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「みなさん無事のようですね。魔物もすべて倒せましたし一旦戻りましょう。」


 全員の無事を確認し瑠依が指揮を執る。


「それは構わないけど凜はどうします? 西側を通っていくということかな。」

「私が迎えに行きますのでトーマスさん達は怪我人がいないか確認しながら戻っていてください。もしいましたら屋敷で治療しましょう。イオさんも快く受け入れてくれるでしょう。」


 とにっこりと笑う。そこに思惑など一切感じ取れない。


「さすが蘭ちゃん! 急いで確認してきます!」


 疑うことを知らない桜は意気揚々と走り出していく。その様子を見て乱は笑みを深める。凜がいたなら悪魔みたいな顔だと評してしただろう。


「では私も桜様とともに怪我人の保護にあたります。」


 一礼をし桜の後を追うタユナ。グレアも女性だけでは重症人がいた時運べないとついていく。残ったのは瑠依とトーマスだ。


「俺としては蘭ちゃんに賛成できないんだけどなあ。」


 トーマスが乱に苦言を呈す。


「……ここで起きていることを理解してもらった方がいいと思ったので。」


 そして坂本桜がどういう反応を見せ、行動を取るか見てみたいのだ。それにこれで悪事を暴き民を救ったとなれば必然的に私の株も上がるしね。


「私は賛成です。このような蛮行を見過ごすことはできませんので。私個人としては首を切り落としたいところですが。」


 殺してやると柄を強く握る手と目が語っている。


「それにしても蘭ちゃんいつ気づいたのかな?」

「とある人から聞きましたので。」


 人の形をしているだけの化け物かもしれないけど。人差し指を唇に当てこれ以上の詮索されても答えないと示す。


「さて、私達も行きましょう。カイと私は凜を迎えに行きますので屋敷でまた。」


 蘭が歩き出しその横にカイが並ぶ。少し歩いてからカイが口を開く。


「知ってもらうってなにをだよ。なんのことだかさっぱりなんだけど。」

「んー屋敷に戻ったらわかるわよ。私も半信半疑だったけど瑠依さんとトーマスのは反応から事実のようだし。そんなことより凜よ。この街のことは私たちがどうにかする問題じゃないしね。カイだってそうでしょ。」


 そう言われるとカイは黙るしかなかった。しかし関係ないと切り捨てることは頭ではできても心は無理だった。






 一人残った凜はただ立っていた。悪魔が来てないか見張っているがそんな気配は微塵もない。暇ゆえにどうにも意識が散漫になる。何度目かわからないあくびを噛み殺し見渡す。悪魔どころか人もいない。今頃乱は楽しく悪魔を倒しているんだろうなとのんびり考える。


「悪魔も人もいない。悪魔がいないのはいいことだけど人もいないとなると話もできない……ん?」


 通りの方に視線をやると路地から男たちが出てきた。先頭には昼間話しかけた男がいた。どこか上機嫌だ。しかしそのあとに続く男たちは顔色が悪くうつむいている者たちばかりだった。向こうから見つからないよう物陰に隠れる。隠れずとも気づきそうもなかったが念のために隠れる。姿が見えなくなって出てきた路地に近づく。誰もが建物の中に隠れているのにどうしてこんなところにいたのか気になったのだ。


 路地の入口に立つ。両方が高い建物で陽の光が入らず薄暗く奥まで見ることができない。進んでいく。そして目に入ってきた光景に思わず足が止まる。

 死体に群がる三体の悪魔。悪魔の影に隠れてか死体の性別はわからない。手首を千切りその断面に指を入れかき混ぜる。骨が砕かれ内側から皮膚を食い破る。覗く足もボロボロで肉片が散らばっている。悪魔は楽しそうに無邪気に遊ぶ、小さな子供が人形で遊ぶがごとく関節を逆に曲げたりと吐き気を催す光景。

 腹から湧き上がる怒りと同時に地面を蹴る。悪魔は死体に夢中で凜には気づかない。がらんどうの目をほじくる悪魔へ飛び膝蹴りをくらわす。悪魔の飛んだ先には魔法陣がありそこから魔力が紐状に生えてくると悪魔を捉える。突然の従来に悪魔たちの動きが止まる。その隙にまだ首と胴がつながった体を抱き上げる。片目の残った顔を見るとそれは服装からも昼間会った女の子であるとわかった。既に片足はなくなり、もう片方もあられもない方向に曲げられている。両手首は失われている。髪の毛を無理やり引き抜かれたのか頭皮がむき出しになっている。 ぎゅっと抱きかかえジャンプする。魔法陣を足場にし屋根へ飛び移る。路地の悪魔を見下ろし魔術で氷漬けにする。魔力の弾を当て粉々に破壊する。頭がくらくらするが動きに問題はなかった。部屋で休んで魔力はそれなりに回復してたおかげだ。

 屋根から市街地とは反対の方に飛び降りる。生活圏から離れたところで地面を掘り女の子を埋める。手を合わせて安らかに眠ることを祈る。


 そこに特別な心はない。ただ少し話をしたから、知っているから。慣習的にしてしまっただけだ。こちらでの死人の扱いは知らない。それにあのままなんて無理だ。あまりにも残酷すぎる。盛り上がった土を見下ろすその顔は苦渋に満ちている。


「──ここの人間とは違いますね。やはりい異世界だと感情、それに伴う行動も変化する、と言いうことでしょうか?」


 耳元から声がする。ばっとそちらを向くと知らない人物が顔を覗かせていた。いつから、誰だ、そもそも人間か? 疑問が頭をめぐる。


「それともここの人間が特異なのか。どう思いますか、天門院凜さん?」


 ばっと男から離れる。相手を探るように睨むが顎に手を添え何かを考えるようで凜に意識を向けていない。どうして名前を知っているのかそれが気になる。


「──賢者の仲間か?」


 考えられるとしたらそれだけだ。この世界で私たちの苗字をしているのは彼だけだった。


「賢者? ああ、そうですか。あなたでしたか。それならあなたの行動は納得ですね。彼が好みそうな人物だ。」


 思案を止め何かに納得すると突然彼の左手に本が現れる。何か仕掛けてくるのかと構える。


「私の主が知らないということはないと思いますが──見聞し記録するのが私の役目ですので。」


 ひとりでにページが捲れていき、ぴたりと白紙の場所で止まる。


「ではあなたの人生、詳らかにさせていただきます。」


 本が光り輝く。何が、と思考した時には既に遅く凜は巨大な本の見開きに立っていた。ページには凜の記憶、過去が次々と本人の知るものから知らないものまで映像、そして文字として流れていく。あまりの速さに凜には認識できないものだった。

 ぱたん。本が閉じられる音とともに元の地面へと戻る。


「ふむ、こんなものですか。面白かったですよ。味気も薄く、よく咀嚼しなければうま味がわからない。田舎に隠れた少し人気のあるお店みたいですね。」


 これは褒められているのか? いや、けなされているな。いまちょっと口元笑っていたし。地味に苛つくが相手からは敵意はない。先ほどのは私の記憶、というより情報を見たということだろう。私が知ることのできない赤ん坊の映像が一瞬だが見れた。


「店と形容したからには見せていただいた対価を支払わなければですね。あいにく手持ちはありませんので名前をお伝えしましょう。──私はヒスト。いずれまたお会いすることもありましょうがここで出会えたのは僥倖でした。では、ここにはもう用はありませんので失礼します。」


 ヒストの足元に『転移』の魔法陣が現れる。移動する瞬間凜をじっと見つめてくる。


 一部記憶の欠損していましたが、あれはこちらに来てからのものでした。いったい何があったのでしょうか。これは主に注意を促しておきましょう。


 ヒストの視界が一瞬で切り替わる。目の前に現れたのはパインとヴァレだった。二人は驚いた顔で彼を見る。


「突然出てくるのやめなさいっていつも言ってるでしょ。それで、実験はどうなの。」


 小言をもらうがヒストは委細気にしない。


「どう、とは? 私は戦えませんが見破る力は誰にも引けを取らないことは知っているでしょう。ああ、だから説明が必要でしたね。」

「さらっと自分は違いますーって自慢やめてよ。はやく結果。」

「まったくパインはせっかちですね。結果は失敗ですよ。悪魔の人間的成長は見込めません。子供より先はありません。これで組織的な集団での行動が取れればよかったのですがね。」


 残念ですと首を振る。しかし失敗に終わってよかったと二人は安堵していた。悪魔で軍団を組まれては人間が滅んでしまう。ヒストもわからないはずないのに。


「ここの人間はどうするの。あなたのせいで狂ったのよ。」

「? どこが狂ってるのー?」

「パインあなたは黙って。」


 狂う。ヴァレの言葉に確かにそうだと首肯する。元々腐っていたとはいえ加速させたのは私ですが


「人間がどうなろうが私達に関係が? 滅びなければあとはどうとでもいいでしょう。無駄な質問は控えてください。」


 無情な答えにヴァレは静かに彼を見つめるだけだった。


「ここにはもう用はありませんので戻ります。お二人は?」

「……私は帰るわ。」

「え! 二人が帰るなら僕も!」


 パインが二人についていこうとするがその前にヒストは一人で転移してしまう。


「嘘でしょヒスト!? えーと──」


 ヴァレのいた方を見るが彼女も消えていた。


「置いていくなんてひどいー!!」


 僕『転移』苦手なのに苦手なのに!


「ばかーーーーーーー!」

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