薬草屋の少年
僕はいつものように、薬草を集めていた。
なぜなら、薬屋の息子だから薬草を集めるのは当然のこと。
そこら辺のにわかの冒険者の薬草取りには負けないよ。
子供の頃は失敗もあった。
薬草取りは、株の中の一番育ちのいい一茎だけ残すのが常識。
それを知らない僕は、刈り場に生えている薬草を一茎も残さず全部狩り尽くしてしまった。
全ての葉を失った薬草は、日光から養分を得ることが出来ず、根も死滅。
その刈り場からは二度と薬草が生えてくることは無かった。
僕のせいで狩り場が全滅。
あの時は、親父にコッテリと怒られたな。
でも、今はもう、そんな失敗もないよ。
六歳からずっと薬草を集めている筋金入りの薬草屋だ。
もう一〇年も村の周りの山で薬草を集め続けている。
ここ2~3年で始めた素人じゃないよ。
今日は薬草採り以外でちょいとやる仕事があるんだ。
まだ繁忙期前で余裕のあるうちに、薬草の育ちそうな場所に株分けをする。
新たな薬草の刈り場を増やす為さ。
株分けのお陰で、僕の村の周りの山では薬草が沢山採れる。
薬草って面白いんだよ。
普通に株分けしても、薬草には育たないんだ。
畑で育てると、薬効効果のないただの苦いだけの葉物野菜にしかならないんだよ。
元々薬草は、雑草や野菜と変わらない種類の植物らしいんだ。
その植物に魔力がこもって初めて薬草になるんだって。
魔力のある土地に生えるドリアードの木の近くや、魔力の塊の精霊石の眠る地層からの石清水で育って初めて薬草になるんだ。
そんな場所を覚えるところから、薬草取りは始まるんだよ。
でもね、僕以外の人がこの村の周りで、普通に薬草を探しても絶対に見つからない。
なぜかって?
村周辺の山は僕のテリトリー。
僕が薬草の刈り場を管理しているからなんだ。
【育成管理】
僕はそう呼んでいる。
薬草の生える場所、薬草が育つ時期、これをすべて覚えて初めて薬草が採れるんだ。
薬草の生えていない刈り場を探しても、当然薬草は採れない。
生える場所は、決まっているからね。
場所だけじゃない。
収穫の時期がズレても熟成した薬草は採れないんだ。
成熟前のものを採取しても魔力がこもっていないから雑草と変わらない。
未成熟の薬草はただの雑草。
ポーションの材料にならないから、二束三文でも買い取ってもらえない。
『場所』と『時期』をあわせて把握して、初めて満足いく量が集められるようになるんだ。
村の周りの刈り場はすべて僕が【育成管理】している。
だから、ライバルが来たとしても、薬草を採ることは難しい。
そういえば、こんなこともあったよ。
四年前に王都の薬草屋が村に引っ越してきた。
この村の周りに良質な薬草の刈り場があることを聞きつけたらしい。
たぶん、情報が漏れた元は行商人のおっちゃんだ。
四〇歳を超えているのに口が軽くて困る。
世間話も、うかうか出来ないね。
村に新たに現れた薬草屋は素人じゃなく、経験一〇年で三〇代のかなりのやり手だった。
僕の株分けした薬草の刈り場をすぐに見つけてしまった。
それだけでは無い。
薬草の成長を見て収穫時期も把握してしまった。
ここまでできる薬草屋は珍しい。
かなりの腕だった。
でもね、僕の商売敵にはならなかったね。
こんな時の対処法は、父さんから教えてもらっていた。
そのライバルを出し抜く方法さ。
ライバルが刈り場を見つけてしまったら、採算度外視で肥料を与えて成長を早める。
肥料と言っても畑に使う肥料じゃないよ。
薬草専用の魔力のこもった魔堆肥。
ちょっとお高いけど、薬草の成長期間が半分になるんだ。
株の入れ替えで、意図的に収穫時期をずらすのも効果的。
そうされると、資金の乏しい他所から来た薬草屋は太刀打ちできない。
結局、満足な数の薬草を採れずに、翌年には村を去って行ったよ。
かわいそうとは思うけど、僕には生活がかかっている。
僕と父さん母さんの生活だ。
負けるわけにはいかない。
僕は今日も薬草を集め続ける。