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今回はとても短いです。
凜が悪魔と対峙していたのと同時刻、乱は五体の悪魔を相手取っていた。
さて、一体一体殺していくか。
一番近い悪魔に詰め寄る。
「『ライトニング』」
右の足が光る。その足で悪魔を蹴ると跡形もなく悪魔が消える。
乱が使った『ライトニング』は聖女のみが扱うことのできる光魔法。対悪魔魔法。光を体に纏わせ悪魔を消滅する。
残りの悪魔は乱に向かって魔術を発動する。火の玉、水の斬撃、雷に石のつぶて、避けることはできるが容易には近づけない。
敵の攻撃を避けながら『閃光弾』とつぶやく。乱の手のひらに小さな光の玉が現れる。それを地面に投げるとまばゆい光を放つ。悪魔にも視覚はあり、目がつぶれる。
光はすぐには消えない。その光の中乱が一体の悪魔に近づく。
「『レイブフォール』」
悪魔の頭上から溶岩が流れる。悪魔を溶かし、飲み込み乱の足元に流れ消える。溶岩が消えると乱は持っていたナイフで残りの悪魔の首を切り落とす。切り口から赤い液体が流れる。
「やっぱり直接手を下すのが性にあっているな――さて、『ファイア』」
首を切り落とされた悪魔が燃える。
「悪魔さんご感想はどうですか。私のいたところでの一般的な死体の処理の仕方なの。温度は控えめに千度よ。あ、周囲に燃え移らないか心配?大丈夫よ。対象だけを燃やすものだから――」
燃える悪魔を見ていた乱は振り返る。
「――だから安心して燃えなさい!『火鳥』!」
火の鳥が何者かがいるところに向かって飛んでいく。木の裏へと火の鳥が隠れる。
「うわ、あっつ! ばかばかばかばか! 服が燃えたらどうする気だったの!?」
火の鳥を素手でつかんだ女の子が出てきた。
「この服お気に入りなんだから!」
空いた片手で服をつかみ乱に怒りをぶつける。
乱はその女の子を見て眉をひそめた。そして、気づいた。こいつは男だと。
直感だった。具体的な理由はわからないが。だけどもこいつは――男だ!
「それとこれ返す、ね――そい!」
女の子が火の鳥をぎゅっと握り振りかぶって乱に向かって投げる。
「――っ!」
速いと思ったときには既に額に当たっていた。火と言っても形がある。質量がある。痛みが乱を襲う。そして上半身が反り返る。
俺が見えなかった……?追いつけなかった……?はは……そんなこと――あっていいわけがない!
己を鼓舞し、体を起こし相手に突進する。そのままの勢いで頭突きをかます。少女――女装した少年は反撃が来るとは思っておらずもろにくらう。乱は休むことなく殴りにかかる。少年はよろめきはしたがその拳はなんなく避ける。だが避けられるのは想定内。突きに掌底。
あ、突きと掌底って被っているけどまあいいか。
様々な流派が混ざった独特な型。幼少期から国内外問わず多種多様な武術、剣術などを叩き込まれてきた乱に決まった型はない。
乱の止まることのない予測し難い攻撃は少年を防戦一方にさせた。少年はイラついていた。
「あーもう!うざいな!『ジェイルケージ』!」
地面から乱を囲うように鉄格子が出現しそれは檻となった。それは人が一人入れるだけの大きさで乱だけが囚われた。
「あはははは!その狭さじゃ満足に動けないよ!あ、ちなみにその檻そう簡単には壊せないからね。魔法はとっぽど魔力がないいと無理だよ。君はそこら辺の人間より魔力はあるけど無理だねー」
あははは、と楽しそうに笑う。乱は鉄格子を握り少年をじっと見た。
『ジェイルケージ』は込めた魔力が多いほど堅牢になっていくからこれはだいぶ魔力が込められているな。素手じゃ無理か仕方ない。
「『ヒート』」
乱の輪郭が揺らめいてく。体が熱を発している。
「『ヒート』」
さらに熱くなる。
「『ヒート、ヒート、ヒートヒートヒート』!」
鉄が赤くなり歪む。にやりと笑い、檻から何事もなかったかのように出る。
「な、なんで!どこにその魔力が!」
「ふふふ……能ある鷹は爪を隠すのは当然でしょう。簡単に自分の本当の魔力量を推し量らせると?」
不敵に笑う。艶やかで恐怖を植え付ける。
「さて、そろそろ帰りたいから終わらせるわよ」
笑みが消える。少年との間合いを詰める。少年は魔力を大量に使って思うように動けない。その少年の腹に一撃をいれる。
「がっ――」
女の子声ではないうめき声が漏れる。
「ついでに魔力も頂戴な――『魔力吸収』」
少年の残っていた魔力が乱に流れる。腕を引くとそのまま少年は地に伏せた。
「ごちそうさま。ありがとね」
乱は少年に礼を述べ立ち去ろうとする。
「ま、まって……」
引き留めてきたので足を止める。
「い、一個だけ聞かせて……ど、どうして……悪魔を殺したの……」
「頼まれたから」
少年の問いに怒りも恨みもましてや正義感など欠片もない平坦な声で答える。
振り向いて首を傾げる。
「それ以外なにもないわよ?」
綺麗な笑み。完璧な笑みがどこかうすら寒いものを感じさせる。
少年はその笑みを見ることなく気絶した。
乱は少年が気絶したのを確認すると背を向けた。
「何をやってるのパイン。起きなさい」
ヴァレが少年――パインを蹴る。パインが仰向けになるが少し呻いただけでそれ以外は反応がない。
「はあ……めんどくさいわね」
パインを担ぐとゆっくりと森の中に入っていった。
「後で主にたっぷり怒られるといいわ」
毒づきながらもしっかりとパインを優しく担いでいた。