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 魔法陣に飛び込み気持ち悪さに襲われ視界が切り替わる。気づくと部屋の中で見知った顔がある。


「うわ! ど、どっから来たんだ!?」

「なに驚いてるの『転移』の魔法陣が出てたでしょ。おかえり凜。」


 驚くカイと正反対に落ち着いた乱の二人を見て安心し肩の力が抜けた。

 一体あいつは何だったんだ。私たちの性別のことを知っていたし賢者の仲間だとしたらそれだったら襲ってくる理由がわからない。


「魔術帰ってくるなんて何か見つけてきたのかしら?」


 にこにこと楽しそうに訊いてくる。きっとあの少年のことを話せば喜ぶんだろうと悲しいしかな想像が簡単にできてしまう。素直に告げるのはなんとなく癪に障るが伝えないわけにはいかない。少年とのこと、街の様子を伝えて凜はベッドで横向きに寝転がった。魔力をほとんど使ったせいで疲れているのだ。


「その子と前に戦ったことあるわね。凜にも勝てないなんて雑魚ね。」


 満足そうに笑っているが凜が勝ったことか少年が負けたことに対してかわからない。


「お前たちと渡り合える人間とか、うげえ。」

「その反応はなんなのかしら──カイ?」

「お前が感じたままで正解だよ。」


 横目で二人がにらみ合う。こうして三人の時、たぶん凜がいないときもいがみ合っているのだろう、毎度このような感じに火花を散らしている。飽きもせずにやるので本当は仲がいいのではないかと呆れた視線を送る。


「別に仲良くないから。」

「……何も言ってないだろ。」

「目が全部語ってるわよ。」


 こちらを見ずに何を言ってるんだこの弟は、と思っているとカイがこちらを向いた。


「そう思っていたのか?」

「いや思って──」


 ないと言い切る前にカイの目が光っているのに気づいて口を閉じた。自分で拾っておいてなんだがこの魔眼厄介だな。


「はあ……思っていたよ、これで満足か?」


 カイに嘘は吐けない。別に嘘を吐かなければいいだけなので工夫の仕方はあるがカイからの信用を下げてまで嘘を吐く必要はない。観念したように言う凜にカイはどこか不満げながらもまた乱を睨んだ。


「二人ともそうしているなら外でやれ。見てて楽しくないし、考えことしたいから。」

「はあ!? そんなことできるか!」

「できるわけないでしょ。」


 同時に反対された。


「いい? 私は聖女で美しくて可愛くて天才なの。そんなことをして印象を悪くしろと?」

「こいつに対して変なことすると俺の居心地が悪くなるだろ。外で聖女としてこいつを扱って部屋の中までもなんて耐えられるか。」

「奇遇じゃない。私もお前を部屋の中で優しくすると虫唾が走るの。」


 口を開けば相手への嫌悪を吐き出す二人に凜は諦めた。一ヶ月かかっても一切仲良くならないのだ、もうこれ以上どうしろと、さすがにこの中にずっといるのは嫌だな。王宮では三人纏まることのほうが少なかったのだ。しょうがない。

 凜はゆっくりと起き上がりベットから下り立つ。そして二人の間を無言で通り扉に手をかける。


「ちょ、凜どこにいくの!? まだ魔力回復してないでしょ!」

「うんだから瑠依さんかトーマスの部屋で休ませてもらおうかな、と。」


 もしかしたら二人で同じ部屋かもしれないと予想する。トーマスは広い部屋でもなれてそうだけど瑠依さんはどうだろうか。護衛のためと言って一緒の部屋にいそうだ。それならグレアもいそうだが。


「それじゃあ、ちょっと行ってく──」

「それはダメ! 女の子なんだから!」

「危機感ゼロかお前!」


 と乱に腕を拘束され、カイが服を掴んで引き留めてきた。無駄に力が強い二人のせいで全く動けなくなる。


「今は男なんだけど。男に襲われるわけないだろ。」

「男だけど男じゃないでしょ! いいから、そこで! 寝る!」


 ずるずると乱に引かれベッドに戻される。別にあの二人なら仮に女だと知っても襲わないと思うが。トーマスの趣向とは違うし、瑠依さんは何となくだが大丈夫な気がする。けれど乱とカイ両方に止められるんなて。


「魔力の回復は大事! 魔術があればいざって時逃げられるでしょ?」


 幼い子に諭すように言われるといたたまれなくなる。


「勝てない相手とは戦わないから大丈夫。無理はしない。」


 すねた感じに言ってしまう。それに今回だって無理だとわかったから逃げてきたんだ。それにしてもほんとにあいつはなんだったんだ。乱も詳しくはわからないみたいだし。


「……なあ、なんか変な匂いがするぞ?」


 すんすんと鼻をひくつかせながら凜の手に顔を寄せる。その顔は獣のものへと変わっていた。綺麗な毛並みで自然と手ですいていた。カイは気持ちよいのか手にすり寄ってくる。大型犬をほうふつとさせる。


「……。」

 

 黙って見ていた乱がカイの後ろに立つ、そして手を伸ばすと──ギュ、とカイの尻尾を掴んだ。


「ぎゃあ!」

「尻尾見えてるわよ。顔も戻ってるしそんなんだとすぐにばれるわよ?」

 

 冷ややかな目でカイを見下ろしている。神獣は人間に化けているわけではない。魔力で人のように見せていると。ただそうしている間は人のようにしないとすぐに解けてしまう。


「は、はなせよ。戻るから。」


 乱が手を離すと人間の姿へとなった。魔眼を扱えるぐらいには魔力をうまく操れるようになったが気を抜くと元に戻ってしまう。


「前に言ったわよね。もしばれたらその場で殺すって。凜が言うから許容してるだけ。私にとってはお前は守る対象じゃないの。」


 慈悲などない。嘘偽りのない言葉にカイは唾を飲み込む。バレれば間違いなく殺されると。殺されないにしても助けることは絶対しないとわかる。


「バレなきゃいいんだからそんな気にするな。乱もそんなすごむな。」

「別にすごんでいない。優しく丁寧に諭してあげただけ。凜は甘すぎ。」


 ふん、とそっぽを向かれる。確かに甘い自覚はある。けれど厳しくしたところで信頼が築けるわけではない。甘さだけでもできるわけではないが。いうなればアメとムチのムチの部分を乱がやってくれてるのだ。


「……お前程度に殺されないけどな。」


 ぼそりとカイが呟く。


「何か言ったー?」

「お前みたいな雑魚には殺せないって言ったんだよ。」


 またにらみ合う二人に凜は溜め息を吐いた。ちょっとあったらすぐこれだよ。罵り合いが続きしばらくして部屋がノックされる。そして返事をする前に


「悪魔が現れました。至急玄関に集まってください。」


 瑠依の言葉に乱は口元を嬉しそうに歪めた。







 遊び足りない。自分より格下だと思っていた。しかしそれを技術で埋めてきたのだ。そんないい遊び相手をにがすわけなでしょ! そう思って伸ばした魔法は空を切っていた。どこにいったの、それに最後の言葉


『──俺はお兄さんだ。』


 何がお兄さんだよ。女でしょ。天門院凜は女、女のくせに男だなんて。それは、それは僕の特権なのに。あの弟と同じようなことをして。あっちの方が断然許せないけど、どっちも僕の唯一性に傷をつけた。


「あの双子を正さなきゃ。この世界で僕だけのズレを奪われてたまるか──!」


 苛立ちが少年をむしばむ。黒い魔力が彼の体を覆う。その黒の魔力の合間から見える少年の体は変容していた。硬い土色の肌に飛び出す目玉、およそ人とは思えない。荒い呼吸と低いうめき声が漏れる。それはとても少年のものとは思えないもの。いままさにその化け物が動き出そうとした──


「──落ち着きなさいパイン。」

「ガアアア!」


 脳天に鋭い一撃が入る。後ろを向き一撃を与えてきた人物、ヴァレを睨む。


「何をするんだよ!」


 地響きのような声にヴァレは全くと呆れる。


「正気に戻してあげたのにひどい言い草ね。その姿嫌いじゃなったかしら? 『ミラー』」


 魔力が薄い膜を作り出す。そこにパインの姿が映し出される。その姿を捉えたパインは目を開くと叫び声を上げてその魔力の鏡を鋭い爪で引き裂いた。


「違う、こんなの違う……。」 

 

 ぶつぶつと違う、違うと呟く少年の黒い魔力はどんどんと消えていく。醜い姿は人間の体へと戻っていた。


「ふう──やっぱり僕はこうじゃなくっちゃね。ところでヴァレ、どうしてここに? 僕のことが気になったの?」


 明るい笑顔を浮かべヴァレへと向く。手のかかる子だとヴァレは溜め息を吐き口を開く。


「偶々よ。ここら辺の悪魔の様子をみておきたくて。ヒストの悪趣味がどうなってるかの監視も含めてね。」


 少し目線をそらして答える彼女にパインは笑みを深めた。


「へーそうなんだ。一緒に帰る?」

「そうね。あなたを元に戻せたことだし。……ってちがわ。私は悪魔の様子を。」

「はいはい、それなら見て行ってから帰ろうねー。」


 慌てながら取り繕うとする言葉を遮る。そんなパインに小さく舌を打つ。彼女は突然大きくなったパインの魔力を感じてやってきたのだ。


「そーいえば。会ったよ天門院凜に。賢者に選ばれたってわりにはふつーだったよ。」

「そう。そうでしょうね。」


 と答えるヴァレは笑っていた。しかしそれは一瞬だけだった。


「ヒストもそうだけどあの聖女たちも見ておきましょうか。姿を消しなさい。」

「はーい。」


 姿を消した二人は中心街へと向かった。そこでは凜が見て回った時と同じように男ばかりが出歩いていた。しかしそんな中一人の女の子が駆け足で進んでいた。そしてその子に一人の男が声をかけた。

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