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夕食の時間。凜とカイは揃って部屋へと戻った。地下の魔法陣のある部屋で凜とメルクが調査する横でカイが魔法の練習をしていたのだ。
「あれ? 乱がいないな。いつも夕食には遅れないのに。」
「どっかで遊んでいるんじゃないのか。それよりもご飯!」
「あいつがご飯の時間に遅れるなんてなかったんだけど……。」
どこか変な感じがする。しかし乱のことだ誰かにつかまって話し込んでいるのかもしれないな。変なことの巻き込まれることはないだろうし。仮にも聖女、崇められている存在に手を出すやつなんでいないだろう。
「凜様、カイ様。夕食をお持ちしました。」
ジュシア食事を運んできてくれる。礼を述べてからご飯を頂く。満腹になるまで食べるとちょうどすべての皿が空になる。
「うーん来ないな。ホント何してるんだ乱は。ジュシアさん乱から何か聞いていませんか?」
もしかしたら私がいない間に伝言とか残しているかもしれない。
「私も何も聞いていないわよ。」
「誰からもですか。」
手をグーパーと二回繰り返す。カイも顔を上げてジュシアをじっと見つめる。
「誰からもって乱から聞いてすらいないならそうじゃないの。」
「──嘘だ。そいつは聞いている!」
片目を押えカイが指さす。突然のことにジュシアは不快感を表す。
「突然何よ。人を嘘つき呼ばわりして。嘘なんかついてないわよ。」
毅然とした態度を取るが、カイはさらに強く目を押えた。
「カイ、もう大丈夫だ。ジュシアさん初めから嘘をついていたのはわかっていましたよ。」
立ち上がりジュシアと向き合う。カイはジュシアさんが嘘と自分で認識しているかの確認のために視てもらった。誰かに操られてなら嘘と認識していないのでカイの魔眼は反応しない。
「仮に私が嘘をついていたとして。いつかしら?」
やましいことなどない様子だ。顔色に変化はなく、表情も動かない。
「部屋に入るとき俺とカイの名前しか呼びませんでしたよね。何も聞いていないなら乱も呼びます。それと食事が二人分しかなかった。事前にシェフの人に伝えていたんですね。確かに食料が勿体ですからね。」
「……偶々会ったのよ。それで口止めされて。」
もしこれが本当なら乱のことアホと罵ることになる。嘘がばれないように徹底させないなんて馬鹿だろ。だから──
「──たいしたお金ではなかったんですね。」
「は?」
「シーノ様から渡されたお金は。」
「……誰から聞いたのかしら。」
底冷えするような眼で睨まれる。知られているとは思っていなかったのだろう。そこまで有名な話ではなかったからな。私もとある人物からの情報と瑠依さんの確認で知ったことだし。
「ジュシアさんがよく知る人ですよ。」
名前は伏せよう。嘘は言っていない。瑠依かとぼそりと呟いている。さすがにもう一人はわからないみたいだ。わかったらさすがに恐ろしいが。
ジュシアが瑠依にどう問い詰めているか考えている隙に凜は『不覚空間』から麻袋を取り出した。
「ちょっと待ちなさい! なんで魔術使え──」
シーノからはき聞いてはいないみたいだな。ジュシアの言葉を無視して麻袋を投げる。金属の擦れ合う音が袋からする。それを聞いて彼女の瞳孔が開き食らいつくように袋をキャッチした。中を恐る恐る確認する。
「──この金貨の量!」
喜色の声を上げる。袋には簡単には稼ぐとの出来ないほどの量の金貨が入っていた。
「それであなたを買います。乱はどこに。」
彼女は人に従わない。従うのは唯一お金のみ。つまりお金を用意すれば済むことだ。魔道具作ってお金稼いでいてよかった。
凜と乱は王宮からいくらかお金を支給されていた。衣食住は完全に保証され多くはなかった。だから凜が魔道具を作り闇市でさばいていた。魔道具を売りながらどこの世界にもコレクターはいるのだなと痛切に感じた。高額で買い取る人が極稀にいたのだ。
「──あっはっはっは! 凜! よく私のことがわかってるじゃない。これだけあれば十分すぎるってか多すぎるけど。どうしてシーノ様か気づいたか知らないけどそんなことどうでもいいわね。」
愛しそうに麻袋を抱える。お金は足りたみたい。
「あらためて──乱はどこに?」
凜はにこやかに訊ねた。しかしその笑みは傍から見ると完全に悪役そのものだなと、カイは見ながら思っていた。
「シーノ様の寝室よ。昼に蘭と二人っきりの茶会を開いて睡眠薬入りの紅茶を飲ませて寝室に運ばせたの。偶然見てね。口止めも兼ねてお金を渡されたわ。」
睡眠薬で乱が眠った? 昔から薬物耐性をつけるようにいろんな薬というかほぼ毒に近かったものを飲まされていたのに。
「王族だから逆らうわけにいかなかったけど金貨一枚ってどういうことよ!」
凜が疑問に思っているとジュシアが怒りを露わにしている。
「私にだって仕事に矜持は持ってるの。凜が気づいてくれてよかった。嘘をつくよう言われただけでばれないようにしろなんて言われてないから金貨一枚にしては働いた方よ。」
シーノ様は買収する相手間違えたな。それにしてもわざとだったか。確かにあからさまだったし。
シーノを哀れに思ったところで凜はありがとうございますとジュシアに言うと扉へと向かう。
「もう向かうの? 準備とかはいいのかしら。」
「この身だけで十分ですよ。」
「待って、俺も行く!」
カイが椅子から降りてこちらに向かってくるが手で来るなと制する。
「俺だけにしてくれ。シーノ様に危害を加えるのは確実。相手は王族だ。俺だけなら、まあ多少罪は軽くなるだろうし向こうが先に仕掛けたとは言え危ないから。──ジュシアさんカイをお願いします。もしお金が足りないなら後で追加しますので。」
「いらないわよ。これだけもらえば十分。それに三人の世話は仕事よ。しっかりやるわよ。ほら、さっさと行きなさい。」
背中を軽く押される。
「はい、それじゃよろしくお願いします。」
部屋を出てわざとゆっくり歩く。これからするのは救出ではなく乱のを止めることだ。まあ乱に手を出したんだせいぜい痛い目に合えばいい。ていうか痛い目見ろ。




