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瑠衣さんとグレアさんを眺めていると袖を少し引かれる。見ると隣に坂本さんがいた。
「どうしたの坂本さん。」
そう訊ねるとためらいながら口を開く。
「この後時間あるかな? ちょっと相談したいことがあって……。」
「あら、もしかしてこの間私にしてきたのと同じもの?」
乱が横から顔を覗かせる。乱に指摘されると桜の顔が赤くなる。
「蘭ちゃん言わないで! 自分で言うから!」
「だいじょーぶ、わかってるから。でも凜の交友関係は狭いわよ?」
「別にいいの! ほとんどの人に聞いてもだめだったし。凜くんは他の人と違った交友関係を持ってるから可能性にかけるの!」
二人の会話についいて行けず立っているしかないがなんとなく何を聞かれるかわかってきた。やっぱりあの変装良くなかったかな。乱の提案を受けたのが間違いだった。
「桜様。相談はよろしいですが今日は午後から鍛錬ですので日を改めてになります。」
タユナが淡々と指摘する。凜が彼女をちらりと見ると鋭く睨まれる。タユナとは会話したのは今日が初めてだ。睨まれる理由がわからない。
「そうだった! タユナさんいつもありがとうございます。えーと、凜くん、別の日でも……」
「いいよ。都合つきそうな日があったら連絡して、合わせるから。」
ありがとう! と破顔する。嬉しそうな様子に少しだけ罪悪感が募る。桜から視線を上げる。すると未だこちらを睨むタユナと目が合う。正直鬱陶しい。笑顔の一つでも返せばいいだろうがただ黙って見つめ返す。
「どうしたのお二人さん。そんな固い顔で見つめ合って。仲間なんだから笑ってー。」
みょーんとトーマスが後ろから両頬を伸ばしてくる。
「ほい、はめほ。」
「あはは! 素敵な顔になってるわよ。」
馬鹿にするように笑う乱に冷たい視線を送る。
「そんな機嫌悪くならないでー。ほら、離すからさ。」
頬が元に戻る。違和感がありさする。
「そんな強く引っ張てないからね?」
「それはわかってる。」
引っ張られていたんだ、優しくされていたことぐらいわかるけど変な感じがする。むにむにと頬を揉む。案外落ち着くのでしばらくそうしていた。
「すいみません! 俺これから隊での会議があるので失礼します! 今度は皆さんと食事でもしたいです、では!」
元気よくグレアが部屋から出ていく。彼とはあまり会話せず終わってしまった。だけど丁度いい。
「俺もこの後用事があるので失礼します。」
グレアに乗じて部屋を出ようとする。
「用事ってあれ?」
乱が言うあれとは魔法陣の研究のことだ。
「そうそれ。」
実は違うのだが勘違いされても困ることではないので訂正はしない。それに正直に言えば問い詰められるのは目に見えているので放置する。
一礼して部屋を出てそのまま早歩きで外の東屋へと向かった。ある人物に呼ばれているのだ。ちなみに凜はそこが以前乱が眠らされた場所とは知らない。
東屋に着くと目的の人物がすでに椅子に腰かけ優雅にティーカップに口をつけていた。近づくと腰まである銀髪が揺れ赤い瞳が凜を捉えた。そして口角を上げる。
「本日はお招きいただきありがとうございます。」
「堅苦しいのは無しにしてくれます? 私たちの間には不要なものよ。」
恭しく一礼した凜を一蹴したのはアナ・ユメリア。十五であるが纏う雰囲気は気品に満ち溢れ高貴な人物であると嫌でも思い知らされる。彼女の向かいの椅子に座る。
「それで兄様の趣味はいかがだったかしら?」
それを聞くためだけに呼んだのか、と呆れる。
「とても気味悪いものでした。あなたの言う通り。」
今思い出しても腹が立つ。
「ふふふ、良かったあなたの感性がまともで。情報を有効活用してくれて大満足よ。」
少し前、丁度メルクに頼みごとをした日
『お話しませんか?』
そう呼び止められたのを思い出す。王族なので断ることはできかった。それに大人しい子だと思っていたらこの横暴さに性格の悪さ。よく隠してたよと感心した。
「それにしてもお兄様のあの腫れた醜い顔! 今思い出しても笑えるわ。あの時は本当にこらえるの必死で、くふふ。で、あれは凜の仕業?」
愉快と上機嫌に訊ねてくる。仮にも兄に対していいのか?
「それに関しては何も言わないでおく。」
「そう蘭なのね。見た目に反して過激ね。あーこわいこわい。」
くつくつ、手を当てて笑う。見た目だけなら大変可愛らしいのに。性格が全て台無しにしてる。
「……今日は何の用で。」
こんなくだらない世間話をしに呼んのではないことぐらいわかる。凜が真面目な顔で訊けばまたおかしそうに笑う。
「そんな身構えないでくれます? 今日はお祝いよ。無事に魔王討伐に選ばれたことへのね。」
片目をつぶりながらカップを持ち上げる。凜もそれに合わせてカップを持つ。
「それはどうもありがとうございます。」
素直にお礼を言えば人の悪い笑みを浮かべてきた。少しの喜びがどこかへ霧散した。
選ばれたことに関しては確かにありがたかった。乱傍にいられるし、私へのヘイトも集めやすくなる。
「他の人とは会ったのよね。それでその方たちの印象はどうだったかしら?」
手を組みそこに顎を乗せこちらに前のめりになる。そんなことを聞いてどうするのだと思うが思ったままを告げた。
「──そう、やっぱりわけるなら当初の予定通りでいいわね。こっちから指示しなくても勝手に分かれそうだけど……。」
何かぶつぶつと呟いているが何のことかさっぱりなので紅茶を飲んでアナの考えが纏まるの待つ。
「……ひとまず私から言えることは死なないで頂戴。」
考え事が終わったと思ったら真剣にこちらの目を見て言うもんで紅茶を一気に飲んでしまう。
「特に誰かをかばって死ぬなんて無様な真似はしないでね。私あなたを失う気はないの。」
どこか嘲わらうかのように吐き捨てる。
「それは無理だ。俺は乱だけは守る。」
「“だけ”ね。本当にそうかしら。たった数回の邂逅でもあなたの性格はおよそ読み取れたわよ。」
訝し気な視線を向けられるが沈黙する。それにおよそしか読み取れていないのだ。
「そう、ならせいぜい醜く死になさい。」
と毒を吐きながら満足げに笑った。
そこからの会話はさして書き留めるほどのものではない他愛のないおしゃべりだ。女性は他者の悪口を吐くときが一番ストレスが減ると聞いたことがあるが目の前の彼女は大変良い顔で色んな人への罵詈雑言を吐き出していく。聞いてるこちらはただ相槌を打つだけの人形と化した。
アナの話は長くポットの紅茶もとっくに底をついていた。日が傾き始めてようやく
「あらこんな時間。長々と悪かったわ。どうする? このまま一緒に夕食とか?」
「部屋に戻ります。紅茶はとても美味しかったです。」
ばっさりと断る。夕食まで一緒はきつい。
「ふん。紅茶だけよかった風に聞こえるけどいいでしょう。また誘うわ。」
唇尖らせすねたが凜を見送る時は優雅に笑っていた。その姿はやはり品があり王族なのだと再認識させられた。




