ミカエル
えっ?
なにが起きてる?
なんで人を襲っているオオカミを倒したら騎士に剣を突き付けられなくちゃならんのだ?
僕はお供の騎士たちに取り囲まれて羽交い絞めにされた。
この状況だったら普通は僕にお礼をするのが普通でしょ?
オオカミを三匹も退治したんだよ?
ちょっとした英雄じゃないの?
それが何で捕まるの?
なんで剣を突き付けられるの?
な、なぜだ?
わけがわからない。
「僕、何かまずい事しちゃいました?」
「お前は、ミカエル王子様が家族同然に大切にしているオオカミを殺したんだ!」
そこに現れたさらに豪華な装備を身にまとっている青年。
僕より少し年上で、身のこなしから高貴な地位がにじみ出てる。
「よくも、僕の大切な家族のジェイムスと、ギリアムと、ジャッカを殺したな!」
「そうだ、そうだ! 坊ちゃまの大切な家族なんだぞ!」
「ミカエル坊ちゃまの家族を殺すとは! この重罪人め!」
「そうだ、そうだ! この犯罪者め!」
お供の騎士たちがハモって王子を持ち上げてウザい!
この王子、オオカミをペットで飼っているのかよ!
そんな危ないペットなんて飼うなよ!
しかも、人を襲うオオカミだぞ!
おまけに人を殺しているし!
猛獣をペットにするな!
僕は猛抗議をした!
「いや、この子が襲われていたから助けるのは当然でしょ! 人間とオオカミの命どっちが大切なんて、考えなくてもわかるでしょ!」
「白銀狼に決まっているだろう!」
はあ?
なにいっているのこの王子?
こいつ?
頭腐っているんじゃないの?
ウジ沸いてない?
間違いなく頭がおかしい。
でも、取り巻きの騎士たちは王子のことを持ち上げ続ける。
完全にイエスマン。
「そうだ、そうだ! 坊ちゃまの言う通り!」
「よくも、王族に手出ししてくれたな! 許さぬ!」
「そうだ、そうだ! 王族に手を出した叛逆者め!」
「いやいや、オオカミは王族じゃないでしょ?」
「僕の家族で王族だ! 国家反逆罪で、この場で斬首処分にしてくれる!」
「そうだ、そうだ! 坊ちゃまの言う通り!」
マジ?
僕、殺されちゃうの?
オオカミに襲われている人を助けたら、王族殺害の犯罪者ってどういうこと?
しかも、オオカミってどう考えても獣で王族じゃないだろ。
あとから息絶え絶えでやって来た初老のお爺さんが王子を止める。
たぶん、王子のお目付け役とか、監視役とかそんな感じのお爺さんだ。
急いで王子を追ってきたのか、ものすごく息が上がっていて苦しそう。
「ミ、ミカエル王子、な、なりませぬ! ここで国民を殺してはなりませぬぞ!」
「でも、僕の大切な家族である王族を殺した賊だぞ!」
「オオカミは王族ではありませぬ!」
声を張り上げたら、さらに息が上がってかなり苦しそうにしている。
お爺さんは、腰に下げた水筒の水を飲むと少し息が収まった。
オオカミを獣と言い切った、この爺さんだけが唯一の常識派のようだ。
この爺さんに味方してもらうしかない。
「ペットのオオカミを殺されたぐらいで国民を殺したら、女神教を崇拝する隣国クレスタに侵攻の糸口を与えることになります」
「確かにそうだが、僕の家族の仇は取らねばならぬ!」
「坊ちゃまがフィラインの王子との剣の試合に負けてバカにされたという理由だけで、フィラインの国に宣戦布告し侵攻し、周辺各国から非難されているのをお忘れですか? 自重してください!」
「そうだったな」
なにそれ。
フィラインとの戦争って、そんなくだらない事で起きたの?
ありえない!
「ここは、爺にお任せ下さい。悪いようにはいたしませぬ」
そして僕は王族殺害の罪で王様の前に連行された。