株分け
王都の薬師ギルドへのポーション納品を三日後に控えた今日。
とんでもない物を見つけてしまった。
株分けだ。
刈り場で大切に育てていた薬草。
その薬草が、ゴッソリ引っこ抜かれて別の場所に植えてあった。
しかも新たに植えてある場所が、より薬草の育成に適している場所。
僕の把握している収穫時期をずらし、出し抜こうとしている。
かなりやり手の薬草屋だ!
これはマズいことになった。
きっと山のほとんどの薬草は採りつくされているだろう。
僕は戦慄を覚える。
三日後のポーションの納期が間に合わなくなるかもしれない。
でも、辺りを調べてみたが、他の刈り場は無事だった。
一か所だけの株の入れ替え?
どういうこと?
僕はひとり悩む。
もしかして僕を試している?
僕は必死に他の刈り場の株の入れ替えが無いか探しまくる。
そして見つけた。
株の入れ替えじゃないけど、山の中で行き倒れている女の子を!
一〇歳ぐらいの女の子だ。
僕よりずっと小さい子だった。
このあたりの村では見たことのない、ガウンに似た服を着ている子だ。
この服には見覚えがある。
たぶん、はるか東にある国の服だったと思う。
少なくとも、この国の服じゃなかった。
それもかなり豪華な服だ。
貴族の娘なのは間違いない。
なぜに貴族の女の子が、こんなところにいるんだろう?
ここは街道から外れた村の山の中だぞ?
女の子は意識が戻ると同時にお腹からとんでもない音を鳴らす。
「ぐきゅきゅきゅきゅ~!」
まるで野獣の叫び声。
お腹から出たとは思えないほど大きな音だった。
僕が現れたのに気が付いた女の子がガバッと立ち上がり僕に抱きつく。
ガシリ!
うは、すごい力!
女の子の力とは思えない物凄い力だ。
引き剥がそうとしても、僕の力じゃ剥がせない!
こんなに力が残っているなら、行き倒れないでさっさと山を降りればいいのに。
女の子の腕に一層力がこめられる。
「逃がさないのだ」
「た、助けて!」
僕は涙目で助けを乞い、涙目で尻もちをつく。
女の子も涙目で必死に僕に訴えた!
「お腹がすいたのだ! なんでもいいから食べものが欲しいのだ!」
相変わらず女の子の腕に込められた力は強く、どうやっても僕から引き剥がせそうも無いので仕方なしにお弁当をあげた。
少し遅い昼食で食べようと思っていたお弁当だ。
まあ、一食ぐらい抜いても薬草ぐらい集められる。
めっちゃ、お腹空くけどな!
女の子はお腹が空いていたのか一瞬でお弁当を食べて……喉に詰まらせた。
「み、み、ず~」
「そんなに慌てて食べるからだよ」
目を白黒して、胸を叩いてバタバタしている。
僕は水筒のふたを開けて水を女の子に与えたら、女の子はこれまたとんでもない勢いで水筒を飲み干した。
「うんく、うんく、ぷはー!」
女の子は水でお弁当を胃に流し込むと、息を吹き返した。
立ち上がり礼をいう女の子。
ふんぞり返っていて、礼をいっている態度じゃないけど。
「お主のほどこしのおかげで助かったのだ。感謝するぞ」
言葉のほうも、態度と違わず、ずいぶんと偉そうだった。
きっと、どこかのお金持ち貴族の娘で、世間知らずの女の子なんだろうな。
でもまあ、僕より歳下の童女のすることだ。
こんなことでは僕は怒らない。
それよりもどうやってこんな山の中に迷い込んだのか聞いてみた。
「こんな山奥で、なにをしていたんだ?」
「駕籠に乗って移動していたのだ。でも、居眠りしていたら落っこちたのだ。気が付いたらこの山に居て、迷子になっていたのだ」
駕籠って東の国の馬車みたいなものだっけ?
駕籠で移動してたって事は、やっぱりお金持ちの迷子さんか。
それでこんな山奥をさまよっていたと。
じゃあ、さっきの薬草の株の植え替えをした奴はだれだ?
他にも誰かいるのかな?
僕は不安になる。