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遅くなりました

 バンッ!と勢いよく凜と乱の部屋の扉が開けられ、金髪の男が入ってくる。乱は慌てることもなく笑いかける。


「お疲れ様。凜。」


 凜と呼ばれた男は金髪を乱暴に掴むとそのままそれを引っ張る。すると大した抵抗もなくそれは頭から離れ、黒髪が現れる。


「はあぁぁぁ。慣れないことして疲れた。」


 椅子に座り頭を掻く。疲労からのストレスのせいか目付きが鋭い。

 凜は乱に向かって右手を差し出す。


「ほら、坂本桜の魔力を手に入れた。」


 凜から小さな宝石を受け取る。宝石は魔石で魔力を貯めることができる。桜の左手に触れた時に手に隠し持っていたのだ。


「さすが。これで確証が取れる。今すぐ謁見の間に行って試すわよ!」


 魔石を握りしめ嫌らしく笑う。


「ふふふ、そしたら犯人探し……楽しみね。」


 悪魔のような顔だと凜は思ったが、それでも整った顔立ちとういうのは恐ろしい、美しいのだ。


 思ったけどこれ俺である必要なかったよな。変装しなくても普通に接触して魔力を取ればいい話じゃないか? 絶対自分が楽しいからさせたよなこいつ。


 これからのことを楽しみにしている乱の横顔をジト目で見る。こちらは見ておらず謁見の間に行く気満々だ。凜も立ち上がりその後を着いていく。


 謁見の間にはやはり白衣を着た研究室の人間しかいない。試験も明後日ということもあって人も多い。


「ジヴェストさん。」


 奥で作業をしているジヴェストの元へと行く。前と同じく『防護(プロテクト)』の魔術を幾重にもかけていた。


「よお、凜と蘭じゃねぇか。もう坂本桜の魔力が手に入ったのか?」


 いつものように人を食った様な笑みを浮かべてくる。何度見ても悪巧みを考えているようにしかみえない。


「はい。しっかりと取ってきましたよ。取られてることに気づいてないでしょうけど。」


 自信満々に言い放つと誰が仕掛けたか不明な魔法陣の中央に魔石を置いて一旦魔法陣の外へ出る。


「『空気槌(エアハンマー)』」


 魔法で魔石を割る。砕けると共に魔力が魔法陣へと流れ込む。そして力強い光を放つ。魔術が発動したのは一目瞭然だ。


「……予想は合っていたか。けど、ここから問題だな。」


 これから考えるのは犯人だ。この犯人の目的は坂本桜を聖女とすることで間違いないだろ。彼女にだけ作用する魔力を増強する魔法陣、それが証拠だが、坂本桜を聖女にして得する奴は誰だ? 彼女と懇意にしている貴族と思ったが数の多さにげんなりする。探すんじゃなく、炙り出すしかないな。メルクの協力がいるな。


 辺りを見てみるがメルクの姿がない。


「どうしたの?」


 凜の様子に乱が訊ねてくる。


「メルクの姿が見えなくて……。」

「メルク? ああ、あの子。」


 メルクが誰か分かると顔が歪む。何故か乱はメルクのことが苦手なのか会うことを嫌がる。


「ジヴェストさん。メルクはどこにいます?」


 嫌がろうがメルクの協力は必要だ。我慢してもらう。気付かないふりをしてジヴェストに訊ねる。


「メルク? そこらに……あ? いねぇぞ。──すまん、ここにいないんじゃ俺は分からねぇ。この城のどっかにはいると思うけどよ。」

「研究室にはいないのか?」

「いや、今日はあいつは非番だ。非番でもここにくるんだが……。悪いが自分で探してくれ。」


 それなら仕方ない探してみるか。乱にも手伝ってもらおうと顔を向けると全身で嫌と伝えてきた。これは一人で探すしかないようだ。


「はあ……乱、戻るぞ。この魔法陣を消すのは明日だ。」


 二人は謁見の間から出る。


「──それで、私は犯人を探せばいいのよね。坂本桜が聖女となって得をする人物。」


 歩きながら小声で確認してくる。


「さらに魔術に精通している奴だ。それと、もしかしたらそいつはジヴェストさんと関わりのある人物かもしれない。」

「ジヴェスト? どうして?」


 この間のジヴェストの言動を伝える。


「ふーん。そんなことを言ってたのね。わかったわ。そっち関連でも調べるから。」

「頼んだ。それと──。」

「謁見の間に入っても怪しまれない人物、でしょ?」

「よろしく頼んだ。」


 ぐしゃりと乱の頭を撫でる。


「それじゃあ私は犯人を探してくるけどこれだけだと見つからないだろうからメルクを見つけなさいよね。でないと犯人を炙り出せないんだから。」


 メルク探しを託すと乱は離れて行った。それを見送って別の方向へと歩き出す。


 居場所を知っているとしたら研究所の人間か。


 そう思うや否や凜は魔法研究所に向かう。途中五人の女性に囲まれる貴族の男がいた。まだ二十歳になっていないであろう、僅かに幼さのある顔に髪は緩くウェーブがかかっており、優しい顔をしていた。ちらりと顔を見ると目が合ってしまった。


「あ、もしかして聖女候補様のお兄さん?」


 女性の間をすり抜けてこちらにやって来る。目が合って声を掛けられたとあっては無視することは出来ず立ち止まる。


「初めまして。俺の名前はトーマス・マッカー。確か君は蘭さんのお兄さんで凜さんでいいんだよね。」


 手を差し伸べ握手を求めてくる。トーマス・マッカー。宰相のジルド・マッカーの息子だったな。


「その通りです。凜といいます。トーマスさん。」


 ジヴェストとから言われた通り名前で呼ぶ。握手会にも応じる。その手は凜より薄いものだった。


「あはは! そんなに固くならないで、敬語もいらないからさ。」


 柔らかい笑みに穏やかな口調はこちらの警戒心を解いてくる。


「じゃあ、トーマスでもいいか?」

「うんうん。いいとも! 俺も凜と呼ぶよ!」


 謎の脱力感が凜を襲う。彼の柔らかい雰囲気に当てられたのだろう。


「凜はこの世界に来てどれくらいなの?」


 興味津々と輝いた目を向けてくる。この話に付き合ったら長くなると感じる。切り上げないと。


「ごめん。今急いでいるから今度。」


 慌てた口調で断り、その場から去ろうとする。


「待ちなさい! トーマス様とのお話より優先すべきことなどあって?」


 一人の女が凜を引き止める。


「クリステ。そういう風に言わないで。凜ごめんね。この子のことは気にしないで凜のやることをやってきて。」

「と、トーマス様……。」


 クリステと呼ばれた彼女はトーマス肩を掴まれ顔を真っ赤にしていた。思わずその場面を冷めた目で見た後すぐそらし、メルクを探すためそこから離れた。


 トーマス・マッカーか。宰相の息子だ。権力はある、その上あの女の侍らし方。関わらないのが無難だな。


 凜はあえてこの世界の貴族の細かな序列は覚えていない。面倒そうな特に権力と地位のある貴族だけ覚えているだけだ。細かく覚えないのはこの国に馴染むつもりは無いと態度で示すため。


 どうせいなくなる世界だから気にしても仕方ないが距離を置いておくに越したことはない。今はメルクを探さないと。


 廊下を早足で進む。すると遠くで白衣をの背中が見える。背が低い。遠くでさらに背中からだと判別出来ないが凜は駆け出した。









 去っていく凜の背を見ながらトーマスは優しく微笑んでいた。


「と、トーマス様(よろ)しかったのですか?」


 肩を掴まれたままのクリステ・ローランドが恐る恐る声をかける。


「うん。急いでいるみたいだったしね。クリステは駄目だね。勝手に話し掛けて。クリステが凜に嫌われたら俺も嫌われるんだよ?」


 悲しそうな声音に顔。それはクリステの罪悪感を浮き彫りにさせ強くする。さらに、他の女性から嫉妬と怒りの視線も刺さる。


「だからこれはお仕置かな。」


 肩が縮こまり、顔から血の気が消える。


「いつもの所で待ち合わせね。」


 ひどく優しい笑みを彼女に向ける。甘く蕩けそうな顔なのに恐怖しか感じない。恐怖しかないのどこか興奮してしまう。


 クリステの様子に満足したトーマスは他の女性とも話す。しばらく話してから全員に解散を促さす。


 一人になったトーマスは凜のことを思い出す。


 さて、どうやって仲良くなろうかな。蘭さんと仲良くするにはまず彼と仲良くしないと。蘭さんが彼をひどく気にしているのは傍目から十分に分かる。それに、凜はかなりちょろい。簡単に人に心を許す。まずは簡単な方から。


 ああ、それにしても聖女候補の二人は違った味を出している。

 桜ちゃんはあの真っ直ぐなところがいい。けれど誰にも心を預けない。開かない。蘭さんは少し間違うとこちらが支配されてしまいそうなつよさがある。うん、どっちも欲しいな。


 トーマス・マッカー。宰相の息子で魔法に秀でており、それは最高峰と呼ばれるレベルに達している。女好きと評される。本人もそれを知っているが、彼は女性を支配するのが趣味であり、女好きとは違う。肉体の快楽は求めない。副産物にしか過ぎず、所有よくを満たすことに悦を感じる。


 蘭さんを手に入れるのに一歩近づいたのはいいけどあいつとぶつかるのが厄介だな。彼女は明らかにあいつの好みだ。変なことをしなければいいけど。まあ、仮にぶつかったとしても俺が勝つけど。どうか蘭さん。あいつに取られないでください。さすがに死体となったらいらないから。


 強い所有欲を隠して笑う。しかし、その毒は隠しきれていなかった。



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