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遅くなりました

 翌日、空が白み始めた頃二人は目を覚ました。昔から二人は早く起きるように習慣づけられている。


「おはよう」

「おは……」


 凜が乱に朝の挨拶をする。乱は基本的に朝に弱い。しっかりする時はちゃんと起きるがそうでないと機嫌が悪い。


「眠てえ……おやす――ぐふっ!」

「寝るな」


 凜が乱のお腹に拳を叩き込んだ。

 痛みで目が覚めた乱は凜を睨みつける。


「ほら、行くよ」


 乱をこうやって起こした後はいつも睨まれているので気にしない。


「……待って。かつらつけるから」


 枕の下からかつらを取り出してつける。


「完璧!」


 腰に手を当てて胸を張る。凜はそれを無視して下へと降りて行く。


「え、ちょっとは待ってよ!」


 慌てて凜を追いかけ乱も一階へ行く。

 一階には既にガンジがおり、お茶をすすっていた。


「よお、お前さんら。早えな起きるの。まだ寝ててもよかったぞ」

「おはようございます。いえ、元からこれぐらいに起きてたので気にしないでください」

「ガンジさん、おはようございます」

「おはよう。それならいいんだ。朝飯はまだ準備してねえから少し待ってくれ」


 ガンジが立ち上がり台所に向かう。


「手伝います」


 凜もガンジに続いて行く。


「あ、わた――」

「乱はいい」

「お前さんは待ってろ」


 乱が私も、と言う前に凜とガンジが同時に制す。

 乱はとても料理が苦手である。なぜかどのような料理を作っても異常なほど不味くなってしまう。昨夜、ガンジが料理の腕を見たいということで乱に料理を作らせた。凜が乱の料理は不味いと説明してもガンジは食えないほどではないだろうと思い凜の忠告を無視して作らせた。出来上がった料理は見た目は綺麗だった。見た目は。それを口にしたガンジは一瞬で顔が青ざめ、吐いた。


「う、うう……待ってます」


 乱も自分の料理が不味いことは知っている。だが、なぜかあきらめない。頬膨らませながら横を向く乱を見て凜はいつになったらあきらめてくれるのだろうかと息を吐いた。




 朝ご飯を食べ終えた三人は近くのメル村にやって来た。露店が並び賑わいを見せている。


「ああ、今日は日曜か。すっかり忘れてたが丁度いいな」


 今日は日曜日なのか。昨日ガンジさんに教えてもらってわかったがここの暦は元いた世界と同じだった。それにここには四季があると。ここまで同じとはなんとも過ごしやすい。


「やあ、種花(しゅか)。今日はいい魚入っているか?」

「あら、ガンジじゃないかい。勿論さ! 今日も朝から港へ飛んで仕入れてきたんだ。さあ! 買っていきな!――ところで……連れの二人は……まあ! なんとまあ別嬪さんにかわいい少年じゃないかい! なんだいあんたやっぱり女だったのかい。で、一体いつ生んだんだい?」

「阿保か! 俺は男だ!」


 ガンジが種花の言葉に猛然と反論する。ほほほと笑って種花がいなす。


「そんなこと知ってるわよ。ちょっとしたジョークよ」

「たくっ……まあいいがよ」

「ありがと。魚おまけしとくわね。で、その子達は誰だい? ここらでみたことない服だけど……」

「俺の親友の弟子さ。親友が別大陸に行くことになってよ。それで俺が預かってるわけさ。な、そうだろ?」


 そう言って凜の頭を数回軽く叩く。


「へぇ、そうかい。名前はなんて言うんだい?」

「凜と言います」

「乱です」


 凜と乱がそれぞれ名前を言う。


「蘭ちゃんに凜くんかい。あたしは種花って言うんだよ。種の花って書いて種花だよ」


 種花も同じように名前を告げる。種花もガンジと同様に乱の名前を()と間違えた。


「ところで種花。ハギはいるか?」

「ハギは今協会にいるよ。日課の礼拝をしているところさ、しばらくは戻らないだろうね」


 やれやれとあきれた風に言う。


「そうかい、ありがとな。あ、そこの魚もくれ」

「127円さ――まいど! また来てくれよ!」


 種花の店を後にし、そのまま露店が並ぶ通りを抜け村はずれの教会へと向かう。

 教会の中にはぽつぽつと人がいて祈りを捧げていた。

 祈りを捧げている一人の男に近づいて行くガンジ。


「よおハギ。毎日毎日殊勝な心掛けだな」

「いきなりなんだ。ちょっかい出すだけならとっとと出て行け。ここは祈りを捧げるところだ。お前みたいな信仰心のかけらもない奴がくるところじゃねえ」


 祈りを止めることなくハギはガンジに出て行くように促す。


「はっ、よう言う。お前かて信仰心なんてかけらもないだろ。今日は頼みがあって来た」


 信仰心がないのに祈りに来るだろうか、そう疑問に感じた凜だったがそんなことは会話をしている二人には関係ないことだった。


「お前が俺に? 一体どういうのだ?」


 祈りを止めてはガンジを見る。


「ここじゃなんだから外に出るぞ」


 あごで外を示す。ハギは立ち上がりそこでようやく凜と乱に気づいた。


「誰だこいつら」

「それも外で話す」

「そうかい」


 四人は教会から出て誰もいない広場にやって来た。そこでガンジがハギに種花と同じように凜と乱の話をした。


「はっはっはっは! お前ら魔法も魔術も使えねえのかい! いやあこいつは教え甲斐があるな」


 話を聞きいた後二人に教えるのが楽しみなのか高笑いをあげる。


「ひーお腹痛くなってきたわ。で、お前ら魔法、魔術についてどれぐらい知っているんだ?」

「何も知らないぞ。どうせお前、俺が教えていたとしても一から説明するだろ」


 凜がまったくわからないです、と答える前にガンジが答えた。


「ふーん、そうかい。――おい小僧。試しに魔法を使え」

「え?! いやいや、できませんよ」


 何を思ったかハギが凜に魔法を使うように促すが、勿論凜は拒否する。


「いいからやれ。ほら『ファイヤ』って言いながら手のひらから火が出るイメージをしてみろ。そしたら出る」


 凜の拒否など意に介さずさらに促す。

 ハギに引く様子はなく、やるしかないのかとあきらめ息を吸う。頭の中で自分の手から火が出るイメージをするが映像にならず渋面を作りながら


「――『ふぁ、ファイヤ』」


 手のひらを上に向け『ファイヤ』と言う。何も起こらない。


「だ、だから言っただろう!できないって!」

「いや、できねえ方がおかしいからな。子供だってできるからな」

「り、凜……無理はしないで……」


 ハギに煽られもう一度凜が息を吸う。それに対して乱が心配そうに声をかける。

 さっきと同じように『ファイヤ』と言うがやはり何も起こらない。妙な静けさが落ちる。誰も何もいわなかった。そしてそれを破ったのは凜だった。


「だって手から火が出るっておかしいだろ! 人から火が出る!?はっ、ありえない!」


 それは心からの叫びだった。

 漫画などの手から火が出るのはそういうものだと認識はしていて疑問視してはいないが実際自分となると理屈が全く分からず想像ができない。


「え、えーと……わ、悪い。あ、蘭お前やってみろ」


 凜の勢いに気圧されハギは思わず謝った。凜にこれ以上やらせないでおこうと思い今度は乱に促した。


「ん? 私?」


 乱が自分を指さす。


「まあ、いいけど。えーと、手を上に向けて……『ファイヤ』」

 

 そう唱えると乱の手のひらから火が出た。その火を見て凜が口をあんぐりと開ける。

 いや、乱ならすぐできるだろうと思ってたけど……思ってたけど!!


「筋がいいなあ! それに比べて……凜は、その……あれだ」


 ハギの言葉が詰まる。なんと声をかければいいかわからないようだ。


「ほら、手から火が出るイメージで! ほら!」


 乱が凜を励ます。


「それがわかんねえよ……」


 情けない声を出しながら『ファイヤ』と何度も言うが出る気配さえしない。

 その様子を見てたハギが少し考えこんだ後


「……魔術はどうだ?」

「魔術?」

「ああ、魔法陣を使うものだが、陣が術式になっているから想像する必要がない。ただ魔法陣を正確に描くか正確に覚えて完全に思い浮かべる必要がある。少しでもずれると全く別のものになったり発動しなかったりするから面倒だ。ちょっと見てろ」


 ハギがそこらへんに落ちている木の棒を拾い地面に魔方陣を描き出した。描き終えると陣にそっと触れる。すると陣が光始めた。


「おお!」

「すごい綺麗……」


 凜と乱が感嘆の声を上げる。


「こんなもんだ。後は……」


 ハギが立ち上がり地面の一点を見つめる。するとそこにさっきとは違う魔法陣が現れ火の柱がすごい勢いで天に上る。

 火の柱を見て凜と乱は唖然とする。


「まあこんな感じだ。魔術の方が魔法よりも魔力の消費量が少ないのと魔法は同時に二つまでだが魔術はその制限がない。たださっきも言った通り陣がずれちまったら使い物にならねえのと戦闘中に描いている暇はない。手前の頭が要求されるんだよ」


 かーっ、本当に面倒なものだな。ハギが自分の頭を乱暴に掻く。

 ハギの説明を聞いて凜はこれなら、と一つに希望を持っていた。


「ほら、基本的な魔法陣はこの本に書いてあるから持ってけ。お前はこれでひたすら陣を覚えろ」


 薄い本を懐から取り出して凜に手渡す。


「蘭、お前は今から俺が基本の魔法を見せる。そこからは自分でやりやすいようにやれ」


 そこからハギは乱につきっきりで魔法を教え、凜はひたすら魔法陣を覚えていった。



魔法、魔術に関しての区別に関しては本来のものとは異なりますがこの世界ではこういうものとして扱っていきます。

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