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前回より短めです
「では、乱先生。地球ではないと判断した根拠をどうぞ」
最悪な事態と判明した途端凜は肩の力を抜きだらりとし始めた。
ここが地球じゃないとわかっただけで一歩前進だし、力んでも仕方ない。ゆるりと乱の高説を聞こうじゃないか。
そんな凜のだらけた様子を見てくすりと笑う。
「説明――といきたいんだけど……とりあえず上を見て」
人差し指を立てる。それを追って凜も顔を上げる。そして目を見開いた。
「なっ……ま、まじかあ。ははっ、あれを見たら地球とは思えないわ。しっかしあれどういう原理で浮いてるんだ?」
空には巨大な何かが浮いていた。それは岩に見えたがしたからだけなのでなんとも言えない。
「原理については私もさっぱりよ」
「はあーだから地球じゃないと――って、それじゃ“さっぱり”って言った時はもう分かってたってことじゃないか!」
「そうよ。いつもなら気がつくのにねー私が何かに気づいたこと。よっぽど混乱してたのね」
よしよしと凜の頭撫でる。凜は気落ちしたのかため息を吐いた。
「ほんと、全くだよ。それと、今は別に女らしくする必要ないだろ?」
凜が思い出したのか訊ねる。
「今は女装中。それにここなら私が男だなんて誰も知らない。完璧に騙せるわ」
「あ、そ」
「そーだ!凜!立ちなさい」
いきなり凜を立ち上がらせる乱。なんだと訝しみながらも立ち上がる。そして乱が隣に並び自分と凜を見比べる。
「ああああああ!背が伸びてる!最悪!」
叫びながらうずくまった。
「……凜が167cmでこの間私が156cmで、凜はもう背が止まってるから……」
ぶつぶつと呟きながら今度は両手を地面につけ
「3cm伸びた……」
凜は思わずこけそうになった。突然立てって言ったのは背を測るためか。確かに私はもう止まったからな……。
慰めようと乱に手を伸ばした瞬間二人を殺気が襲った。
二人はすぐさま臨戦態勢を取った。
「凜」
「分かってる」
緊張が走る。
「四足歩行……ん、な、なにこの大きさ……」
乱の眉間に皺がよる。が、それも一瞬ですぐに切り替わる。
「全長4m!四足歩行!速さはものすごく速い!」
そう言うやいなや森の奥から黒毛の生き物が現れた。それは狼のようだが規格外の大きさをしていた。目が血走り、牙が大きすぎるせいか口が閉じず涎が垂れている。
獣は一旦止まると二人を視界に捉える。そして真っ直ぐに凜に突進してきた。乱はすぐにその場から離れたが凜は反応できずそのまま吹っ飛ばされた。
「がっ――ぐ、がはっ、がはっ」
「シュー、シュー」
凜と乱は驚いていた。獣の速さに。特に乱は自身が感じた速さより速く、自分の体感が当てにならないと内心で唾を吐いた。
大きな動物になればある程度速くなるが今のは異常だった。吹っ飛ばされた凜はまだ地面に顔を着けていた。
は――なんだ今の速さは。これ死ぬんじゃ、だってあんなスピードで突き飛ばされちゃあ――。
「よっと」
凜が跳ね起きる。体は痛く、ところどころ肌が剥き出しの部分が擦りむいている。
いけない、いけない。弱気になってた。さて……命に別状はなさそうだ……これは、もしかして……。
「乱!行くぞ!」
「ええ!任せて!」
何かの確信を得たのか乱に突撃を促す。顔と声、様子から凜が何かを得たと判断した乱。迷うことなく応じる。
一瞬目を合わせる。二人は同時に駆け出す。それは獣より速く無駄のない動きだ。
獣は凜に照準を合わせてるのかそのまま凜の方へと駆ける。口を大きく開き飲み込もうとする。
凛はそのまま逃げず、獣へと方向転換し、獣を迎え撃つ。
やっぱり獣は本能に忠実だ。弱い者から仕留める。当然だよな。だけど……。
凜は近づいてくる獣の下顎を蹴り上げる。動きが止まる獣。怒りで染まった目で凜を睨む。凜がにやりと笑うと乱が飛び上がりその長い髪をたなびかせながら
「せい!」
獣の横っ腹を殴った。獣が吹き飛ばされる。そして二人でそれを追いかけ凜が先回りをし拳を握る。そして乱も再度飛び上がり二人同時に背と腹に拳を叩き込む。
「ガ――」
獣は力尽き地に落ちた。
凜は口を開くことなくそこらに散らばった武器の中から解体専用のナイフを持って来て、解体を始めた。
解体が終わり、凜が口を開く。
「乱、どうする。ここは、地球じゃない。空の謎の物体に、この巨大な獣」
地球ではないと分かった矢先に突然の襲来。どうもここは安全ではない。
「……」
乱は何も言わない。
「正直私たちだけでここを生き抜くのは無理だ。まず、誰か適当な人の良さそうな人物を探そう。何とかしてここでの生活を確保しないと」
「……」
何も言わない。
「その人からこの世界のことを聞くんだ。そして帰る方法を探す。無理と分かればここで生きていけばいい――で、乱はどう思う?」
凜が乱の方を向く。そこにはお腹に手を当てた乱がいた。
「お腹空いちゃった」
思わず目をぱちくりとさせてしまった。そして笑みを作る。
「ご飯にしよっか」
そして二人の胃には先ほどの獣が綺麗に収まった。
「さて、そろそろ行くか」
ご飯を食べた後二人は散らばった武器を集めてそれを獣の皮と葉でまとめて持ち運びしやすいようにした。
「ねぇ、凜。私思ったんだけど……」
「なに」
「この姿で行って大丈夫なのかな?」
乱が制服のスカートをつまみながら言う。
確かにこの世界の服装が分からないから安易に大丈夫とは言えない。けど……。
「そこは問題ない。集落や人が多いところに行かなければいいんだ。まぁ、元から行く気ないけど。本当に見つけたいのは一人もしくは二人で人里離れて暮らしている人だから」
「そんな人運良くいるの?」
「さあ、でも私たちの祖母も一人で山にこもってるしきっといる」
「ほんとに大丈夫なの……」
「気合でなんとか見つけるから」
「ええ……」
乱が萎えたような声を出す。それを見て凜も苦笑する。凜自身も気合で見つけようだなんて思っていない。見つからなかったら二人でなんとか生きていくつもりでいた。街に行ってもいいが、もし、私たちが奇異な存在に映ったら。それが集団で襲いかかる。いい展開は待っていないだろう。
「まーまー、細かいことは気にしない。行くよ」
「はーい」
二人が森を進んでいく。先導は乱だ。
迷うことなく進んでいく。
「スカンディナヴィア」
「アイリッシュコーヒー」
「日付変更線……あ」
「はい、凜の負けー」
二人は道中ずっとしりとりをしていた。凜は全敗だ。
「本気出してよ。つまんないんだけど」
乱がいじけながら言う。語調は荒くはないが内心ではかなり苛立っている。
「ごめん、飽きた。昔からやってるからおおよそ何言うのか分かるから」
凜が素っ気なくあっさりと言う。別のことを気にしているようだ。
それに気づき乱が足を止めた。
「どうかしたの?」
「いや、んー、ちょっとこっち来て」
違う方向へと乱の答えも聞かず進んでいく。乱は仕方ないと、その後をついて行く。
そこまでしない内に開けた場所に出る。人工的に開かれたのだろう。そして、家が一軒建っている。
「――ビンゴ……!」
凜は上機嫌でその家に近づいた。
戦闘シーンは未だに上手くかけません。
やはり、経験の有無ですかね。