ミーニャ
僕のせいで気絶してしまった、女の子。
女の子の名前はミーニャというらしい。
薄汚れたボロ布一枚しか着てない。
首には鉄の首輪を嵌めているので、奴隷なのは間違いないだろう。
少女の見た目はかなりの特徴がある。
ケモミミが頭から生え、尻尾も生えている。
猫人族のフィライン。
最近、フィラインの国との戦争に勝ったと聞いたから、その国から連れてこられたんだろう。
僕は話題を変えて忌避剤のことを誤魔化す。
「あのオオカミに襲われたのか?」
ミーニャはコクンと頷いた。
「助けてくれてありがとうございます。あなたは私の命の恩人です」
「けほけほ」と、咳をする女の子。
やばい!
まだ、忌避剤が効いていたか。
僕は水筒代わりに持って来た夕日の様に赤いロランジュの実の入った布袋を取り出す。
柑橘系の握りこぶしよりも大きな果物で、水分たっぷり。
果汁も多くて、飲み水代わりに重宝される。
「喉が痛いなら、これを食べるといいよ」
僕はロランジュの皮を剥いて、ミーニャに渡す。
ミーニャは美味しそうにロランジュの房ををほおばった。
「美味しい。こんな美味しいロランジュは初めてです」
村で普通に取れるロランジュなんだけどな。
そんなにおいしいのか?
あまりに美味しそうに食べるので、袋ごとロランジュを渡すと喜んでくれた。
三個目のロランジュを食べると、咳も収まる。
ミーニャは、自分の身に起きたことを語り始めた。
国が戦争で負けて、兵士に捕まったこと。
奴隷商人に売られたこと。
王都で売られることになったこと。
王都の奴隷屋行きの馬車に乗っていたこと。
馬車には奴隷商一人と、奴隷が八人乗っていたこと。
いきなりオオカミに襲われたこと。
奴隷商は奴隷を置き去りにして、自分だけ馬に乗って逃げてしまったこと。
馬車が横転したこと。
次々に同乗していた奴隷が襲われたこと。
生きた心地のしなかったこと。
もうダメだと諦めたこと。
そこに僕が助けに来たこと。
知性の高いオオカミは、反撃される可能性のある人間を襲うことはめったに無い。
ミーニャは奴隷という事で、あまり大切に扱われていなかったのか体臭が酷い。
その臭いに鼻をやられたオオカミが、奴隷を獲物と間違えて襲ったんだろうな。
それにしても、この辺りにはオオカミなんて出ないはずなんだけど、珍しいな。
しかも、こんなに大きくて白いオオカミなんて見たことが無い。
オオカミを見ると、宝石入りの結構豪華な首輪が付いている。
なんだこりゃ?
どう見ても野生のオオカミじゃない。
魔術師に操られたオオカミなのか?
わからない。
僕が頭を抱えて悩んでいると、すぐに騎士が現れた。
たぶん、野盗狩りで王都の周辺を巡回していたんだろう。
結構豪華な防具を装備しているので、王都の騎士さんの中でもかなり偉い人かな?
四人のお供の騎士を連れているしね。
騎士さんは俺に声を掛けてきた。
「この辺りでオオカミを見なかったか?」
「オオカミなら、ここに」
僕はオオカミを指さす。
「全て死んでいるだと? これは、いったいどうしたことだ?」
「この子の乗る馬車が襲われていたので、僕が退治しました」
「このオオカミを殺したのはお前なのか?」
「はい」
オオカミを撃退したことで、ご褒美でも貰えるのかな?
騎士団にスカウトされたらどうしよう?
僕は剣なんて使ったことないよ?
騎士なんて出来るかな?
でも、騎士は僕の予想に反して突然声を荒げた。
「なんてことをしてくれたんだ! 許せぬ!」
えっ?
なにいってるの?
「その首、討ち取ってやる!」
どういうこと?
騎士は僕に剣先を突き付けた!