第二話
「なあ、これから一色さんの歓迎会があるんだけど…」
あれからいつも通りの一日―透はほぼ誰とも喋っていないけれども―が過ぎた。透が帰ろうとすると、純が話しかけてきた。
「行かないよ。それに、ほら、そういう雰囲気じゃないだろ。」
純の後ろの教室の出口辺りで、クラスメイトが声を潜めて喋っていた。恐らく陰口だろう。
「お前、なんであんな事言ったんだよ。一色さんが可哀想だろ。」
「関係ないだろ。じゃあな。」
透は教室を後にした。
透は生まれつき『エンパス』という力が備わっていた。エンパスとは他人のエネルギーから、思考を読む力のある人の事だ。ただ、透はそのエネルギーから少し先の未来まで見ることができる力をも、持っている。但し、これは意図的に発動させることが出来ず、見えるのも殆ど不幸なケースだった。
弱い雨が降り出した。
(今すれ違った人、多分どこかで怪我するな。あの歩道橋かもしれない。)
その男は階段から転げ落ちた。周りは騒然としている。
「大丈夫ですか!」
「救急車だ!救急車!!」
透は力で予知できても、人を救うことはない。結局は本人が注意していれば、透が力で見ることも無かったのだ。自業自得だ。
「よっ!、嫌われ者君じゃないか〜。」
急に現れたのは一色美月だった。彼女はスカートをヒラヒラさせ、透を下から覗き込んだ。
「なんで君がいるんだ?歓迎会じゃなかったのか?」
「ちょっと抜け出してきちゃった。それよりさ、今朝の関わらないでって…どういう事?」
彼女はこれまで透が見たことがないほどの強い負のオーラを持っていた。きっと、彼女は死んでしまう…。透は関わると後々面倒だと思ったのだ。
「だから、関わって欲しくないんだよ。ほら、歓迎会行っておいでよ。君のための会なんだから。
「だから、私は理由を聞いてるの。理由が無いわけないでしょ?こんな美少女に話しかけられて反故にするなんて、よっぽどの事が無いと…ねえ?」
「別に、話す義理はないだろう。ほら、どっか行きなよ。」
「君は強情だなあ。じゃあ、教えてくれないなら明日学校で襲われたー!って言っちゃうよ?」
「それは流石にずるいよ。そんなに僕を追い詰めたいのかい?」
すると、彼女は急に神妙な面持ちになった。
「違うよ。ただ、君に興味があるだけだよ。ほら、早く言わないと本当に脱いじゃうよ?」
最後には、ニヤリと笑って彼女はそう言った。
通り雨のせいで透たちはたまたま近くにあった喫茶店へと移動していた。そこで、透は自分が不完全ではあるが、未来を予知できることを伝えた。彼女は特に信じていないのか、終始ニコニコしながら聞いていた。
「ふ〜ん。じゃあ私、死んじゃうんだ。」
「君、信じてないでしょ。」
「いいや。信じるよ。面白そうだからね。」
彼女は柔らかな表情でそう言った。だが、一転して何かを企むような表情に変わった。
「でも、嫌われ者君がそう言わなかったら私は何も知らず死ねたのになあ~。」
彼女が面倒なことを考えているのを透は感じ取った。
「何が言いたいの?僕はもう帰るよ。」
「まだ雨が降ってるよ。もう分かってるでしょ?私が死なないように、君に守って欲しいの。」
彼女は立ち上がった透の服の裾を掴み、上目遣いでそう言った。
「嫌だよ。君といると僕まで死んでしまうかもしれない。」
「でも、少しの間でも、こんな美少女と過ごせるのよ?そのリスクを負うメリットはあるじゃない?」
「君は自身を過大評価し過ぎだよ。僕は死ぬことの方が怖い。」
「そんなこと言って、私の方が死ぬことが怖いに決まってるじゃない。君はこの話をした時点で私を守る責任が課せられたの!」
確かに、透が言わなければ、彼女は転校生として、2年9組の生活を普通に送り、どこかで死んだだけだろう。だが、彼女が、透の話を信じると言うのならば、彼女は死の恐怖に怯えなくてはならないのだ。
「分かったよ。具体的には、何をすればいいの?」
「今から、私の歓迎会に来て、みんなの前で私に謝って。」
「なんでそんなことを…そんな必要ないだろう。もう訳を話したじゃないか。」
「駄目だよ。君はこのままクラスメイトに誤解されたままになるんだよ?」
「いいよ、そのくらい。どうせ高校だけの付き合いなんだから。」
「君は冷淡だなあ。生きづらいよ?この先。」
「構わないよ。僕は一人でも生きていけるから。」
彼女はその言葉を聞き考え込んでいるようだった。暫くして、唐突にこう言い放った。
「分かった。君を人間にしてあげよう。」
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