいしい水ぴょん!」
「ほうほう」
おっさんは、手で水をすくい飲む。
「水だな」
「そうぴょん! おいしい水ぴょん!」
「いくらおいしくても水が商材になるわけ無いだろ! 『おいしい水』と言ってたから、酒の符丁かと思ったわ! 次だ次!」
今度は杉の前に。
「杉だな」
「そうぴょん! とっても大きな杉ぴょん!」
「こんなとこから杉を持って行って商売になるわけが無いだろ! 杉と言ってたから、金が成る木と思ったわ! 次だ次!」
お金よりすごいギルトが成るんだけど内緒。
今度は岩の前に。
「岩だな」
「そうぴょん! とっても重い岩ぴょん!」
「こんな重い岩を持って行けるわけが無いだろ! 岩と言ってたから、金の塊と思ったわ! 次だ次!」
見れば一瞬でわかるのに、お約束のような会話を繰り返す二人。
結構相性がいいのかもしれない。
商材が見つからなかったら、お土産にラビィ持って帰ってもいいですよ。
いや、是非とも持って帰って下さい。
「おい、うさぴょん。他になにか無いのか?」
「うさぴょん? ラビィのことなの?ぴょん」
「そうだ、うさぴょん。何かいい商材を探すんだ」
「うーん……。ジーン、他に何かないぴょん?」
他って。
食うのが精いっぱいなのに、何にもないぞ。
あるとすれば……。
「畑の作物ぐらいだな」
「見せてみ?」
おっさんは、畑を物色するけど、あまりいい顔をしない。
「ありきたりな作物ばかりだな」
ところが、畑の横に転がっていた砂糖の原料のケインを見ると、顔色が変わった。
「こ、これは……マナケインやないか? すごいやないか!」
「そんなに、すごいです?」
「上級ポーションの基剤に使われる魔力を含んだ液糖が採れるんや。こいつをどこで手に入れたんや? 教えろ!」
僕の肩をつかんで、ガシガシ揺らす。
すごい食いつきっぷり。
ちょっと怖い。
ユグドラシルの木から採れたことは内緒にした方がいいな。
ユグドラシルを引っこ抜いて持っていかれたら困る。
「ここに生えていたものです」
嘘じゃない。
自生と言ったら嘘になる。
でも、僕が植えて畑に「生えて」いたんだから、嘘じゃない。
「この島か」
「はい」
「全部くれ!」
「今増やしてる最中なので、全部はちょっと」
「わかった。じゃあ、次に出来たら半分買い取るからな!」
どっさり金貨の入った袋を僕に押し付ける。
「手付金や! 絶対他の奴には売るなよ!」
「はい」
すごい量の金貨だな。
数年は遊んで暮らせる額じゃないのか?
でも、この島でお金を持っていてもなぁ……。
ただの輝く丸い石と変わらない。
「でも、僕からしたら、お金なんて貰っても何の価値もないんです」
「あ~、わかった。無人島だから金を使うと店が無いんだな。なんなら金の他に、要るものを売ってやるぞ。何が欲しい」
「畑で育てる野菜の種とか、武器や防具なんかが欲しいですね」
「そんな物でいいならお安い御用だ。サービスで付けたる!」
おっちゃんは、ほくほく顔でホーバーに飛び乗って船へと戻った。
きっと、これから商談を持ち掛けようとしてるんだろうな。
なんとなく、そんな気がした。
その時、誰が俺の袖をつんつん引っ張る。
ミーニャか?
いや、ミーニャは、まだダンジョンに避難してから戻ってきてない。
ラビィだった。
「ニンジンの種が欲しいぴょん」
頭上を飛び去る飛行船に、僕は大声で叫んだ。
「ニンジンの種もよろしく!」
「おう! まかせとき!」
ちゃんと聞こえたみたいだ。
おっさんはものすごい勢いで、島から帰って行く。
こうして突如やって来た騒動は、幕を閉じたのだった。
『クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱の商人に偽装中です。 ②』が12月28日に双葉社様より発売です。1巻ともどもよろしくお願いします。




