迷子の女の子
僕の他の薬草屋が来ていたのを見ていないか、この子に聞いてみた。
ここにいたなら、何か知っているはずだ。
「この辺りに、僕以外の薬草を採っている人を見かけなかったか?」
「それなら、わらわなのだ。おなかが空いていたから薬草さんを食べたのだ」
「でもキミ、薬草の植え替えなんてしていないよね?」
「それもわらわなのだ。美味しくなかったので、残った薬草さんを埋め戻したのだ」
という事だった。
ライバルが来ていないことがわかったので、僕はホッと胸をなでおろす。
埋め戻した場所が偶然育成に適した場所だっただけらしい。
実体のないライバルに踊らされてしまった。
やれやれだぜ。
そして残された女の子。
今は薬草採りで忙しいので、この子の扱いに正直困る。
この場に見捨てる訳にもいかない。
さすがに、そこまで僕は鬼畜じゃない。
となると、村に送り届けないといけない事になる。
でも、そんな事をしていたら、往復二時間の無駄。
ポーション納品のスケジュールに間に合わなくなる。
三日後のポーション納品の為には、今日の夕方までに薬草採りを済ませないとならない。
となると、間に合わせるためには、女の子に薬草取りについて来てもらうしかない。
でも慣れない山で、あきらかに山登りに向いていないこの服装。
僕についてくるのは大変だろうというか、無理だな。
女の子にどうするか聞くと、女の子は大丈夫だという。
「わらわがこの場所にいることさえわかれば、すぐにお父さまが迎えに来てくれるのだ」
「狼煙でも焚けばいいのかな?」
「けむりモクモクのやつか。そう、それを頼むのだ」
僕は薬草を刻んだものに、携帯装備のコンロから取り出した練炭を砕いて混ぜて、狼煙を作り上げる。
それを見た女の子はやたら感心している。
「器用なものだな」
「薬草絡みのことなら何でもできるぞ」
狼煙の作り方は父さんに教えてもらった。
他にも、獣を避ける「忌避剤」や、獣を麻痺させて倒す「毒草丸」、煙で獣をまく「煙幕」なんてのも作れる。
「それは凄いな。これをつけると、お父さまが迎えに来てくれるのか?」
「大事な娘なら、飛んで迎えに来るさ」
僕の思った通り、狼煙を上げるとすぐに父親が現れた。
かなりガタイのいい大男だ。
女の子と同じような豪華な異国の服を着ている。
剣士なのか、腰にはかなり豪華な宝剣を帯刀していた。
「シナトベよ、こんなところに居たか。心配したぞ」
「お父さま!」
女の子は父親の胸に飛び込む。
そしてヒシっと抱き着くと涙ぐむ。
「心細かったのだ!」
「怪我はしてないか? お腹空いてないか?」
「この男から施しを受けていたので、大丈夫なのだ」
「そうか。じゃあ、ちゃんと自分の言葉で礼をいいなさい」
「わかったのだ」
女の子は父親の胸から飛び降りると僕にお辞儀をする。
「助けてくれてありがとうなのだ」
そしてかんざしを外し僕の服にブローチのように取り付けた。
「これはお守りなのだ。なにか困った事があったら、これを使ってわらわを呼ぶのだ。今度はわらわが助ける番なのだ」
宝石のちりばめられた、金のかんざし。
結構高価な物かもしれない。
歳下の女の子の助けはいらないけど、貰えるものなら貰っておこう。
「ありがとうな」
「ワシからも娘を助けてくれたことを感謝する。ありがとう。では急ぎなので失礼する」
女の子は父親に抱かれ、風のような速さで山を降りていった。