13
りんの漢字をよく間違えていることに最近気づきました。
『凜』が正しいものです。
誤字脱字ありましたらご報告おねがいします。
朝、体を冷たさが包む。目を開けると乱が掛け布団にくるまっていた。凛はため息をつくとベッドの上に立ち上がると軽く乱を蹴ってからベッドから降り立った。
近くのテーブルを見ると乱が買ってきたであろう食べ物が置かれていた。凜は軽く顔を洗ってから乱を起こすことにした。
乱を起こした後二人は朝食を簡単に済ましてのんびりと瑠依が来るのを待っていた。
外が賑わってきた頃瑠依が迎えに来た。迎えにやって来た瑠依は昨日よりも華美な制服を身にまとっていた。
「おはようございます。凜さん、蘭さん。」
瑠依が挨拶をしてきたので二人もおはようございます、と返す。
「瑠依さんの制服昨日、一昨日と少し違いますね。」
凜が思ったことを訊ねる。
「これは式典などに身につけるもので今日は王に謁見するという事なので。少し派手で私はあまり好きではないのですが。ところでそちらは準備は出来ていますか? さっそく王宮に向かいたいので。」
「準備万端です。」
「準備は出来ています。」
乱と凜がそう伝えると瑠依は軽く頷く。
「分かりました。それでは行きましょう。」
二人は瑠依の後に続いて王宮へ向かった。
王宮の敷地の周りは水路があり、橋を渡り敷地内へと入る。
「ここは王宮ですが図書館、学校、兵士舎、広場、訓練所があるところで一部を除いて一般の方も入れます。私としては国王の所へ行くのを止めて訓練所に行きたいのですが、今回は諦めるしかないですね。」
瑠依のその言葉を聞いて凜は以外に思った。
デスクワークを好みそうなのに体を動かすのが好きなのか。
少しだけ瑠依に興味が出てくる。
「あの門が王宮の入口です。もう少しで着きますよ。」
少し遠くに堅牢な門が見える。門番も門と相まって小さく見える。門の前まで来ると二人の門番が槍を門の前で交差させ侵入を拒んできた。
「その勲章は騎士団三番隊副隊長の瑠衣殿ですね。普段なら止めることなくお通ししていましたが連れのお二人は一体どこの者でしょうか。」
冷たい目が乱と凜を突き刺す。
「このお二方はメル村での件の者達です。それと国王から二人を通すように預かった書状です。」
門番の一人が瑠依から書状を受け取り中を確認する。
「確かに国王のものですね。失礼致しました。お通りください。」
門番が脇に避けると堅牢な門が音を立てずに開く。
瑠依は何も言わず進んでいく。少し遅れて凛と乱もついていく。
王宮の中は白く輝いており、現代の日本ではなかなか見れない建物だった。
「国王は一番奥の謁見の間で待っています。この先も謁見の間は利用すると思いますので場所は覚えておいた方がいいと思いいですよ。」
奥に進みながら必要になりそうなことを説明してくれる。途中、給仕と思しき人が瑠依を見て頭を下げる。
王宮に入って数分。瑠依が赤い扉の前で立ち止まった。
「ここが謁見の間です。おそらく国王とそのご兄弟がいるかと思いますが、向こうがほとんど喋ると思うので適当に相槌を打って楽に過ごしていてください。」
一国の主相手に楽にしていられるか! 二人が声に出さず心の中で同じ反論をした。瑠依は二人の強ばった顔を見て少し笑った後顔を引き締め扉を開ける。
「ユノメリア王国騎士団三番隊副隊長瑠依です。メル村にて異世界より召喚された者を連れて参りました。」
「よくやった。目の前まで来るが良い。」
部屋の一番奥から豪奢な椅子に座った長い白い髪の男が言葉を発した。
「お二人とも着いてきてください。」
瑠依が二人に小さく声をかける。瑠依が丁寧な所作で歩くので二人もそれに倣って歩く。
王の御前に着くと三人は膝を着いた。
椅子には長い白い髪の男。その脇には同じように白い髪だが短く切りそろえられている青年と腰まで伸びた白い髪が特徴の少女がいた。三人とも赤い瞳が目立つ。顔を伏せる前にそれだけを確認する。
「その二人が異世界の者か。私はユノメリア王国国王のユーノ・ユメリアだ。まず、二人には謝罪をしなければならない。顔を上げてくれないだろうか。」
二人が顔を上げるとユーノが椅子から立ち上がっていた。
「申し訳ない。私たちの勝手な事情により巻き込んでしまって。」
目の前の白い髪の三人が頭を下げた。それを凛は冷めた目で見る。
なんだ、巻き込んだ自覚があるのか。最低だな。人の人生に介入するのを自覚してやったんだから。
謗る。最初から凜は召喚を決行した人間にいい印象など持っていなかった。
「だが、私たちだけでは無理だったのだ。あの悪魔の脅威はどうにも出来なかったのだ。だから、どうか力を貸してもらえないか。」
凛と乱の目をじっと見てくる。特に乱の。乱は一度目を伏せ開く。
「……ええ構いません。ここに来て一ヶ月。悪魔の脅威、被害は十分に分かっています。微力ですけどお手伝いさせてください。」
乱は優しく微笑みながら答える。まるで聖女のように。
国王はその答えに体から喜びが溢れ出す。
「――――ありがとう!あなたの心に最大の感謝を示そう。名前はなんと言うのだ?」
「らん――――草冠に門に東と書いて蘭と言います。」
「蘭、か。とても美しい名だな。そちらの御仁は私たちに力を貸していただけるだろうか。」
期待のこもった目が凜を見つめる。
この流れで断ることも出来ない。それに今後の活動のためにここは首を縦に振るしかない。乱のためにも仕方ない。
「ええ。乱ほどではありませんが少しでもお役に立てるなら。私の名前は凜と言います。」
「そうか! ありがとう凜よ。」
国王は喜び二人の手をひとしきり強く握ると椅子に戻っていく。
「ところで二人はキョウダイか?」
「はい、そうです。凜が兄で私が妹の双子です。」
乱が答える。
凜は今後応答は全て乱がやってくれると思い、目の前の三人を観察する。
椅子に座っているのはこの国の王、ユーノ・ユメリア。今年で34歳だったはず。先代の夫妻が病死したためその座に着いた人だ。その隣に立つのが弟のシーノ・ユメリアか。私たちと同い年でまだ学校通っているはずだ。そして、そこの少女が妹のアナ・ユメリア。今年で15だったか? しかし直系の王族が揃っているのか。
凜は三人の顔をじっくり見てユーノとアナは問題ないとする。
問題はシーノか。こいつ……面食いか。
凜が面食いと評したシーノ・ユメリアは乱の顔を見つめ瞳孔が開いていた。頬も若干赤くなっている。
凜は呆れていた。凜と乱は客人扱いだ。客人相手に懸想なんて王族として問題ではと。
しかし王族といっても驕っている訳でもない。以外にも紳士な対応だな。それと名字について触れてこない。もう一人の地球から来た人物のことを考えると聞いてきそうだが。
「そういえば二人に家名はないのか? もう一人の異世界からの者は持っていたが。」
凜が思っていた矢先に質問が飛んできた。乱はその質問に凛が瑠依に答えたようにない、と答えた。
「ふむ。ないのか。つまり二人はまったく別の世界から来たと見るのが良いな。二人にはもう一人と会って欲しいのだが今は学校に行っておる。今日は夕食まで自由にしていてくれ。瑠依。二人を三階の空いている王族の部屋へ。」
「承知しました。お二人とも着いてきてください。」
思いの外国王との対面は短く済んだ。瑠依に案内され二人は今は使われていない王族の部屋へと案内される。
「うわ……。何この光り具合……。ここで生活しろって?」
部屋を見て凜が顔を顰め苦言を呈す。部屋の調度品は金があしらわれているものが多く、さらにレースなど全体的に白く、目が痛くなるほど明るい。
「いつ見てもこの部屋は明るいですね。……なくなればいいのに。」
瑠依が聞いたことの無いような低い声で小さく呟く。
瑠依は王宮では書類の仕事をよく回されている。主にメータ・シルフィードのせいで。書類を家に持ち帰ることは出来ず泊まることが多い。その際王族の部屋に泊まらされる。その時の部屋がこの部屋である。
本人は騎士団の宿舎に泊まりたいのだが遠いので王族からのご好意で泊まらされている。
平民の出の瑠依にとってはひたすらに過ごしにくい部屋でしかない。
「私は結構好きですけど。何も無いよりあるほうがいいですし。それに二人で生活するには十分な広さですし。」
乱は満足気ににっこりと笑う。
「すみません。お二人は一緒の部屋ではなく別々です。さすがに客人にそのような粗末な対応は出来ません。」
瑠依さんはきっぱりと言い放つ。
「それと先に申し上げておきますが、お二人にはそれぞれ専用の使用人が付くかと思います。」
「待って! それは困る!」
凜が慌てて抗議する。誰かに付かれていては自由に動けない。
「おや、中々の好待遇ですがまだ足りないですか……。でしたら王族の方にでも掛け合って……」
「瑠依さん面白がっていますよね! 困っているのは見て分かっていますよね? 物足りないのではなく余計なんです!」
凜が切実に訴えかけると堪えきれないとばかりに瑠依が口に手を当て肩を震わせている。
「ふふふ。すみません面白かったので、ふふ。では、お二人ともこのお部屋でということでいいでしょう。使用人に関してですが一人は付けさせてください。一応監視も兼ねていますので。」
笑っていたかと思っていたら途中から真面目な顔になる。
「監視のこと言ってもいいんですか?」
「ええ、お二人には言っても問題ありませんでしょう。後で一人だけ来るよう手配しておきます。では、私は職務がありますので。使用人が来るまではひとまず部屋にいてください。今後のことはその使用人がお伝えしてくれると思いますので。では。」
頭を下げ、瑠依は部屋から出て行った。
瑠依が部屋から出た後二人はまず初めに部屋を物色し始めた。お互い無言で泥棒のように無駄なく部屋を漁る。
タンスやクローゼット。開けれるものは全て開け中を確認する。
もちろん衣服しか入っていない。更にどれも二人の好みのものでは無いという。
「なにこれ。こんなの絶対着たくない。」
乱がクローゼットからピンクのフリルの着いたドレスを取り出し広げる。
凜もそれを見て確かにこれは着たくないと頷く。
タンスなどは一通り見た。他に何かないかな、とぐるりと見ると姿見が目に入る。
姿見の前に立つと、目の前に男子用の制服を身にまとった人物が写る。鏡の中に写った自分を見て後どれぐらい男の格好をするのかと考えた。
凜が男の格好をするのは凜がそもそもこういった格好が好きというのもあるが、乱が女装しているから、というのが一番の理由だ。乱が女装を止めた時。それは凜が男装を止める時でもある。
小学校の四年からだったけか、男装を始めたのは。
鏡に触れようと手を伸ばす。鏡の中の凜も手を伸ばす。二人の指が触れるとそこから鏡に波紋が広がる。凜が歪み別の男が現れる。
「やっほー凜さん! 君の愛しの森の賢者だよ。」
凜は何も言わず鏡の面を下にして姿見を伏せた。
「ごめんごめん! ちょっとしたおふざけだから! おねがい見捨てないで戻して!」
姿見から情けない声が響く。その声はもちろん乱にも聞こえ乱が凜の隣に立つ。
「凜。もしかしてその人が今朝言ってた賢者? 可哀想だから戻してあげたら? いくら私たちより確実に年上で男なのに子供っぽくて気持ち悪くても。」
「そうだな。よいしょ。」
凜が乱の言葉に従い姿見を立てる。
「うう……、乱さん優しい……! って思ったらまさかの後半の辛辣さ! なんなのこの二人!」
「もう一回伏せるぞ。」
「あ、ごめんなさい。」
凜が冷たく言い放つとさすがに真面目に謝ってきた。
「で、何の用だ。それと鏡に写っているのはどういう原理だ、言え。」
「いや、どうなってるかなーって様子見だよ。原理はこの王宮には僕の陣が沢山仕込んであるからこれぐらいなら簡単だよ。物の受け渡しとかも出来たら良かったんだけどねー。でもそれをやると王宮の人間にバレるかもしれないからさ。」
事もなげにいうが物質の転送なんて距離が離れれば離れると難しい。存在の確立と遠くに魔法陣を出現させさらに維持をしなければ……ってこの人人の転送してたな。というかされたな。
「話に聞いていたけど凄いわね。」
「ほんとー乱さん? 僕すごいー?」
「ごめんなさいすごくなかったわ」
乱が早口で返す。賢者が頑張って高い声で愛嬌を出したかったのだろうがひたすら気持ち悪いだけだった。
賢者が落ち込んでいると部屋の扉をノックする音が響く。
「蘭様、凛様。いらっしゃいますか。使用人のジュシアと申します。ご挨拶に来ました。」
「あーあ。人が来ちゃった。じゃ、僕は退散するね。楽しい王宮ライフを謳歌してね!」
そう言い残して鏡の中の像が歪み、凜と乱が鏡に写る。
「どうぞ入ってきてください。」
乱が外にいるジュシアに声を掛ける。
「失礼します。初めまして使用人のジュシアと申します。今日からお二人のお世話係となります。よろしくお願いします。」
メイド服を来た黒髪の女性が部屋に入ってきて丁寧に自己紹介をし頭を下げる。そして頭を上げると
「で、あんた達が異世界からやって来た人達? ふーん……私より年下みたいね。」
口調が突然崩れた。驚きで二人が固まる。
「何よ。仕事はちゃんとやるわよ。てか瑠依から二人には敬語じゃなくて素の口調で話すようにって言われたのよ。あれ? もしかしてこの様子、私瑠依に騙された……?」
ジュシアの顔に青筋が走る。
「いえ! 私が頼みました! 敬語で対応されるの苦手なので……まさかまかり通るとは思ってなくて。」
乱が咄嗟に言い繕う。それに敬語ではないというのは別に悪くない。むしろいい。きっと瑠依さんが気を使ってくれたのだろう。
「そう。ならいいけど。改めて――――今日から二人の世話係になったジュシアよ。敬語ではないけど仕事はしっかりやるわよ。」
胸に手を当て凛々しく言う様はかっこよかった。
さて、どうしようか。ジュシアさんの話だと晩ご飯までは時間がある。
ちなみにジュシアさんは
『今日の夕食は王族の人と食べることになるから。日が落ちる前にはこの部屋にいるように。それまでは適当に過ごして構わないわ。それじゃ、私は他に仕事があるからこれで。』
そう言って颯爽と部屋から出ていった。
日が落ちるまでとなると結構時間がある。
「乱、どこか行きたいところある?」
「んー学校に潜入とか?」
「積極的に犯罪をしようとするな。」
「あはは、冗談冗談。図書館で時間を潰そうよ。」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ。まあ、でも図書館はいいな。」
部屋から出て瑠衣さんから教えてもらった図書館に向かう。宮中を歩く時何人かの使用人とすれ違ったがその度に頭を下げられる。既に情報が回っているのか。
凜はひどく居心地が悪い。
乱をちらりと見ると特になんとも思っていないみたいだ。さすがというより慣れだろうか。
「何か私の顔についてる?」
視線に気づいたのかこちらに顔を向けてくる。
「いや、いつも通りとだなって。」
「いきなりどうしたのよ。もしかして緊張でおかしくなった?」
心配そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫。緊張はしたけどおかしくなるほどじゃない。」
何事もないように笑って答える。釈然としないと眉を寄せている。
「ならいいけど……。でも! 少しでもおかしかったらちゃんと言ってね。」
「わかってる。」
深く頷けば乱は笑って、それなら、よし。と答えた。