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短いです

 翌日の朝、乱は至って普通に戻ってきた。昨日のことなどなかった事のように。部屋だけでは。


「あらためまして。乱と言います。昨日は失礼しました。」


 頭を少し下げ丁寧な物腰にカイは目を瞬かせる。昨日の荒々しさはどこ吹く風だ。しかしまるで女性の乱に目が痛くなる。


「さて凜。この子のことはどうやってみんなに説明するのかしら?」

「……拾ったって。」


 顔を覆った。


「はあ、仕方ない。私が保護したってことにするから。」


 そしてその言葉通りカイは聖女に保護されたということで一定の人権を得た。それからまずカイをメルクへと引き合わせた。


「もしかしてその子この間拾った子ー?」

「そうだ。実は頼みたいことがあって……。」


 カイの魔眼について話し、上手く操れるようにすることはできないか相談した。隣にいるカイは終始不機嫌な顔でいた。


「凜の頼みならいいよー。それに初めて自分以外の魔眼持ちに会ったんだ、ちょっと気になるしねー。」


 上から下へじっくりと観察する。悪寒が走り凜の後ろへと隠れる。別に変なことしないよーとけらけら笑っている。


「おい、隠れるな。早くそれ扱えるようにならないとこれから大変だぞ。」


 嘘を見抜く魔眼。目に映る人物が嘘をつくと目が痛くなるという。つまり凜と乱がそれぞれ性別を偽っているのでよく痛くなる。


「特訓しないとねー。特訓っていっても魔力の操作を覚えるだけ。ようは目に魔力がいかないようにすれば大丈夫だよー。」


 そんな難しくないからー。とゆるく笑うメルクにおずおずと背中から顔を覗かせる。顔が見えるや否やメルクはカイの手をとって引きずり出した。


「なにするんだ!」

「あっちで練習するよー! じゃ、僕達は練習するから。今日はサナが行くからねー。」

「だから、ちょっと待て!」


 メルクに連れられ満更でもなさそうに消えていった。カイはあっちに任せても問題ないだろ。さすがに魔眼に関しては実際持っている奴が当たるのが最適解だろうし。さて、今日はサナが来るのか。頑張るか。


 ぐっと伸びをしていつもの地下へと向かった。



「蘭さんぜひ今度一緒にお茶でも致しましょう。」

「お誘いありがとうございます。ですがこの世界に平和が訪れるまで精進しなければいけませんので……。」

「──そうでした。聖女様を軽々しくお誘いした私が間違っておりました。また、明日教室でお会いしましょう。これなら許されるかしら?」

「ええ! また明日。私は訓練がありますので、それでは。」


 クラスメイトと別れの挨拶を済ませて教室を出る。


 誰が見ず知らずの奴とお茶を飲むか。


 内心唾を吐く。今しがた話しをしていたのはさして権力のない貴族。親しくしたところで利はないが体面を保つために誰にでも笑顔を振りまいている。


 今も歩いているだけで人目を引く。怒った顔は晒せない。常に完璧でいるように泰然と優雅に過ごしている。


 隙を見せてはいけない。意識を張り詰め廊下を進む。こんな所一秒でも長くいたくない。学校に凜はいないのだ。当たり障りのないように学校では過ごしている。しかしそれは王城でも同じだった。


 休日さすがに部屋にこもりっぱなしというわけにもいかず王城を散策するが高確率で話しかけられる。


「蘭さん。」


 このように。後ろから聞こえてきた声は面倒な相手のものだった。無視をしたいがそれが出来ない相手。振り向くとそこにはシーノ・ユメリアがいた。


「お久しぶりですシーノ様。」


 笑顔を浮かべ挨拶をする。

 対するシーノは名前を呼ばれ頬を僅かに緩ませていた。


「聞きましたよ、少年をしたと。さすが聖女様、なんと慈愛に満ちた美しい心をお持ちでしょうか。」


 突然の美辞麗句。悪い気がしない。それどころか内心では喜んでいる。


「いえいえ、たった一人しか救えていませんのに。ただ目の前にいたから見捨てられなかった……偽善ですよ。」


 憂いを帯び少し目を伏せる。その仕草は相手の目にはなんと殊勝に映ることだろうか。実際の心のうちはいかがとして。


「さすが聖女様。私たちとは心の在り方が違う。話は変わりますがどうです、この後一緒にお茶でも。新しい茶葉を仕入れたのです。」

「新しい茶葉ですか? 頂いてもいいならぜひ。」


 紅茶は好きでも嫌いでもない。だがこの男とは飲みたくはない。けれど断ることは許されない。


「では、こちらで準備をしますので。昼食が終わった後こちらから迎えを遣わせます。」

「ありがとうございます。楽しみに待っています。」


 頭を下げ礼を述べる。お互いの顔は見えない。


 獲物が来た。思わず舌なめずりをした。





 シーノの遣いに連れてこられた東家の周りには薔薇が咲いており香りが鼻孔をくすぐる。すこし鼻をつまみたくなる。


「お待ちしておりました蘭さん。さ、どうぞそちらに。」


 シーノの向かいの椅子に腰を下ろす。カップにポット。それと小さい菓子が並んでいる。


「突然のお誘いに応えていただきありがとうございます。ずっとこうしてお話ししたかったのです。」


 美形の破顔した顔は見れるな。冷静に思いながらも純粋な好意に自尊心が満たされていく。


「今の時期しか取れない茶葉作りました。お口に合うといいのですが。」


 眉を下げる姿さえも様になる。

 その顔を見ながらまずはカップを手に取り匂いを嗅ぐ。いい香りが入ってくるが薔薇の匂いと混ざり勿体ない。怪しい匂いはしないので一口飲む。スッキリとした味わいでそのまま喉を通っていく。


「美味しいです……凜にも飲ませてあげたい。」


 発されたその名前にシーノの顔がわずかに曇る。まだあの時のことを根に持っているようだ。


「確か凜さんが大声を上げたと……。」

「突然子供を拾ってきたんですもの、仕方ないです。あ、仲直りはしましたので。──一番信用していたのに。」

「何か言いましたか?」

「良かったなと。仲違いしたままなんて嫌でしたから。ただ一人の家族ですからね。」


 家族、その言葉にシーノは視線を乱から外した。

 そこからは紅茶を飲みながら質問攻めだった。根掘り葉掘り聞かれるので嘘をまじえながら答える。


「素晴らしい天気の中蘭さんのことを沢山知れ嬉しい限りです。」

「そんな私ばかり聞かれてばかりで恥ずかしいです。それにしても今日はほんとに天気が良くて眠くなってしまい──。」


 嫌に瞼が重い。視界がぼやけてきて空が揺らめいている。倦怠感でテーブルに肘を着く。


「おや、やっと効いてきましたか。どうぞゆっくりお眠りに。後で起こしますから。」


 乱の様子に驚くどころか優しい顔で愛おしそうに見つめている。


 油断した。こんな直接来るなんて──。


 シーノを睨もうとするが瞼と体が落ちていく。そしてそのまま意識も途切れた。

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