草太、加納の事務所で仕事をする
◎木俣源治
加納の執事兼ボディーガード。大きな体をスーツに包み、いつも加納の隣に立っている。草太のことをあまり好いてはいない。
加納春彦は、退屈しきっていた。
彼の目の前には、小太りの中年男が座っている。高級なブランド物のスーツを着て、高そうな腕時計やアクセサリーをやたらと身に付けていた。いかにも落ち着いて余裕たっぷり、といった様子で来客用のソファーに座っている。
だが、この中年男の話は眠くなるくらい面白くなかった。
加納の事務所には今、六人の男が来ている。全員が、広域指定暴力団の銀星会という組織に所属しているヤクザなのだ。
その中でも、ひときわ態度の大きな中年男が幹部の水野良雄である。水野は来客用のソファーに座り、尊大な態度で加納に対峙していた。
一方、加納はいつものようにTシャツとデニムパンツ姿である。Tシャツの胸元には、デカデカと「匍匐前進」と書かれている。日本人離れした彫りの深い端正な顔立ちと、透き通るような肌の白さも相まって……漢字Tシャツを着ている日本文化好きな外国人と間違われることも少なくない。
その背後には、木俣源治が控えている。こちらはプロレスラーのような巨体を黒いスーツに包み、冷酷な表情で水野たちを見下ろしている。
水野の後ろにも、スーツ姿の若者たちが立っていた。全部で五人。もっとも木俣と比べると、明らかに役者が違っていた。彼らは、いかにも大物であるかのような態度でこちらを見ている。が、加納の目には一山いくらのチンピラの集まりにしか見えない。
だが、それよりも気になることがある。この水野という男の顔、何かに似ているのだ。
水野の言葉に適当に相づちを打ちながら、加納はじっくりと彼の顔を観察していた。
「加納さん……あんたは二十五歳の若さで、この流九市を仕切ってる。本当に大したもんだよ」
そう言って、水野はゲラゲラ笑う。本当に下品な笑い声だ、と加納は思った。この笑い声を一晩聞き続けるのと、猿の群れの真ん中でバナナを食べ続けるのと、どちらが不愉快であろうか。
「だがな、あんたもそろそろ考えてみた方がいい。ウチと組めば、流九市の支配体制は磐石になるんだよ。そうは思わないかい?」
言いながら、水野は顔を近づけてきた。その口からは、実にユニークな匂いが漂っている。一番目立つのは、タバコの匂いだ。この嫌煙思想が広まっている昨今、それでもタバコを止めないというのは……ひとつの強い信念に基づいての行動だろうか。それとも、ただ単に惰性で喫煙の習慣を捨てられないだけだろうか。
いや、この男には信念などないだろう。あるのは、下劣な欲望だけだ。
「黙ってちゃ、わからねえだろうが。なあ、俺に任せなって。悪いようにはしねえから」
先ほどから黙っている加納に業を煮やしたのか、水野の口調が荒くなってきた。それに伴い表情も変わってきている。
その時、加納の頭に閃くものがあった。
「あっ、コイだ」
「へっ?」
加納の口から、唐突に出た意味不明な言葉。水野は訳が分からなくなり、首を捻り聞き返す。
しかし、続いて加納の口から飛び出た言葉は、やはり意味不明なものであった。
「水野さん、あなたは鯉コクという料理を食べたことがありますか?」
「はあ? 鯉コク?」
またしても、想定外の質問が飛んで来た。水野の自信に満ちた表情が崩れる。彼はどう答えればいいのか分からず、あちこちに目を泳がせる。
一方、加納はすました表情だ。水野の狼狽える様を、じっと見つめている。本当につまらない俗物だなあ、と思った。この程度の人間が幹部になれるとは、銀星会という組織にはロクな人材がいないらしい。ただでさえ、ヤクザの成り手もどんどん少なくなっていくというのに、水野のような人間が上にいるようでは……銀星会も、先が長くないだろう。
もっとも、加納の知ったことではないが。
「水野さん、お困りのようですので話題を変えましょう。ひとつお聞きしたいのですが、先日、この流九市で発砲事件がありました。あなたは、何かご存知ないですか?」
狼狽する水野を見つめながら、丁寧な口調で尋ねる。
正直に言えば、こんな男と話すことなど何もないし、話したいとも思わない。しかし、発砲事件に関する情報を何か得られるかもしれない……その考えから、加納は今日の会談を承諾したのだ。相手は、曲がりなりにも銀星会の幹部である。裏の情報も少しは知っているはずだ。
しかし、その思いは裏切られた。
「発砲事件? 知らねえなあ。どうせ、安物のトカレフを手に入れたチンピラが試しに撃ってみた……そんな話じゃねえのか? こっちじゃ、よくある話だよ」
言いながら、水野はゲラゲラ笑った。つられるかのように、後ろのヤクザたちもゲラゲラ笑う。
その様を見て、加納は首を傾げた。今の会話のどこに笑う要素があるのか、彼には全く理解できない。拳銃を撃った、という話がそんなに笑えるのだろうか。
ならば、この場で拳銃を撃ち、水野の体に風穴を空けたとしたら……彼らは、笑ってくれるのだろうか。
不意に、加納は立ち上がった。テーブルの上に置かれていたリモコンを手に取り、ボタンを押す。
直後、室内に設置されたスピーカーから、奇怪な音楽が聴こえてきた。下手くそな楽器の音色と絞め殺されたガチョウのごとき不気味な歌声、その二つが恐ろしいまでに破壊的な音楽を形成していた。聴く者全ての聴覚を混乱させる音楽だ……居並ぶヤクザたちは皆、あまりの不快さに顔をしかめた。
そんなヤクザたちの表情を見て、加納はもう一度リモコンを操作する。
すると、奇怪な音楽は消えた。にこやかな表情を浮かべ、加納はソファーに座る。
「今の音楽を、どう思われます?」
美しい顔に満面の笑みを浮かべ、加納は尋ねた。だが水野は、顔をしかめたままだ。
「嫌な音楽だな。上手いとか下手とかいう以前の問題だ」
憮然とした様子で答えた。こうして見ると、本当に鯉に似ている。
「ええ、確かにこの音楽は不快なものです。聴いていて心地よくなるものではありません。ただね、僕は思うんですよ……人をここまで不快な気分にさせるというのは、それだけ存在感のある音楽なのではないでしょうか」
「はあ? あんた何を言ってるんだ?」
鯉そっくりな顔に、困惑したような表情を浮かべる。だが、加納はお構い無しだ。
「不快なものを知ってこそ、真の快楽を知ることが出来るのではないだろうか……僕はそう思っています。なので、今回あなたと会ってみる気になりました。しかし僕にとって、あなたと出会ったことは予想以上の不快さでした。もう、耐えられません」
「何だと! このガキ、俺を舐めてんのか!」
吠える水野。しかし、加納は平然としている。顔から笑みを絶やさず、語り続けた。
「どうやら、あなたも不快な気分になったようですね。あなたは不快で、僕も不快。となると、ここらでお開きにした方が良いかと思うのですが、いかがでしょう?」
「はあ!? ふざけるなあぁ!」
罵声と同時に、水野は立ち上がった。憤怒の形相で加納を睨み付ける。
だが、加納は座ったままだった。
「おやおや、どうかしましたか?」
「てめえ、俺が誰だか分かってんのか! 俺は銀星会の水野だぞ! 俺に舐めた真似するってことは、銀星会に舐めた真似すんのと同じなんだぞ!」
叫び、体をプルプル震わせる。すると、それまで銅像のごとく身じろぎもしなかった木俣が、初めて反応した。音もなくスッと動き、加納の横に立つ。
百九十センチで百二十キロ、オールバックの髪型に岩のような厳つい顔の木俣は、理屈ではない凄みがある。さすがの水野もたじたじとなり、目線をあちこちに泳がせる。
後ろに控えている若きヤクザたちも、たったひとりの木俣に対し完全に怯えていた。一応、ヤクザらしい威嚇するような表情を浮かべてはいる。しかし、足の震えは隠せていない。木俣に比べれば、格が違い過ぎた。彼の冷めた迫力を前に、ヤクザたちはただただ怯えるばかりだ。
だが、水野も伊達に幹部の地位にいるのではない。ヤクザとしての最後の意地を見せる。
「まあ、いいや。俺たちはな、おめえらみてえなガキを相手にしてるほど暇じゃねえんだ。いいか、今回だけは見逃してやる。だが忘れるな、俺は銀星会の水野だ。次にこんな真似をしたら、必ず潰してやる」
そう言うと、水野は肩をいからせ大股で歩き、事務所を出ていく。
すぐ後から、五人のヤクザたちが続いた。慌てふためいた様子で、事務所を出て行ったのである。
「なあ木俣、彼は何がしたかったんだろうね」
水野が去った後、加納は呟くように言った。
「あれは、ただの雑魚ざすね。放っておいても問題ないでしょう。それより、ひとつ気になることがあります」
「なんだい?」
「最近、町中に外国人が多いですね。奴ら、誰かを捜してるようです」
・・・
「おいユリア、本当に行くのか?」
草太が尋ねると、ユリアは首を縦に振った。その目には、絶対に付いて行くぞ……とでも言いたげな、強い意思が感じられる。
草太とユリアは今、停車している軽トラックの中にいる。
これから草太は、仕事に行くことになっていた。それも、流九市の裏社会を仕切る大物、加納春彦の事務所のトイレ掃除をしなくてはならない。正直、あまり気は進まないのだが。
草太が経営する便利屋『何でも屋草ちゃん』は週に三回、加納の事務所のトイレ掃除をする契約になっている。なぜ週三回なのかは不明だ。たまに加納にケツを撫でられたりするが、基本的には楽な仕事である。しかも、金払いはいい。裏社会の大物である加納が、草太のような人間に仕事を依頼する理由は不明だが、ありがたいのは確かである。
加納の思惑はさておき、そんな場所にユリアを連れて行ったら、いったいどうなることだろう。少なくとも、ボディーガードの木俣は確実に怒る。
しかし、ユリアも草太とは離れたくないらしい。こんな時にこそ美桜が来てくれればいいのだが、あいにく彼女は眠っている。
そう、美桜はニートにありがちな昼夜逆転の生活を送っているのだ。ここに来る前、念のため電話をかけてみた。しかし、出る気配がない。間違いなく熟睡している。
結局、草太は悩みに悩んだ挙げ句にユリアを連れて来ることにした。いざとなれば、土下座でもすれば何とかなるだろう……などと淡い期待を抱きながら。
「ユリア、これから行く所には、とっても怖いおじさんが二人もいるんだぞ。本当に大丈夫か? このトラックの中で待っていてもいいんだけど」
もう一度、草太は聞いてみた。ユリアの気が変わってくれればいいが、と期待して。
しかし、ユリアの決意は堅いらしい。白く可愛らしいコートを着た姿で口を真一文字に結び、首を横に振る。
「じゃあ、俺の仕事を手伝うんだな?」
草太の言葉に、ユリアはうんと頷く。
思わず、ため息を吐く。これでは仕方ない。一か八かだ。
「どうも、『何でも屋草ちゃん』ですぅ。トイレ掃除に来ましたけど」
言いながら、草太はドアを開け恐る恐る事務所に入って行く。そのとたん、いきなり襟首を掴まれた。
次の瞬間、軽々と持ち上げられ、宙に浮かされる。目の前には、木俣の岩のごとき顔があった。
「おい草太、てめえはあちこちで加納さんの名前を出してるらしいな」
低い声で、木俣は凄んだ。草太は恐怖のあまり縮み上がる。確かに、ホームレスの黒崎を助けるため加納の名前を使わせてもらったことはあった。しかし、そんな話がもう伝わっているとは。
「い、いえ、あちこちで出してるってわけじゃ……」
言いかけた草太だが、そのとたんにブンブン揺さぶられた。木俣の腕力は、本当に人間離れしている。まるでサイボーグのようだ。
「嘘つくんじゃねえよ。俺は聞いてるんだ──」
不意に、木俣の言葉が止まった。その冷酷そのものの顔つきが、みるみるうちに変化していく。何とも表現のしようのない表情を浮かべながら、木俣は下を向いた。
つられて、草太も下を向く。そのとたん、彼の口から心臓が飛び出そうになった。
ユリアが、木俣の大木のような太い足に抱きついていたのだ──
「お、おい草太! こ、こ、この娘は誰だ!」
普段なら、ヤクザもビビって避けて通る迫力の木俣であるが……今の彼は、想定外の事態を前にして完全に混乱していた。いつも自信たっぷりで、クールなポーカーフェイスの彼が完全に狼狽えているのだ。
自身の、膝くらいまでしかない少女に。
「す、すみません。実は、この娘は知り合いから預かってまして……」
木俣に片手で吊り上げられた状態で、草太はペコペコ頭を下げた。すると、恐ろしい表情で睨まれる。
「んだと? どういうことだ? てめえは、職場にガキを連れて来るのか?」
そう言って、ちらりと下を見た木俣。だが、そのとたんに口を開けたまま硬直してしまった。草太も、思わず顔を歪める。
なんとユリアは、その場で床に両膝を着いていたのだ。両手を胸のところで組み、涙を浮かべながら木俣を見つめている。その姿は、神に祈りを捧げるシスターそのものだ。
ユリアは今、草太の解放を願って木俣という大魔神に祈りを捧げる巫女と化していた……。
そんなユリアを見て呆然となっている木俣、困惑する草太、そして祈りを捧げるポーズのまま固まっているユリア。三者三様のまま時間が流れる。
だが、その三すくみ状態に乱入してきた者がいた。
「やあ草太くん、可愛いお嬢さんだね。君、名前は何て言うの?」
言うまでもなく、加納である。彫りの深い端正な顔に、爽やかな笑みを浮かべてしゃがみこむ。大抵の女は、この笑顔だけでノックアウト出来るだろう。
しかし、ユリアには通じていなかった。まだ幼いためか、あるいは別のタイプが好みなのか。いずれかは不明だが、今のユリアは「困ったなあ」とでも言いたげな表情で、手を組んだまま首を傾げる。
「あ、あのう、実はユリアは、口がきけないんですよ……」
木俣に吊るされたまま、草太は恐る恐る口を挟む。すると、木俣の表情が僅かに歪んだ。何てことを言うんだ、とでも言いたげな表情で加納を睨む。
だが、加納は平然としていた。
「そうか、君はユリアちゃんというんだね。心配しなくていいよ。この木俣のおじさんは、顔は怖いがとってもいい人なんだ。こう見えて、草太お兄ちゃんとも仲良しなんだよ」
言いながら、加納は顔を上げる。
「そうだろ、木俣?」
直後、木俣は異様な速さで動いた。草太を下ろすと同時に、その丸太のように太い腕を回して、草太と肩を組む。
さらに下を向き、ユリアに向かいニッコリと笑う。だが、すぐ隣にいる草太は、恐ろしさのあまり生きた心地がしなかった。木俣の笑顔は、下手なホラー映画に登場するモンスターなど比較にならない怖さである。
しかし、ユリアは違った感想を抱いたらしい。涙を浮かべていた表情が一変し、安堵の笑みを浮かべる。
ヤクザも避けて通る、岩を擬人化させたような顔の大男がニコニコ笑いながら幼女を見つめている。これが町中だったら、間違いなく通報されている光景だろう。
「ユリアちゃん、向こうで一緒にテレビ観ようか」
そう言って、加納は立ち上がった。だが、ユリアは困ったような表情で草太の顔を見つめる。仕事の手伝いをしなくていいの? と言っているのだろう。
草太は、ニッコリと笑ってみせた。
「ユリア、大丈夫だよ。仕事が終わるまで、加納さんと一緒にテレビを観てなさい」
すると、ユリアは嬉しそうに頷く。加納とともにソファーに座り、テレビを見始めた。
その直後、草太は肩のあたりを掴まれた。
次の瞬間、僧帽筋に激痛が走る──
「コラ、調子に乗るんじゃねえぞ。今回だけは、特別に見逃してやる。だが、忘れるな。加納さんのためなら何でもやる、って言ってるガキは大勢いるんだ。自分だけが特別だ、なんて思って図に乗るなよ。あまり調子に乗ってるとな、俺がお前を殺す」
耳元で囁いたのは、言うまでもなく木俣である。僧帽筋を掴まれ、草太は顔をしかめながらもウンウンと頷く。
それにしても、化け物みたいな握力だ。この男は、本当に人間なのだろうか。未来の世界で開発された人型ロボットなのでは……などとバカなことを考えていた時、ユリアがこちらを見た。
そのとたん、木俣はパッと手を離した。と同時に、ユリアに向かいニッコリと笑う。だが見れば見るほど、怖い笑顔である。草太は、凄まれている時よりも恐怖を感じた。
「あ、加納さん。掃除、終わりました」
やがて掃除を終えた草太は、リビングへと出て来た。すると、ユリアは嬉しそうに草太のそばに走っていく。
「お疲れ様。草太くん、料金はいつもと同じように振り込んでおくからね」
言いながら、加納は草太の肩をポンポンと叩いた。
「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる草太。すると、加納が彼の手に何かを握らせた。何かと思ったら、小さく畳まれた一万円札が二枚だ。
「あ、あのう、これは……」
「ユリアちゃんに、美味しいものでも食べさせてあげてくれたまえ」
そう言うと、加納はしゃがみこんだ。微笑みながら、ユリアの顔を見つめる。
「ユリアちゃん、また遊ぼうね。今日は、魚みたいな顔のおじさんと下らない話をしたんだ。疲れちゃったよ。だけど、君が来てくれたお陰で癒されたよ」
その言葉に対し、ユリアは小首を傾げてみせる。訳が分からない、とでも言いたげな表情だ。その仕草は可愛らしく、見ている草太も微笑んだ。
加納もまた、微笑みながらユリアの頭を撫でる。
「困ったもんだよね、本当に。君は、あんなアホな大人になっちゃ駄目だ。素敵なレディになるんだよ」
ヤクザもビビる裏社会の大物に、素敵なレディになれと言われてもなあ……などと思いながら、草太は木俣の方に視線を移す。
そのとたん、背筋に冷たいものが走った。木俣もまた、ニコニコしながら二人を見ている。だが、木俣の笑顔は何度見ても怖い。岩と同化している怪物が、これから始まる殺戮の喜びにうち震えているようにしか見えないのだ。
あまりのおぞましさに震えながらも、草太は声をかける。
「加納さん、色々とありがとうございました。では、そろそろ失礼します」
帰り道、草太は軽トラックを運転しながらユリアを横目で見た。ユリアは楽しそうに、外の風景を見ている。運転中の草太に、つまらないちょっかいを出したりはしない。
本当に、いい娘だな……と思いつつ、草太は車を慎重に走らせる。事故はもちろん、急ブレーキをかけてユリアを驚かせたくないからだ。
二人の乗った軽トラックは、のんびりと進んで行った。
ユリアとの生活は、本当に楽しいものだ。草太は久しぶりに、幸せな気分を味わっていた。
ただし、ひとつだけ不安なことがあった。今まで、中田の携帯に何度も電話をかけたのだが……毎回、電源が入っていないことだ。