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 体が馬車の動きに合わせて揺れる。現在凜と乱、それと瑠衣におまけにカイが馬車に乗って移動している。馬車は二台並んでおり、凜達は後方、前方には桜、グレア、トーマス、タユナが乗車している。八人は今、コースタという街に向かっている。先日コースタで大量の魔物が現れたとの報が王宮に届き、実践を兼ねて討伐隊で向かうこととなった。


「お二人は悪魔との戦闘経験はありますか?」


 道中、瑠衣が二人に訊ねる。


「はい。沢山とは言えませんがそれなりには。ただ王宮に来てからはさっぱりなので不安です。」


 乱の言葉通り王都では悪魔がほとんど姿を現すことはなく、現れても直ちに王宮騎士団によって倒されるので二人が相手をすることがなかった。


「凜さんはどうですか?」

「俺も少し不安ですけど……大丈夫です。カイは?」


 自分たちよりも横に座る神獣の少年の方が不安だ。


「問題ない……です。」


 瑠衣さんの前とあってカイは大人しい。実力はわからないが神獣の身体能力は人より上らしいし、本人が問題ないと言うなら大丈夫か。


「瑠衣さんコースタはどんなところでしょうか?」


 乱が訊ねると顎に指を当て、考える仕草をしてから口を開いた。


「よく言えば地方自治が上手く機能した街、悪く言えば金と権力があれば大きい顔ができるところでしょうか。貧しいものは貧をいつまでも享受する、そんな感じでしょうか。」

「……それはオブラートに包んで、ですか?」


 探るように見れば目線を呆れたように息を吐いた。


「多少ですが。概ね間違いはありませんので領主に対しては適当におもねってください。好待遇を受けられますので。」


 ゴマをすれと。面倒な相手だろうなと凜と乱は苦笑いした。






 コースタに着く。長い間揺られていたので慣れていない凜は体の節々が痛くて仕方がない。

 下り立ち辺りを見てみる。街並みは綺麗で通常なら活気であふれているのだろうが、今は人はほとんどおらず、強面の男がぽつぽつといるだけだ。


「う──おえええええ。」

「グレアさん!?」


 誰かの吐く声がしたと思ったら桜の声でグレアとすぐに判明した。あれだけ揺られればなん、と凜が声の方を見るとグレアが膝を着き既に瑠衣が横に立ち見下ろしていた。


「即刻立ちあがってください。」

「は──はい!……おえ。」


 瑠衣の命令にどこか嬉しそうに立ち上がるが顔色は悪い。そんな彼を桜以外は冷めた目を向け、トーマスはやれやれと肩をすくめた。


「はあ、まったく。ひとまず領主の家へと向かいましょう。我々が来ることはすでに伝達済みですので。」


 瑠衣を先頭に領主の屋敷へ向かう。少し歩くと大きな建物が見える。門も立派で一目で裕福なことがうかがえる。屋敷に着くころにはグレアもさすがに回復した。


「私が先に行きます。言っておきますがくれぐれも余計なことは言わないように。特に……。」


 すっと目を細め桜とグレアを見る。当の本人達はきょとんとしている。瑠衣は頭を抱えたくなったが眉を顰めるだけにとどめ扉のノッカーを鳴らす。しばらくして重厚な扉がゆっくりと開く。現れたのは年配の執事だ。


「みなさま、本日はネルマール家へどういったご用でしょうか?」

「王都より派遣されました魔王討伐隊です。書状はこちらに。」


 ユーノ国王から預かった書状を渡す。執事は目を通すと一歩引き軽くお辞儀をする。


「失礼いたしました。皆様のことは伺っております。どうぞ中へ、ご案内いたします。」


 建物の中へと導かれる。


「皆様こちらへ。」


 広い部屋へと通される。絨毯がひいてありさらに座り心地のよさそうなソファがある。


「当主をお呼びします。それまでどうぞおくつろぎを。」


 執事が部屋から出たところで全員ソファへと腰掛ける。


「うわあ! ふかふか!」


 桜が無邪気な声を上げる。事実柔らかく気持ちいものだ。


「桜様あまりはしゃがないでください。ここは敵地です。」

「敵地って、タユナ何を言ってるの。」


 笑って冗談だと済ます。桜とタユナが大分仲良くなっているのが桜の気安い態度から見て取れる。


「タユナさんの言う通りです」

「る、瑠衣さん?」


 瑠衣の同意の言葉に動揺する。


「どういうことかはすぐにわかりますので、皆さん会話は私に任せてください。」


 彼の真面目な顔に桜もさすがに冗談でないことはわかり喉を鳴らす。


「俺はいざとなったら手助けします。当主のことは良く知ってますから。」


 大変頼もしいです、と瑠衣が頷くと部屋の扉が開く。全員の背が伸び、入り口の方を見ると痩せ細った、けれど肌は健康そのものの豪奢な服を身に着けた男性が立っていた。


「ようこそお越しくださった聖女御一行様。あ、そのままで結構、お座りになられてください。」


 大股で目の前のソファに乱暴に座る。それだけで印象が下がっていく。


「私はイオ・ネルマール、このコースタを治めている。このたびはこの街の窮地に助力していただけると、感謝いたします。」

「いえ悪魔のせいとあれば(わたくし)どもの出番ですので……。」


 礼を述べるイオに謙虚な答えを返す瑠衣。その返答に微かに相手は口角を上げた。


「なんとも心強いお言葉でしょうか! あなた方がいればこの街は安泰です。ぜひ魔王討伐の際もこちらをご利用ください。部屋も皆様、全員分ありますので。」


 なんと気前の良いことだろう。瑠衣は簡素に礼を述べるに留めた。


「しかし……悪魔が現れたおかげか有害な生き物が消えてくれたのですが住人にも被害が出始めてしまいまして……。」


 有害な生き物と聞いて大狼、凜と乱がここに来て初めて遭遇した生物を思い出した。けれど悪魔が人以外を襲ったことなど聞いたことがなく頭の中で首を捻る。


「……確かに有害な生物は間引かなければいけませんからね。」

「わかっていただけますか。数も多く資金と労力を無駄に使うだけでしたので。いやはやさすがトーマス殿だ。」


 間引く。なんとなくその言葉に嫌な感じがする。植物などの育成においては必要なことではあるがどうにも眉間に皺が寄る。


「それでは皆様の部屋を準備しますのでしばしお待ちください。」


 そう言ってイオが離席する。彼が消え、瑠衣が肩の力を抜く。


「お疲れ様です。瑠衣さん。どうしますか、この討伐が終わったら告発しますか?」

「いえ、証拠がありません。今回はそれが目的ではありませんので別の機会に。」


 大事な部分が抜けている瑠衣とトーマスの会話に桜とグレアは理解が及ばず口を開けている。


「あの方、イオ様が何をしてようと、考えていようと、私たちはすべきことをするだけかと思います。拠点がこの家になるとしてどう悪魔を倒すか。それを考えるべきでは?」


 乱が淡々と告げる。しかしその目には明らかに闘志が宿っていた。


「……好戦て、いえ、聖女様らしい心強いお言葉です。まずは悪魔が出るのを待ちましょう。」


 聖女らしいとはなんなんだろうか。好戦的って言いかけていたし。


「聖女らしく悪魔を倒しましょ。ね、桜ちゃん?」

「──はい! そのために特訓してきましたから!」


 手を握り意気込む彼女に一抹の不安を覚える。気合が空回らないといいが。きっと悪魔との戦闘経験もないはずだ。けどそれよりも自分のことだと凜も気を引き締めた。

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