3
お久しぶりです。一行あけるタイミングがいまだによく分かりません。
読みにく箇所や間違いがあればご一報お願いします。
凜がこんこんと扉を叩く。中からしわがれた声が聞こえてくる。
「ああ?どこのどいつだあ。こんなとこに来るなんさ――ちっ、めんどうだな」
扉が開きおじいさんが出てきた。
「はじめまして」
凜が丁寧におじぎをする。
「なんだあ、兄ちゃん……と、それとえれぇべっぴんな嬢ちゃんだな。どっかの国から来たんか?」
二人がきょとんとする。
「どうして俺達が他の国から来たと?」
「服だよ、服。そんな服この国じゃ見たことねぇからな。で、何の用だ?だいたい想像はつくが……」
おじいさんが鬱陶しそうな目を向けてきた。ストレートに言ってしまうか。
「置いてください」
「帰れ」
にべもなく断られてしまった。
「足手纏いにしかならない奴を二人も置いていられるか。さ、帰れ」
「つまり役に立てばいいんですね」
おじいさんがしっしっと手を振ったが諦める気など毛頭ない。乱が挑戦的に言葉を放つ。
「嬢ちゃん。子供二人はどう頑張っても足手纏いなんだよ」
「これを見てください」
おじいさんが言い終わるや否や乱は獣の皮と葉っぱで包まれた武器を見せた。いや、見せたいのは皮の方だけか。
獣の皮を見ておじいさんは目を見開いた。それを確認した二人は口を微かに歪めた。
「な、こいつは大狼の皮じゃねぇか!へぇ、そうかい――いいぞ、置いてやる。入れ」
中へと案内される。中は質素で必要最低限のものだけが置いてある程度だ。
「そこのテーブルの椅子に腰かけぇ。ちょうど二つ並んでたはずだ」
確かにテーブルには椅子が二つ並びその向かいに一つある。凜と乱が腰かけるとおじいさんがお茶を持ってきて、二人の前に置き椅子に座った。
「さて、お前さん達を置いておくことに関しては別に問題ねぇと見た。大狼を倒せて捌けるんだ。腕前は確かだろう。だが一つ問題がある」
「問題?」
乱が首を傾げる。
「ああ、大問題だ。お前さん達の魔力がただ漏れなんだよ。そんなん見たら弱っちいと思うだろうがよ。魔力を制御出来ないなんてそういう病気にでもかかってんのか?」
だとしたらしょうがないが、と言うが凜と乱は呆けてた。
「ま、魔力……?」
「そーだよ。魔力だよ、魔力。魔法、魔術を使うのに必要――ってあたりまえなことだよな」
かはは、と笑う。
魔法……魔術……?
二人はますますついていけなくなり思考が止まっていた。
二人の様子がおかしい事に気づいて、もしやとおじいさんは訊ねた。
「なあ、お前さんら一体どこから来たんだ?魔力なんて初めて聞きましたって顔なんだが……お前さんら、一体何者なんだ?」
どうしようか、言ってしまうか。ここまで怪しまれたら言い訳できない。ここのことについての情報がない。確実にぼろが出る。正直に言おう。
「実は――」
凜と乱はこれまでのことをすべて話した。
すべてを話終えるとおじいさんは目を瞑って何か考え始めた。
「……別世界かあ……伝承の聖女……いや、しかし……」
ぶつぶつと何か呟いている。
さすがに信じてもらえないか?
凜がじっとおじいさんを見つめる。乱が凜の服の裾を少し引っ張る。乱の方へ体を少し傾ける。
「……(ねぇ、言ってよかったの)」
「……(仕方ないよ。下手に誤魔化したところでここの情報が限りなく零に近い俺達だと必ずぼろが出る。それなら正直に話した方がいい。嘘だとばれたときが一番めんどうだ。もし信じてもらえなかったとしても何か事情があるんじゃないかと思って優しくしてくれるだろうし)」
少しのやり取りでおじいさんの根が優しいことに気づいていた。
「……(それはそうだろうけど、予想と違う反応だから)」
「……(それについては同じ。何か心当たりがあるのかもしれない)」
「……(いった……)」
「よし分かった。お前さんらの言葉すべて信じようじゃねぇか」
一体心当たりって何かしら、と乱が言おうとしたところでおじいさんがやっと言葉を発した。
「本当ですか?さすがに私達も信じてもらえるとは思ってたんですが」
「まあ、信じがたいが状況が状況だから信じるんだよ」
「状況ってどういったのですか?」
乱が急かすように訊ねる。
「まあまあ、そう慌てんなって。一から説明してやるから。まずお前さんらは何も知らないんだよな。ユノメリア王国って知ってるか?」
二人は首を横にふる。
そんな国聞いたことない。
「まじか……いや、そうだよな。まずこのイースト大陸には人が治めるユノメリア王国。神獣が治めるブルガ帝国。エルフが治めるシルフ王国。天使の住まう空園の四つがある。まあ、空園に関しては座標がこの大陸の上空にあるだけで空間が違うしなあ。それと他にも大陸があるが……いや、こいつに関しては今はいいか――ここまで大丈夫か?」
「いえ、まったく」
神獣にエルフに天使?それに空間が違うだとか一体全体なんだっていうんだ。隣を見ると乱もまいっているようだ。
「えーと何か、お前さんらの世界には神獣もエルフと天使もいないって?いるのは動物だけで大狼みたいにでかいのはいない。こことは全く違うと。――はっ!魔法はどうだ……ってさっきしらねえって言ってたよな……。ここの説明もするのか、めんどくせぇな」
はあ、とため息を吐き窓の外を見る。外は既に暗くなっていた。
「もう日が落ちてやがる。晩飯にするか。話もその後だ!お前さんらも手伝え!」
おじいさんは立ち上がり、凜と乱を台所に案内した。
「はあ!?凜が女で蘭が男だって?いや、百歩譲って凜は……まあ、いいとしよう。だが蘭はどう見ても女じゃねぇか!」
おじいさん――ガンジが納得出来ないと叫ぶ。
まあ信じられないだろう。乱はどこからどう見ても美少女。そこいらの女より綺麗だ。私はまあ普通の男と言ったところだろう。少し小柄の。
「まあ、あまり気にしないでください――俺らは好きでやってるんで」
低い声でセリフを放ち、にやりとあくどい笑みを浮かべる乱。それでガンジは諦めた。
「ここまで一通りのことは話したが他に聞きたいことはあるか?」
「いえ、十分です。ありがとうございます」
凜が頭を下げる。
「構わねえさ。明日からこき使うんだ。そのためだよ。さて、もう寝る時間だ。お前さんらはそこの階段を上がってすぐの部屋を使え。ベッドが一つある。もう一つは部屋の近くの物置から適当な布団をとって使え」
「何から何までありがとうございます」
「だからいいって。その代わり死ぬほどこき使うだけだ。さ、早く寝ろ」
しっしっと二人を追い払う。二人は二階へと上がっていく。その途中凜が階段を引き返し一階に下りる。
「ガンジさん“らん”ってどういう字を書くか分かりますか?」
「“らん”か?そりゃあ草冠に門を書いてその間に東って書くんだろ?」
それがどうしたんだ、と淀みなく凜の質問に答える。
凜はにっこりと笑って
「“らん”は乱って書くんですよ」
「へえ、乱かい。粋な字だな。こいつぁ男だわ」
かはは、とガンジが笑う。
「それだけです。どうせ勘違いしてると思ったので。それじゃ、おやすみなさい」
「ゆっくり休みな」
ガンジにお休みの挨拶をし二階へと向かう。
これで確認したいことは確認できた。
部屋に入ると中で乱が寛いでいた。
「おつかれ。で、知りたいことは知れた?」
「もちろん」
「そう。聞いたのは私の名前をどう書くかってところかな」
疑問のように見せかけ断定している。さすが乱かな。
「ご名答。ガンジさんはご丁寧に乱の漢字を間違えたよ――花の蘭と」
「あら、ここには漢字があるの?へぇーまったく違う言葉だと思っていたけど」
「最初はそうだと思ったけどそもそも違う言語だったら会話できないしね」
「それもそうね。それに音と口が完璧に一致してたから私たちの耳に細工はない」
「そういうこと。つまり言語に関しては不安に思う必要は無くなったわけ」
「ふーん、そっかあ」
途中まで興味があるようだったが既に興味がないようだ。
それよりも、と乱が立ち上がる。
「魔法があるのよ!使ってみたくてしょうがないの!明日にでもガンジさんに見せてもらうの!」
鼻息を荒くし語る。こういったところは男の子だなと凜は微笑ましく見てた。
凜はそこまで魔法に興味はなかった。どちらかと言えば魔術の響きに惹かれてた。魔法よりも元いたところでは魔術の方がよく本などで目にしていたからだ。
「魔術もあるって言ってたよな。何が違うかわからないけどそれも明日見せてもらおう」
「ええ、ええ!そうしましょう!」
「あともう一つ身体能力についても明日確認しよう」
「……それもあったわね」
忘れてたなこいつ。
凜が胡乱な目を向ける。少し決まりが悪くそっと乱が目をそらす。
今日大狼と戦っておかしな事が起きた。私達の身体能力が大きく上昇していた。おそらくこの世界の基準に沿ったためだろうと推測しているが、どの程度上昇しているかまでは分からないからそれを調べないと。
凜の中でおおよそは分かったが、正確に知りたいと思っている。
「すべては明日だ。それと聖女伝説についても探らないと」
「私達のどちらか、もしくは二人。または龍樹かも……」
「まだなんとも言えない。龍樹もこっちにいるかわからない。いかんせん情報が足りなすぎる」
チッと舌打ちをする。乱が仕方ないでしょと宥める。
聖女伝説――ユノメリア、いや、この世界に危機が訪れた。魔王それとそれが率いる悪魔による世界への攻撃。防げはいたものの戦力差により摩耗していく一方。それに耐えかねての禁忌である『異空間召喚』――別世界より人を召喚するというものだ。ユノメリアの王宮に封印されていた魔術であり、別世界の人間が世界を救うという。異空間召喚はかなり大規模で超魔術と普通の魔術とは区別されるらしい。なぜかこの時異常なほどガンジさんが興奮してた。そして、召喚された人――別世界からの来訪者、いや、攫われたきた、の方がいいだろう。私達もそうだ。女性だったので聖女という称号を付与したという。聖女はこの世界に様々な文明をもたらした。どういったものかは詳しくはわからないらしい。最終的にその聖女は魔王を倒し世界は平和になったと、さ。めでたし。
みごとに綺麗な英雄譚として纏められている。どこまで真実かは分からないから他の人からも聞かなければ。
「さて、もう寝よう」
「そうね」
さて、明日からが本番だ。何をしてでも生きてやる。何をしてでもだ。凜は固く誓った。