とある童女のお願い
高天原 イザナギ邸
夜
わらわは、いつものようにお父さまにお小遣いをせびり、いや、貰えるようにお願いに来たのだ。
お父さまは、お風呂上がりのお酒を楽しんでいた。
「お父さま、今日もお仕事お疲れさまです。今日も肩を揉ませてください」
「うむ」
お駄賃の50円ゲットなのだ。
でも、50円を貰っても服は買えない。
50回ぐらい繰り返して、やっと安い服が買えるか買えないかといったところ。
でも、そんなに待ってられない。
なんとかしないと。
わらわが肩をもみ始めると、お父さまがいつものように声をあげ始めた。
「くぅー、気持ちいい! 仕事の疲れが吹き飛ぶ! わが娘の肩もみは最高だな!」
かなり機嫌も良さそうなので、服のことを切り出してみよう。
きっと、買ってくれるはずなのだ。
「あのー、お父さま。お願いがあります」
「どうした?」
「服を買って頂けないでしょうか?」
「服なら母さんがこの前買ったばかりだろう?」
そうだったのだ。
この前、山で迷子になった時、地べたで寝て服を汚してしまって新しいのを買ってもらったばかりなのだ。
むーん、ものすごく頼みにくい。
どうすればいいのだ?
でも、信徒二号のミーニャの為。
ここは、何としても買ってもらわないと。
わらわは頭を下げてお願いした。
「いえ、わらわの服ではなく、わらわの信徒の服なのです」
「あの、無人島で生活している信徒か?」
「はいなのです。買ってくださいませんか?」
お父さまはにこりと微笑んだ後、難しい顔をしました。
「それなら、買ってやることは出来んな」
えーっ?
買ってくれないの?
肩もみのお金じゃすぐには買えないのだ。
ミーニャが悲しむのだ。
「でも……信徒のミーニャが悲しんでおります。肩もみのお駄賃の前借りでもいいから買ってくれませんか」
「シナトベの服ならいくらでも買ってやる。でもミーニャはシナトベの信徒なのだから、自分で何とかするんだ。信徒のことはワシからはなにも手伝うことは出来んな」
「そんな……」
ひどいです。
お父さまなら手伝ってくれると思ったのに。
こんな冷たいお父さま、嫌いです。
お父さまは「ワシ以外に手伝ってくれる人を探して交渉してみるんだな」と言って、そのあとは一切取り合ってくれませんでした。
困ったのだ。
ジーンお兄ちゃんに服をあげると約束したのに、渡せなくなったのだ。
かみさまとしての威厳が……面目丸つぶれなのだ。
むーん。
頼れるのは【かみさまスコップ】をくれたカグツチ爺さんしかいないのだ。
学校の理科の授業でチューリップを植えるためのスコップが欲しいと言ったら、宝刀を三本も鋳つぶして【かみさまスコップ】を作ってくれた鍛冶師なのだ。
あの鋳つぶした宝刀は草薙の剣とかいう結構高い剣だったから、服ぐらい間違いなくくれるはずなのだ。
*
高天原 ガグツチ工房
夜
カグツチ爺さんは、服をくれなかったのだ。
「がはは! 鍛冶屋のワシが服を縫える訳が無かろう」
「縫わなくてもいいのだ。お金を貸して欲しいのだ」
「なに子供が借金するとかふざけたことをいってるんじゃ。そんなことをいってると、ロクな大人になれないぞ。がはははは!」
「でも、どうしても服が必要なのです。お金を貸してください」
ぺこりと頭を下げる。
でも、やっぱり、お金は貸してもらえなかった。
「織物ならアメノハヅチが得意だろう。織ってもらえるように、お願いしてみたらどうだ?」
アメノハヅチ姉さん!?
あの人のとこには行きたくないのだ。
とっても恐ろしいお姉さんなのだ。
わらわの命が危険で危機で危ないのだ。
*
高天原 イザナギ邸
夜
カグツチへの連絡も済んだし、今度はアメノハヅチに連絡だな。
ワシは電話を掛けた。
「もしもし、ワシだ、ワシ!」
「ワシって、なに、オレオレ詐欺みたいなことしてるんですか?」
「あははは。ワシだよ、イザナギだ」
「わかってますって。で、今日はなんの用なんですか?」
ワシは要件を話した。
「今からそっちに、シナトベが向かうと思う」
「あら、シナトベちゃんが来るの? 珍しいわね」
シナトベがアメノハヅチのとこに行ったのは、まだ小学校に入る前のことだったな。
制服を縫って貰ったっきりだ。
「シナトベが初めての信徒を持ってな。その信徒用に服が欲しいらしいんだわ」
「織ってあげればいいのね?」
「いや、タダで織ったらダメだ。なにか見返りを求めてくれ」
「わたしは信徒の服ぐらい、タダで織ってもいいわよ」
「いや、それじゃシナトベの為にならない。必ず見返りを求めてくれ」
「見返りって……なんでもいいの?」
「なんでもいい。シナトベの初めての信徒だから、後悔しないように自分の力だけで全てやらしてやりたいんだ」
ワシの初めての信徒の時は、周りに頼りっきりだったからな。
すんなりと事は運んだが、自分の力でやり遂げたという充実感はなかった。
だから、シナトベには自分の力だけでやり遂げてほしい。
後悔だけはしてほしくない。
それが神格を上げることにもつながるだろう。
アメノハヅチからは、感心するような声が聞こえた。
「あら、随分と厳しいわね」
「俺の愛娘だからな」
「わかった。シナトベちゃんが来たら、服を織る代わりに見返りを求めればいいのね」
「ああ、頼む。見返りは手伝いでも何でもやらせていいぞ」
「なら、可愛がってあげるわ」
この時、アメノハヅチが良からぬことを考えていたのを、シナトベは知らなかった。




