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 気づくと王宮に来てから一ヶ月経っていた。凜と乱、それに桜が学校に通うことはなくなった。凜は結局最初の一回しか行かなかった。


 一ヶ月経ち凜は頭を抱えていた。帰る手段に目処が全く立たないのだ。あれから賢者にも聞いたりもしていたが魔王を倒せば帰れるとのたまうだけ。真実である保証はどこにもないが具体的な話はこれしかなく本当なのではすがりたくなっていた。


「なーにしかめっ面してるの。」


 そんな声とともに額に小さな痛みが走る。顔を上げるといつの間にか目の前に乱が立っていた。集中していたので全く気づかなかった。


「いつまで考えてるのよ。ほら立って。謁見の間で出立の儀をやるんだから。」

「出立って……魔王がどこにいるかもわからないのに?」

「形だけよ。魔王討伐メンバーの発表も兼ねてるんだから。凜も行くのよ。」


 凜の腕をつかみ無理矢理立たせる。たいした抵抗もないが億劫そうな様子は手に取るようにわかる。


「はあ……。俺は隅で隠れてるからな。」


 それは無理よ。そう言うのを我慢した。凜もわかってて言ってるのだ。

  

 謁見の間の扉は開いており大勢の人で喧騒が少し離れたところでも聞こえるほどだった。

 二人が入ると視線が集まる。そんな中奥に座るユーノの前まで歩いていく。好意や尊敬、打算的な視線が乱には集まる。概ね害となるものはない。一方凜には侮蔑の眼差しのみ向けられる。


「やはり所詮よそ者か……聖女様とは大違いだ。」


 誰かが呟く。その声は凜と乱はもちろんその他の者にも届く。しかし誰も咎めない。それどころか同意を示す者もいる。

 そんな声も視線も気にすることなく二人はユーノの前へとたどり着き膝を折る。彼の隣にはシーノ、それにアナが椅子に腰かけている。


「よくぞ参ったぞ。鏡は出立の儀だ。なに今日突然行けというわけではない。お主たちとともに討伐へと向かう者たちが選出されたのだ。ゆっくりと構えることなく楽しんでくれ。」


 穏やかな笑みを乱へと向ける。しかし、凜を視界の中心に捉えると怜悧な眼へと一転する。


「して凜。私はお主がまともの生活をしてないと聞くが大丈夫か? もし不調があるならば養生を進めるがいかがだ?」


 まともではないというのは学校にも行かず魔法陣の部屋で引きこもっていることか。


「国王様の心配には及びません。つつがなく過ごしております。王が気にすることなど少しも。もとより私達だけの問題ですので。」


 淡々と返す。私が何をしようがそこまで重要ではないのにこう聞いてくるということは……。


「──しかし、どうも研究の方はうまく進まず職員の手を借りなければならない状況ではありますね。」


 あからさまに帰る手段が見つからないと伝えると露骨に笑顔になる。


「そうか。それは難儀な。答えのない道を進むのは辛かろう。いつまでもここで励むがよい。」

「お心遣い痛み入ります。知ってはおりましたがあきらめるつもりはありません。」

「好きにするがいい。楽しみしておるぞ。」


 上機嫌に言葉を紡ぐと王族ほどではないが立派な椅子に座るように促された。椅子は三脚並んでおり既に桜が座っていた。しかし青い顔していた。


「あ、蘭ちゃんに凜くん。おはよう。」


 覇気のない声が桜から洩れる。無難に二人ともおはようと返す。元気のない様子に特に触れはしない。


「さて、三人が揃ったところで出立の儀を始めよう。まずは二人の聖女とともに魔王の討伐に向かう者を紹介しよう。中央に集まるがよい。」


 その声に四人の男女が出てきた。三人は知っているが最後の一人は凜の知らない人物だった。興味など少しもないので心ここにあらずと気だるげに眺めていると


「──ねえ、私達って帰れないの?」


 ユーノがしゃべるタイミングに重ねて隣から訊ねられる。シーノの声でそれは凜に以外には聞き取れない。

 凜は首を縦に振って答えた。


「──そっか。そうなんだ。うん、わかってた。だって誰も帰すなんて言ってくれなかったもん。でも、うん、いいや。」


 そして吹っ切れたように前を向く。桜がなにか抱えているとはなんとなくわかっていたが……私たちの邪魔をすることはないだろ。一ヶ月の間不審な動きもこちらに敵対する様子もなかったし。注意すべきはユーノ達王族と私たちが帰れないと知っているやつらだ。






「俺はグレア・ヴァルガ―と言います。王国騎士団一番隊隊士です! 蘭様それに凜様はお初にお目にかかります!」


 人懐っこい笑みで挨拶する男の声が部屋に響く。今現在、魔王討伐のメンバーが一室に集まり顔合わせをしている。


「俺はトーマス・マッカ―。魔法の腕なら自信があるから頼ってくれると嬉しいかな。全員とは一度会ってるけど改めてよろしくね。」


 柔らかな金髪を揺らしゆるく笑いながらちらりと凜を見る。確かに一度会ったがそれっきりだ。


「私はタユナ・キルヴェストと申します。桜様の付き人でございます。一通りの戦闘の術は心得ております。皆様の足を引っ張るようなことは致しませんのでどうぞよろしくお願いします。」


 にこりともせず淡々と黒髪の使用人の制服を身に着けた女性が自己紹介する。よく桜の隣に人形のように立っていたことは凜も乱も見ている。名前は今初めて聞いたが。


「私は王国騎士団三番隊副隊長を務めています瑠依と言います。副隊長など大層な役職を負っていますが所詮雑用係ですので気軽に瑠依とお呼びください。」


 ゆっくりと丁寧なお辞儀をする。凜は久しぶり見た彼に安心感を覚えていた。まともでしっかりしていて心労が一切ない。貴重な人物なのだ。


「私は坂本桜です。みなさん知っての通り別の世界からやって来ました。頑張って魔王を倒して世界を救いましょう!」


 両手で拳を作り意気込んでいる。前向きでほとんどの人は彼女に好感を持つ。


「私は乱と言います。私も彼女と同じく別の世界からやって来ました。体を動かすことはあまり得意ではありませんが光の魔法で皆さんのお役に立ちたいと思います。どうぞよろしくお願いします。」

「いやー何言ってるの蘭ちゃん。学校での動きはどう見ても素人じゃなったよ?」

「トーマスくんの言う通りですよ! それで得意でなかったら私は動けないも同然だよ!」


 トーマスと桜が乱の言葉に反論する。凜も何言ってるんだと呆れた視線を向ける。


「そんな。私なんてまだまだですよ。教えてくれたおじいさまには全然かないませんから。」


 おじいさま。その言葉に吹き出しそうになる。いつもお爺ちゃんって呼んでるのにどこのお嬢様だよ。しかし師匠がおじいさまとか似合わないな。


「凜、ほらあなたで最後よ。」


 と背中をグーで強く突かれる。みんなにはもちろん見えないように。痛みに耐えながら口を開く。


「乱の兄の凜です。皆さんもご存じの通り魔法は使えません。それでも乱とおなじ師匠の元にいましたので足を引っ張ることはないかと。」


 特に誰にも驚いた様子はない。私が魔法を使えないことはさすがに知っているか。けれど誰も謁見の間での嫌な視線を寄こすことはなかった。


「そいえば瑠依さん大丈夫なんですか?」


 少し気になることがあったので瑠依に訊ねる。


「大丈夫とは何がでしょうか?」


 思い当たる節がないのか首を傾げる。


「騎士団の書類い仕事は多いらしいと聞いて、それで三つの隊の副隊長にそれがほとんど回っているって。」

「ああ、そういうことですか。それでしたらあのバカ──いえ、隊長に押し付けたので。書類を放り出して魔王討伐隊に志願するなどほざいていたのでそれを阻止して私が志願しました。」


 とても晴れやかな顔で答える。そんな書類仕事が嫌いなのか、それとも嫌になるほど仕事が回ってきたのかどちらでもありそうな感じもするが凜にわかることではなかった。


「書類仕事が出世への近道と言えば嬉々として取り掛かってくれました。しばらくは三番隊に平和が訪れますが……副隊長などやめたいです。」


 疲れた顔になってしまう彼に、そんなに大変なのかと憐れみを覚えてしまう。


「──やはり! 瑠依様は隊長になるおつもりですか! 全力で応援します!」

「いや、私は隊長には──」


 きらきらとした目をしたグレアに詰め寄られ後ずさる。どう見ても隊長にはなりたがっていないのにどういう目をしているんだろうか。それでも瑠依さんが隊長か、良い隊にはなるだろうなと少し笑みをこぼした。

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