第一話
目を覚ました。眠い目を擦りながら窓を開け、ベランダに出る。徐々に気候が春らしくなってきた。サラリーマンが焦って走っていた。あの人は『赤』だ。きっと電車の時間が危ういのだろう。対照的にゆったりと朝のウォーキングを楽しむ老夫婦がいた。あの人たちは『オレンジ』。何か楽しみなことがあるのだろうか。
いつも通りに朝の支度を行い、桜並木の下通学路を通って学校に着く。校門で生徒指導が騒いでいた気がしたが、模範生の透には関係ない。いつもの教室…ではない、つい最近進級したのだった。まだ見慣れぬ生徒や顔馴染みの奴等がいるが、皆『青』や『黄色』だ。不安や期待の色である。中には教室の隅で本を読み耽っている者で『白』の者もいるが、、
「よう、透。相変わらずシケた顔してんな。」
彼は下田純 。去年からクラスが同じで、最初に話しかけてきたのが純だ。気さくな奴で、友達も多い。
「うるさいな。それよりお前腹の調子が悪いのか?
」
「まだこのクラスに慣れないのだよ。ていうか、また『視た』のか、本当にオーラなんてもの見えてるのか?」
「ああ、例えば、お前イチオシの日高さん、今イケメンの堤と喋ってるだろ?お互いに淡い『黄色』だ。もうすぐ付き合うんじゃないか?」
「何!先を越されたか!!」
「お前じゃどんなにアピールしても無理だと思うけどな…」
透のクラス、2年9組の担任は淡々とホームルームを進めていく。このベテラン教師は生徒に対する熱量が無い。きっと若い頃は活気に満ちていただろうが、教師の激務に忙殺されたのだろう。そんな教師が唐突に言い放った。
「新学期始まって早々だが、転校生が来たぞ。」
眠たげであったり、スマホをいじっていたりした生徒達が一気に色めき立つ。『黄色』がクラスを占めている。
「先生、男子ですかー?女子ですかー?」
「ああ、女子だぞ。おーい、入ってこい。」
クラスの約半数が落胆したところで転校生は現れた。
礼儀正しく、両手で扉を開け入ってきた転校生はサラサラの髪をふわりと靡かせながら、小走りで教壇へと向かった。口元は微笑んでいて、とても可愛らしい。
「一色美月です。よろしくお願いします。」
彼女は、ぺこりと頭を下げた。
彼女の席は純の隣になった。純は早速アタックを開始している。まったく、現金な奴だ。暫くして、透の方を指差して話しているようだ。透は気になって見ていたら、彼女と目が合いニッコリと笑って会釈され、慌てて会釈し返す。
やっとホームルームが終わり、彼女は怒涛の質問責めに遭っているようだ。すると、純が透の方へ寄ってきた。
「なんだ、お前は話してこなくていいのか?」
「ああ、俺は日高ちゃん一筋だからな。それよりも、お前、感謝しろよ。」
「何?」
「さっき喋った時にな、美月ちゃんに『あそこに座ってるの、透っていうんだけど、人のオーラとか見えちゃう人なの!よかったら声かけてあげてね。』って、俺結構いい仕事したよな?俺が作ってやったチャンス無駄にするなよ〜。」
そういう事だったのか…
「僕は恋愛とか興味ないっていつも言ってるだろ?余計なお世話だよ。」
「そんな事言わずにさ、ほら、早速きてくれたじゃないか。」
彼女はまた、小走りでやって来る。輪の中心にいた、彼女が抜けたので、必然的に透たちの元へと注目は集まる。
「あの、初めまして。一色美月です。」
改めて見ると、とても整った顔立ちをしている。透き通るような白い肌に、ぱっちり二重の目、何処かのアイドルグループのメンバーでいそうな顔だ。
「どうも。」
「ねえねえ、人の、オーラ?が見えるって本当なの?」
「まあ、一応。」
「私って、どんなオーラ?やっぱりキラキラしてる?」
冗談交じりに言っているようだが、彼女は本心でそう思っているかもしれない。
「人の性格とかは分からないよ。大体何考えてるか分かるくらいかな…!!」
彼女からは、『青』―少しの不安―と、『黄色』―安心―が見えたのだが、それだけではない彼女の胸の辺りにはドス黒いカタマリのようなものが見えた。
「何?どうしたの?」
「あー、ごめん。ちょっと、俺には関わらないでくれるかな?」
透は立ち上がり、廊下へと歩いていこうとする。彼女は呆然としていた。
「おい、ちょっと待てよ!初対面でなんだよその態度。」
純が声を荒げて言い、透の肩を掴んだ。
「悪いな、純。せっかく気を利かせてくれたのに。」
透はそれを振り払い、行ってしまった。
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