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 屋敷に戻る途中で乱とカイに会う。二人とも迎えに来てくれたみたいだ。


「服、血で汚れているけど悪魔来たの?」


 開口一番にそう訊ねられ起きたことを簡単に話した。。自分の考えも含めて。


「やっぱり思った通り。貴族より下、と言うよりその時の最下層の人間を囮にしていたのね。凜の見たものからすると悪魔はある程度“遊ぶ”と飽きて帰るというところかしら。」


 にやりと口角を上げる。楽しそうに語る姿になによりこいつが悪魔なのではと思う。頼むから私以外の前では悲痛な顔をしてくれ。


「貴族、おそれと一部の財力ある人たちが率先してやってるのね……どうりで悪魔と戦っているわりに街が綺麗なはずよ。」


 一度も本格的に戦ったことなどないのだろう。戦いを避けられる方法があるのならそれを選ぶのも無理のない話だけども


「人間って最低だな。同族を犠牲にするとか。」


 ぼそりとカイが呟く。不快感をあらわにした目を乱へと向ける。


「言っておくけど知性体、感情を持つ生き物の宿業よ、これ。まるで自分は、いえ、自分たちはこんなことしないと思っているみたいだけどそんなことないわよ。」

「……俺たちを馬鹿にしてるのか?」


 二人がまたにらみ合う。勝手にしてくれとそちらから目をそらす。何度言っても聞かないしこれに関しては触れる気はない。私も乱の意見に概ね賛成だ。悪いことだけどもそうしてしまうのには納得してしまう部分がある。


「弱者を切り捨てるなんて当たり前。弱者を助けるにはまず余裕がないと。窮地に追い込まれてそれでも全て助けると? 見上げた自己犠牲ね。それこそ生きること諦めた弱者と私は断じる。」


 腕を組みはっきりとカイを見下す。自分の言葉に嘘偽りはないと、これこそ私の考えだと一切の揺るぎを感じない。


「人間と一緒にするな! ここでお前を殺してもいいんだぞ?」


 わずかに牙を見せ乱を威嚇する。それを受けて乱の眉間皺が寄る。


「──力量を測れないなら私が殺してやる。自分の国に戻ってもどうせ野垂れ死にそうだもの」


 なら、先に殺してもおなじことでしょ。と語る目は本気だ。彼を殺すと殺意を漏らす。


「……お前嫌いだ。」

「あるがとう。私もお前が嫌いよ。」


 一触即発。そんな空気を醸し出し始める。


「話し終わったら戻るぞ。」


 ここらへんでいいだろう。話に一つ区切りがついたのだから。


「はーい、凜。」

「…………。」


 さっきまでと打って変わって笑顔になる乱にカイが胡乱気な目を向ける。この変わりの身の速さに関しては私も度肝抜かれるよ。


「他の皆は戻ってるんだよな。この街のことに関して憶測も含めて話すか……いや、そこらへんは瑠依さんとトーマスに任せるか。」


 酷いことかもしれないがこの街がどうなろうとそれは私達には関係ない。この国のことはこの国の人間が決めるべきだ。そこまで干渉する気は一切ない。一応それとなく否定のポーズだけして決定は向こうに任せるようにしよう。あくまで私達が決めたのではない。


 屋敷に戻り玄関の鳴らす。しかし誰も応対に出ない。訝しみながらも扉を開くと


「あなた達のしていることは人殺しです! 今すぐやめてください!」


 女性の怒声が響き渡る。声は坂本桜のようだ。どうも声の発生源は客間からで誰に言ったものかは十分に予想がつく。客間の扉を静かに少しだけ開け三人は縦に顔を並べ部屋を覗き込んだ。白熱しているのか誰も三人には気づいていないようだ。中では瑠依に羽交い絞めにされた桜がイオを睨みつけながら抜け出そうともがいている。


「おや、一体何のことですかね人殺しなど。それにしても……聖女にしてはなんと野蛮なことか。これでは家畜と変わらない。」

「──! まさか……まさかまさか! 人を家畜だなんて! 殴ってやるその顔!」


 意外と暴力的なんだと凜はのんびり考えていた。そしてその下で乱の口角が少し上がっていた。


「桜さんお願いします落ち着いてください! お願いですから!」


 大声を上げ桜を止めようとする瑠依。あんな声を張り上げるところを初めて見た凜は変に感心してしまう。

 ん? 瑠依さんの足元に誰かいるな、と視線を下げるとグレアが床に伸びていた。きっと坂本桜と一緒に暴れようとして気絶させられたのだろう。


「すみませんイオ様。きっと聖女様先ほどの戦闘で心を乱したのです。一度部屋で休ませていただけないでしょうか?」


 トーマスが一歩前に出て申し出る。


「確かにこの家に来た時とは大違いです。戦闘でお疲れになったのですね。わかりました。それではお休みになっている間に美味しいご飯に温かいお風呂をご用意いたします。」


 穏やかな笑みとと物腰の柔らかな物言いに桜はますます目を見開き眼光を鋭くする。瑠依がなんとか桜を引きずりながら扉の方へと向かってくるので三人は気づかれる前に与えられている部屋へと戻った。


「あの女結構凶暴なんだな。いっつも腑抜けた顔してたからさ」


 腑抜けと言うよりは笑顔ばかりが性格だと思うが。まあ、私もあれは驚いた、あんな怒るんだと。


「乱、何か話したのか?」

「私じゃなくて多分瑠依さんがこの街についての推測、いえ、あの反応からして事実でしょうね。話したか、もしくは怪我人の受け入れを拒否したか。」

「怪我人いたんだ……いや、いるよな。」


 土に埋めた少女のことを思い出す。もう少し早く見つけていればと思うが助けてどうするんんだ。一時助けてそこから家に帰るまで守り続けるとでもいうのか。


「拒否って、いや、まさかここも一枚かんでいるのか? てっきり一部の人間だけかと」


 領主としてそこまで表立ってはやらないと思っていたのだけど。


「どう見ても街ぐるみでしょ。瑠依さんもトーマスさんも気づいているみたいだし。私としてはどうでもいいんだけどね──私、聖女だから」


 冷淡なことの後に怪しく笑う。あくまで自分の役割としてのパフォーマンスしかしないと。


「俺は乱に従うよ。好きにすればいいさ。」


 二人だけにある妙な絆。信頼と言えばいいのか。しかしどうしてこんな危険な乱を野放しに好き勝手にさせているのかカイにはさっぱりだった。長い時間共にいたわけではない。それでも凜は常識的な面が多い。


「さて、そろそろ来るはずだけど……」


 乱がそう言って扉の方を見る。つられて二人もそちらを見る。誰かが走ってくる音。そしてそれはだんだんこの部屋に近づいてきており──ばん! と扉が勢いよく開け放たれる。


「蘭ちゃん! あの男ぶち倒そう!」


 握りこぶしを作った怒りの聖女が入ってきた。少し遅れて髪が乱れた瑠依もやってきた。そしてそれよりさらに後ろ見守るようにトーマスとグレア、そしてタユナが静かにたたずんでいた。


「……ぶち倒してどうするの?」


 優しく微笑みながら乱が問う。それに桜がきょとんとした顔になる。


「え、それはもちろんこの街を元の形に」


 それ以外なにがあるのと首を傾げる桜。彼女は本当に優しいし正義を持っている。


「元の形ねえ……。それは構わないけどあくまで私達の目的は悪魔を倒すことのはずだけど」


 優し笑みから一転、底冷えする瞳で問いかける。凜とカイはそれとなく部屋の隅に移動していた。巻き込まれ回避だ。


「た、確かにそうだけど! でも、それを命じられたのはこの街を救うためのはず! 敵を倒して、はい、終わり──なんて無責任にすぎるでしょ! この街の状況は明らかにおかしいです。悪魔の被害でここまではっきり差が出るはずがない!」


 そこにはきづいたのね。乱は少し感心する。


「気づいたのね。でも偶々では?」

「いえ、見たんです。戦いの最中男の人が子供を悪魔に投げつけるのを。」


 乱は記憶を探るがそんなの見た覚えはなかった。戦いに熱中していたし仕方ないと割り切る。


「桜さん。詳しくこと皆さんでお話ししましょう。中に入っても?」


 トーマスが話に割ってくる。確かに扉を開けたまま話すことではない。全員が中に入ると桜が瑠依とトーマスを睨みつける。


「二人とも知っていたんですね。あんなことしていると。」

「さすがにそこまでとは。せいぜい平民を見捨てている程度と。」


 淡々と瑠依が述べているが剣の柄を強く握り視線が鋭く怒りがあらわになっている。


「一つよろしいですか?」


 タユナが手を上げ発言の許可を求めてくる。乱が静かに頷き許可を出す。


「仮に桜さまが見たものが本当だとしてそれをする必要は? 悪魔であれば子供など一瞬で殺してしまいます。囮にもならないかと。」

「囮で、じゃないですかね!」


 こんな状況にありながらもグレアは笑顔で発言する。全員から冷ややかな目が向けられるが本人はさして気にしていないようだ。


「それに関しては俺が説明します。」


 部屋の隅にいた凜が声を出す。あの光景を思い出しながら説明する。


「多分ここの悪魔は人間をおもちゃのようだと思っている。人間を与えられそに遊び満足していくと返っていく。俺が見たのは一人の子供に群がる悪魔だった。他にも人がいたのにそっちには見向きもしていなかった。あくまで見た状況からの憶測にすぎないけど平民に被害が多いのは逆らえずそのまま悪魔の餌食にされたからだと思う。」


 これが分かったところでまず悪魔をどうにかしないと進展はない。


「そしてそれを先導しているのはイオ・ネルマールだと思う。ここまで街ぐるみでできるとしたらそうとしか考えられない。けれど実行しているのは別の──」

「──やっぱりあの男許せない!」


 ゆらりと髪が揺らめく。魔力が駄々洩れだ。


「許せないのはいいとして──たとえイオ・ネルマールをどうにかしたところでこの街はもう救えない。平民を犠牲にそれが根付いているでしょうね。」

  

 無慈悲な物言いだが誰もそれを否定しない。それがこの街の現状だと誰もが理解しているのだ。


「せめて、せめてひどいことをしている人たちをどうにかしたい。ここで悪魔を倒すだけで終わりなんて私は嫌です! ただ悪魔を倒すだけの機械にはなりたくない!」


 しっかりと乱の瞳を見て宣言する桜。真っすぐな彼女に誰もが心を打たれる。何も彼女は間違ったことを言っていない。聖女とは坂本桜のような人物を指すのだ。あんな邪悪な笑みを浮かべる女装男ではないと凜ははっきりわかる。


「……わかった。私も手伝うわ。私もこういうやり方は気に食わないの。それに外道を野放しにするわけにいかないわ!」


 協力するという言葉に桜は笑顔になる。後ろで瑠依がこめかみに指を押し当てている。


「お二人とも。決意新たには構いませんがどうするおつもりで?」

「ぶちのめします!」


 ぐっと再び拳を作る彼女に瑠依とトーマスが呆れる。


「桜ちゃん、ぶちのめすのは一番最後よ。まずは証拠をつかまないと。」


 確実にイオ・ネルマールを貶めるとしたらその方法しかない。ただ殴りに行ってはこちらが罪を問われる形になってしまう。


「蘭さんの言う通りです。ですのでまずは街で平民を犠牲にしている主犯の人物を探しましょう。その人物をつかめていきイオとのつながりを見つけるのです。しかしイオに感づかれないようにです。すぐに悪魔退治にいかず一旦見守ってからの行動をしましょう。」


 瑠依が言い聞かせるように、特に桜に向かって言い含める。瑠依は今日はここまでと全員に休むように伝える。そこで全員解散となった。

 みんなが部屋に戻る中最後に桜が振り返る。


「ありがとう! 蘭ちゃん!」


 ぺこりと頭を下げて彼女は消えた。それに乱は優しく笑ったが彼女が消えた後


「助けられるといいね?」


 と呟いた。


 

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