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本日2話更新です。前の話からお読みください
「メルク!」
凜が見かけた白衣の人物は探していたメルクだった。メルクだと分かり、さらに速く走りその背に追いつくと肩を掴む。
気怠げにこちらを振り返ったメルクは薄く笑っていた。
「!」
肩から手を離してすぐさま距離を取り構える。
「お前は……誰だ!」
メルクではない。メルクの姿形をしているが動きと表情が完全に別人だ。得体の知れない恐怖に汗が垂れる。
「く、くく、くくく。そうか、お前は異世界の奴か。そうか、そうか、そうか。俺が誰だか分からない? それはそうさ。分かるわけがない。分からなくいい。俺は目覚めた。あの方が来た、ここに。あの方が声を発した。あの方が魔法を使った。あの方が生きていた。ああ! 長い間待っていたかいがあった。最初は間違いかと思った。願望ゆえのやつかと。しかし──お前がいる。お前達がいる。お前達の存在があの方がいるという証明。さて──お前は誰に呼ばれた?」
歪んだ、歪んだメルクの顔が凜に問う。恨みと歓喜が混じった顔は気持ちが悪かった。メルクではない何かが発した言葉意味がわからない。だが、今はメルクをどうにかしなければ。
「お前は──誰だ!」
「ふん。答えるつもりはないか。いや、わからないのか。俺が誰かも、何かも。そして自分がどうしてここにいるかも。まあ、いい。それなら──直接知るまでだ。」
奴の周りの床に魔法陣が現れそこから黒い手が伸びて襲ってくる。とっさに『盾』の魔術を駆使して黒い手を弾く。弾かれ動きが止まったところメルクの元に駆け構える。
一撃で昏倒させる! でなければ何が来るかわからない!
凜は黒い手が現れる魔法陣を知らなかった。陣をみても複雑でぞっとするものだった。
「ほう、魔術を使うか。おもしろい。」
メルクの腹に掌底を撃ち込むと同時に魔法陣を使い魔力を流し込む。しかし、魔法陣は発動しないどころか岩を相手しているようでビクともしない。
「『防護』ぐらい常時張れるが?」
舌を打ちたくなる。しかし、それをする間もなく凛はその場から飛び退く。凜のいた場所に剣山が出来上がっていた。少しでも遅ければ串刺しになっていた。
構え直し深呼吸をする。敵をじっと見る。
凜の周囲に魔法陣が現れ、そこから氷の刃が飛んでいく。
「この程度。」
炎の壁が氷を溶かす。壁でお互いが見えなくなったその一瞬、凜は体に魔術をいくつもかける。
炎が消えると雷撃が飛んでくる。土をシールド状にして防ぐ。土はそのまま地面へと落ちるが腰を下ろしてそこに魔法陣を展開する。それは物に形を与える魔術。複雑な魔法陣で最近覚えたものだ。シールドなど作るよりも難しいがそれは思いのどおりの形、強度にできる。そして土は無数の槍となる。凜の周りには大量の槍が刺さっている。それを両手に取る一つ右手で投げる。敵は簡単に避ける。
「良いのか? 他の人間に刺さるかもしれないぞ?」
「さっき俺に質問している時に『空間把握』『空間制御』を使ってここら辺を隔離させただろ。お前の足元に出ていた魔法陣に気づかないとおもったのか。」
返答しながら槍で黒い手を叩くと槍が崩れ落ちる。すぐさま別の槍を持ち黒い手を叩き、薙ぎ、刺す。その度に槍が土へと変わる。魔力を吸い取られているようだ。それでも消せるなら帳消しだ。
「く、くく、くくく、くくくくくく! 気づいていたか! そうか、そうか! これはいいものを見つけたな。」
敵から雷撃が飛んでくる。槍の先で受けてすぐさまそれを投げ捨てる。メルクの体全体的が電気で覆われている。
息を吸い呼吸を止め掛ける。一本の槍を持ち黒い手を避ける。雷撃が飛んでくるが体で受ける。魔術を掛けているのでなんともないが最初から最後まで受け続けられるわけでない。今この時だけだ。
槍に『魔力吸収』と『硬化』の魔術を何重にも掛ける。その槍で全力でメルクを叩く。
「合格だ。」
そう言うと全力の一撃が片手で止められる。メルクの体とは思えない力。取り返そうとするが動かない。離そうとしても遅かった。土が凜の手を飲み込む。
ま、まさか。あいつに魔術を乗っ取られたのか!?
「この魔力量に魔術への造詣──お前の体、貰うぞ。」
黒い霧がメルクの体から溢れ出す。メルクの頭上で蠢いたと思うと凜に向かってくる。
『防護』『盾』の魔術を使うが、一瞬で破られる。黒い霧が薄く笑った気がした。そう思った時には口の中へ入り込んでいた。
「──!!」
自分の体が何か、何か、黒いものに蝕まれていく。気持ちが悪い。気持ち悪い。吐きたい、吐けない。体の中を這いずり廻られる気持ち悪さに涙が出てくる。苦しさに目を閉じると涙が零れ、それと同時に意識は途切れた。
昔々。ユノメリア王国が悪魔に脅かされていました。悪魔は秩序なく無差別に無慈悲に人を襲いました。悪魔により疲弊した王国を倒そうとブルガ帝国からの侵略にあいました。
国王は頭皮が薄くなるほど日々悩まされていました。国王はこの間色々な面倒事押し付けられたせいで国王になりました。
このままでは自分の頭が砂漠になることを恐れた国王は禁断の『異空間召喚』に手を出しました。ユノメリアの伝承で異世界からの来訪者がこの世界に光をもたらす。というものがあり、国王は己の頭皮の為に伝承に縋りました。
王国のある封じられた一室に『異空間召喚』の魔法陣があり、莫大な魔力をつぎ込むことで起動するそれを国中の魔力の多い人間を集め実行しました。
眩い光の後、現れたのは長い黒髪を持った美しい女性でした。
彼女は光の魔法、魔術を操り悪魔を倒しました。うん、倒した。そこは間違っていません。ただ彼女は悪魔を生け捕りにして研究したり、さらに、悪魔そっちのけで自分の世界の言葉と文化を広めました。手っ取り早く広めるため聖女と名乗り布教していきました。そして国王の髪は薄くなりました。
彼女は悪魔と戦ったけれどもその頻度は落ちていきました。悪魔が減ったのでした。
暇が増え彼女はある少年を弟子としました。少年の天才性に目をつけたのでした。彼女自身天才でしたので同族をこよなく愛したのでした。
少年の立場に多くの人が羨みました。きっと少年の存在に大きく心が歪んだ人もいたはずです。そして国王の髪が薄くなりました。
悪魔がいなくなり、国王の髪が豊かになり始めた頃彼女は突然他の国に赴き言葉と文化を広めました。さらに他の大陸にも。国王は禿げました。気づいたのです。禿げた方が楽なことに。
悪魔の脅威が去って久しく、少年も大人になった頃彼女は魔王と話すと書き残し消えました。。様々な憶測が飛び交いました。聖女は魔王とつながっていた。聖女は魔王だったと。気味が悪いほどそれは王都で伝播しました。そしてそれは彼女に近かった人物にも影響を及ぼしました。
弟子だった。彼は何人もの弟子を取るようになっていました。そしてその彼に噂が立つ。彼も魔王の仲間だと。
魔王の仲間だとされ死刑を望まれた彼を守る為弟子が代わりにと彼に告げずに絞首台へと登りました。全ての弟子が吊るされ、ようやく彼にも知らされました。お前の罪晴れた、弟子がお前を裏切ったのだと。彼は走りました。そして城の地下の罪人とその死体を仕舞う所へ。そこで弟子達が笑いながら吊るされ死体となっているのを見ました。
闇が少年だった者の心を支配していきます。人を恨み、憎む、可哀想な人間へとなりました。そんな姿をみかねて聖女は彼の前に現れ導きました。人への恨みは晴れませんでした。けれど、聖女へは恩がありましたしなにしろ友人でした。彼の唯一の。人が憎いだけ。世界は憎くない。自分に言い聞かせていました。
聖女から提示されたのは世界の安定を導く仕事でした。世界から隔絶されてもいいなら、手が差し伸べられました。
世界に未練はありませんでした。彼はその手を取りました。
王国では少年が消えて男が嗤いました。けれど愛しい人はいません。どこかにいるはず、消えるはずないと、その思いはユノメリア王宮にこびりついたままになりました。




