草太、ユリアを預かる
◎加納春彦
流九市における、裏社会の大物。美しい顔と、極めて変わった思考を持つ恐ろしい青年。なぜか草太のことを気に入っている。
その日、草太は事務所のドアホンに起こされた。
眠い目をこすり時計を見ると、まだ朝の八時である。いつもは熟睡している時間帯だ。少なくとも、営業するには早い。
にもかかわらず、ドアホンは止まることなく鳴り続けている。腹が立ち、荒い声を出した。
「まだ開いてないよ。失せろ」
だが、外にいる何者かは諦めない。今度は、ドアを乱暴に叩き始める。さらに、怒鳴り声も聞こえてきた──
「草太! 俺だ! さっさと開けねえと、このドア叩き壊すぞ!」
この声には聞き覚えがある。非常に危険な人物なのだ。これでは、ドアを開けない訳にはいかない。でないと、表に来ている者は本当にドアを壊しかねないのだ。草太は顔をしかめながら立ち上がり、玄関まで歩いた。
「あ、これはどうも中田さん。失礼しました」
ドアを開け、ペコリと頭を下げる。
次の瞬間、強烈な力で突き飛ばされた。草太は派手に吹っ飛び、床に尻餅をつく。
「いててて……何をするんですか?」
顔をしかめながら、起き上がる。彼の目の前には、大柄で人相の悪い中年男が仁王立ちしていた。黒いスーツの上からでも充分に分かるがっちりした体格と曲がった鼻、角刈りの頭、さらに野獣のごとき鋭い目付きの持ち主だ。
「おいコラ草太、お前に仕事を依頼しに来たんだ。引き受けなかったら、今すぐ殺す」
低い声で、凄むように言った中田。草太は愛想笑いを浮かべ、頷くしかなかった。
この中田健介という男は、見たまんまのヤクザである。性格の方も、考えるより先に手が出るタイプの武闘派であり、若い頃はボクシング部だったらしい。草太としては、全く歓迎できない男なのだ。
「ユリア、こっちに来るんだ。ちゃんと挨拶しろ。これからは、草太お兄ちゃんの言う通りにするんだそ」
中田は後ろを向いて、ぶっきらぼうな口調で言った。すると、彼の背後から白いコートを着た小さな子供が顔を出した。電柱に隠れて尾行している探偵のごとく、顔と体の半分だけを出して草太を見ている。見た感じ、年齢は八歳から十歳くらいだろうか。
「この娘を、しばらく預かってくれ。名前はユリアだ。ほら、手付金をやるから」
言いながら、中田はポケットに手を突っ込み、しわくちゃの紙幣を掴み出す。その紙幣を、草太の目の前に突き出した。
「今はこれで何とかしろ。足りない分は、後で払うから。それとな、ユリアは喋れないんだ。だから注意しろよ」
有無を言わさぬ中田の態度に、草太は顔を引きつらせながら金を受け取った。いったい何事なのかは分からないが、もし嫌だと言ったらただでは済まないのは明白である。
「いいか、ユリアから絶対に目を離すな。外にも連れ出すんじゃねえ。もしもユリアの身に何かあったら、お前の頭の皮を剥いでやるからな」
そう言うと、中田は焦ったような表情を浮かべ、キョロキョロ周りを見回しながら出て行った。
中田が去って行った今、事務所にいるのは草太と少女の二人きりである。
仕方なく、ユリアと呼ばれた少女を見てみた。髪は栗色で、肌は透き通るように白い。瞳は青く鼻は高く、はっきりした造りの顔である。まるで欧米人のような……だが、どこか東洋人の親しみやすさも兼ね備えていた。
これはどうしたものか、と草太は首を捻る。ユリアといえば、かつて大ヒットした世紀末格闘マンガのヒロインの名前である。となると、日本人が名付け親なのだろうか。しかし断定は出来ない。何より、この顔立ちからして純粋な日本人とは思えない。恐らくは外国人、もしくは外国人と日本人のハーフであろう。
そういえば、中田は言っていた……この少女は喋れない、と。喋れないのは仕方ないが、こちらの言葉は通じるのだろうか。外国人だとしたら、通じない可能性もある。
首を捻りながら、ユリアを見つめる。しかし、ユリアは警戒心に満ちた表情で草太を見返してくるだけだ。
二人の間に、何とも気まずい空気が流れていた。仕方ないので、ヘラヘラ笑って見せた。だが、ユリアの方はニコリともしない。眉間に皺を寄せ、じっと草太を見つめている。怪しい奴、とでも言いたげな表情だ。
確かに、今の草太は汚いジャージを着た寝癖だらけの姿である。魅力的、とは言えないだろう。
草太とユリアは無言のまま、しばらく見つめ合っていた。
しかし、二人の間の気まずい空気を破壊する救世主が現れる。
突然、にゃあ……という可愛らしい声が聞こえた。草太が振り向くと、一匹の猫が後ろに来ている。白く肉付きのいい体に黒のブチ模様が付いており、尻尾は長い。まんまるの大きな瞳でこちらを見つめている。
「おおカゲチヨ、帰ったのか」
その言葉に、猫はにゃあと返事をした。草太は微笑みながら、ちらりとユリアの方を見てみる。
ユリアは大きな瞳を輝かせ、まじまじとカゲチヨを見つめていた。先ほどの警戒心に満ちた表情は消え失せ、代わりに子供らしい顔つきになっている。
「ユリア、猫は好きか?」
尋ねると、ユリアは首をぶんぶん振る……言うまでもなく縦に。ヘッドバンキングでもするかのような勢いで、首を振っている。
草太は、思わず笑みを浮かべていた。これで二つのことが分かった。まず、ユリアはこちらの言葉が理解できるということ。
そして同居人、いや同居猫であるカゲチヨを気に入ってくれたということ。
このカゲチヨは、五年前に草太が拾って来た猫だ。臆病なのか、事務所の中とその周囲を常にうろうろしており遠くに行こうとはしない。性格は人懐こく、事務所に来た客に対しても愛想がいい。
今も、その人懐こさを存分に発揮している。恐れる様子もなく、のそのそとユリアの前に歩いてきた。尻を地面に着け、前足を揃えた姿勢で彼女を見上げている。お前は何者だ? とでも言わんばかりの様子だ。
そんなカゲチヨに、ユリアは瞳を輝かせながら手を伸ばす。
彼女の小さな手が、カゲチヨの頭に触れた。
「優しく撫でてやれよ。猫だって、痛くされるのは嫌なんだからな」
草太の言葉に、ユリアは頷いた。小さな手がぎごちなく動き、カゲチヨの白黒の毛をそっと撫でていく。
すると、カゲチヨの喉がゴロゴロ鳴り出した。さらに近づいていき、ユリアのそばで体を丸める。もっと撫でろ、とでも言いたげな態度だ。
ユリアの顔に、満面の笑みが浮かぶ。さらに手を動かし、カゲチヨの背中を優しく撫でた。
そんな彼女を横目で見つつ、草太は中田から受け取ったしわくちゃの札をチェックしてみる。
全て千円札だ。トータルで七千円。これは、何かの罰ゲームだろうか。
「おいおい、ガキのバイトじゃねえんだぜ……」
思わず毒づいた。これでは手付金にもならない。そもそも、この少女の食費は誰が払ってくれると言うのだろう。
苦り切った表情でふと横に目をやると、幸せそうな顔のユリアがカゲチヨを撫でている。
草太はため息をついた。金がないからといって、今さら追い出す訳にもいかない。
仕方ない。とりあえずは面倒を見るとしよう。
「こりゃ、困ったもんだね……」
事務所のソファーに座り、草太は誰にともなく呟いた。
その傍らでは、ユリアがテレビを観ている。いかにも興味深そうに、画面に登場する者たちをじっと眺めていた。
カゲチヨは餌を食べた後、満足そうにユリアの隣で眠っている。飼い主である草太よりも、ユリアの方に懐いてしまったのかもしれない。
テレビに夢中になっているユリアを横目で見ながら、草太は考えてみた。
まずは、中田と連絡を取らないことには話にならない。ユリアに関し、もっと詳しい情報が必要なのだ。それに、どういった理由でユリアを預からねばならないのか、も。
ここで問題なのは、草太が知っているのは中田の電話番号だけ……という事実である。基本的に裏社会の住人というのは、メールやLINEといった証拠の残りやすいものを嫌う。そのため、電話での連絡が主となりやすいのだ。
中田もまた、メールやLINEでのやり取りを嫌っていた。したがって、彼との連絡手段は電話に限られている。だが問題なのは、電話だと中田との会話をユリアに聞かれてしまうということだ。
正直、いたいけな少女に金の絡む話は聞かせたくない。草太は立ち上がると、ユリアに声をかけた。
「ユリアちゃん、俺ちょっと外に出てくるから。おとなしく待っててね」
だが、直後のユリアの行動は想定外のものだった。彼女はすぐさま立ち上がり、草太のそばに走って来た。
彼の手をしっかりと握り、何か言いたげな表情で見上げた。
「えっ、どうしたんだよ? 俺はちょっと外に出るだけだから。すぐに帰って来るよ」
唖然とした表情で草太は言った。だが、ユリアは彼の手を握ったまま、じっと見上げている。絶対に離さないぞ、とでも言いたげな表情になっている。
「な、なあ、離してくれよ。これから大事な用事があるんだから」
草太は、何とかユリアをなだめようとした。だが、ユリアは首を横に振った。ひとりにされるのが不安なのだろうか。
「い、いや、大丈夫だから。すぐ帰って来るからね」
優しい口調で言いながら、さりげなくユリアの手を外そうとした。しかし、彼女は掴んだまま離そうとしない。
困ったことになっちまったな、と草太は顔をしかめた。何があったのかは知らないが、この少女はひとりになりたくないらしい。
となると、今の俺にはひとりで外出する自由すらないのか……そんなことを思いながらも、顔ではニッコリと笑って見せた。
「分かったよ、ユリア。お前をひとりにはしないから安心しろ」
言いながら、ユリアの頭を撫でる。すると、ユリアはようやく手を離した。
テレビ画面では、二本足で立つ猫のような奇怪な生き物と、カラス天狗のような妖怪が何やら親しげに語り合っている。
草太には何が何だか分からないが、ユリアはとても楽しそうだ。二匹の奇妙な生き物のやり取りを、食い入るように見つめている。
(それは困りましたニャ、てんぐさん)
テレビから、そんな声が聞こえてきて思わず苦笑する。今の、彼の心境を言い表しているかのごとき言葉だ。
実際、草太も困っている。朝から、訳の分からない出来事が立て続けに起きているのだ。どう対応したものだろうか。
やがてテレビ番組が終わり、ユリアは草太に視線を移した。その時、ふと思いついたことがあった。
まずは、この娘に何か食べさせなくては。
「なあユリア、買い物行くか?」
草太の言葉に、ユリアはきょとんとした表情で首を傾げる。何のことだか、分かっていないらしい。もう一度、ゆっくりと話してみた。
「近くのコンビニまで、一緒に買い物に行かないか? 好きなお菓子を買ってやるぞ」
そう言ったとたん、ユリアは首を縦に振り出した。言うまでもなく、YESという返事だろう。
「よしよし、分かった分かった。美味しいお菓子を買ってやるからな」
そう言うと、草太は立ち上がった。微笑みながら、ユリアに手を差し出す。
ユリアはにっこり笑い、草太の手を握った。
二人は手を繋いで、コンビニまでの道をのんびりと歩いて行く。そういえば、中田はユリアを外に出すな……と言っていたような記憶がある。
だが、今さら遅い。どうせ手付金もまともにもらっていないのだ。しかも、コンビニまでは歩いて十分ほどの距離である。構わないだろう……などと思いながら、草太はコンビニへと歩いて行った。
コンビニに入ると、草太はカゴを手にした。さらに、ユリアに声をかける。
「ユリア、おにぎりは好きか?」
言いながら、おにぎりを手に取りユリアに見せた。すると、彼女はこくんと頷く。
「そうか。じゃあ、シャケとツナマヨのおにぎりを買ってやるからな」
草太は、おにぎりを二つカゴに放り込んだ。さらに菓子パンやらプリンやら、子供の好きそうなものをカゴに入れていく。一方、ユリアは物珍しそうな表情を浮かべ、店内のあちこちを見ている。
そんな姿を見て、草太は微笑んだ。この子は、今までコンビニに来たことがなかったのかも知れない……そんなことを思いつつ、声をかける。
「ユリア、行くぞ。また今度来ような」
片手にビニール袋をぶら下げ、もう片方でユリアと手を繋いで、草太はのんびりと歩を進めていた。
ユリアの方は、ニコニコしながらあちこちを見ている。外を歩くのが嬉しいのだろうか。
だが突然、ユリアは足を止めた。つられて、草太も止まる。
「おらぁ! 調子こいてんじゃねえぞ!」
「クソオヤジが!」
響き渡る罵声。昨日と同じように、流九公園にて二人の少年が暴れているのだ。一人の男に対し、殴る蹴るの暴行を加えている。
暴行を受けているのは、昨日と同じくホームレスの黒崎だった。
そんな状況を見て、草太は頭を抱えた。あの黒崎には、学習能力というものが無いのだろうか。あるいは、危機を回避する脳の機能が壊れているのか。
「おいおい、またかよ。ユリア、帰ろうね。あんなことしちゃダメだからな」
言いながら、ユリアの手を引く。黒崎がサンドバッグ代わりにされているのは珍しい光景ではないのだ。普段ならともかく、子供を連れている時には関わりたくない。
だが、ユリアは動かなかった。それどころか、何か言いたげな表情で草太を見つめながら、しきりに公園を指差している。
いや、正確に言うなら黒崎が殴られている現場を指差しているのだ。
嫌なものを感じた。まさか、助けろとでも言いたいのだろうか。
「えっ、あのおじさんを助けたいの?」
念のため尋ねてみると、ユリアはぶんぶんと首を振る。もちろん縦にだ。
「う、うん、分かった。じゃあ、後でお巡りさんを呼ぶからね。お巡りさんなら、助けてくれるから。そういう訳だから、早く帰ろうね」
そう言うと、草太は作り笑顔でユリアの手を引き、その場を離れようとした。
だが、ユリアは動こうとしない。今度は首を横に振ると、不退転の決意を込めた目で草太を見つめる。
ふう、とため息を吐いた。これは、意地でも動かない気だ。面倒だが仕方ない。
「分かったよ。俺がおじさんを助けるから」
「おい、お前ら。いい加減にしとけ。もうすぐ警察が来るぞ」
そう言うと、草太はつかつかと近づいて行く。今回も、ハッタリが通用するだろうか。通用しなかった場合、逃げるしかない。何せ、草太は喧嘩が弱いのだから。
「ああン? 何なんだテメエはよぉ!」
予想通り、凄んできた少年たち。だが、草太は怯まない。自信たっぷりの表情である。
「あのなあ、俺は加納さんに世話になってんだよ。あの人のところで仕事もしてる。明後日にも、加納さんと会うことになってんだけどさ……どうすんの? 加納さんが知ったら、怒るぜ」
すました表情で、草太は言った。もっとも、内心ではビクビクしている。もしハッタリが効かなかったら、どうやって切り抜けるか……は次の手を考えながらも、余裕たっぷりの表情を作って少年たちを見つめていた。
すると、少年たちは目を逸らした。チッと舌打ちし、肩をいからせて大股で引き上げて行く。草太に対し、俺たちはお前に負けたわけじゃないぞ……という無言のアピールをしているのだろう。
「またお前か。余計なことをしおって」
不貞腐れたような口調で言いながら、黒崎は立ち上がった。服に付いた汚れを払い、ベンチに座り込む。今日もまた、礼の言葉は無い。さすがにカチンと来た。
「あのなあ、俺だってお前なんか助けたくなかったんだ。でもな、この子に頼まれたから、仕方なく助けたんだよ」
草太は、いつになく感情的な言葉を吐いた。すると、黒崎の視線がユリアに移る。
次の瞬間、とんでもないことを言った。
「これは、お前の娘か?」
「んな訳あるか! 俺にこんな大きな子がいるはずないだろ!」
怒鳴りつけた。その時、ユリアがビニール袋に手を突っ込んだ。中からおにぎりをひとつ取りだすと、黒崎の方にとことこ歩いて行く。
彼の前に立つと、おにぎりを両手で持ち差し出したのだ。
「えっ?」
あまりにも予想外の行動に、唖然となる黒崎。だが、ユリアは真剣な表情で彼におにぎりを差し出している。
「俺にくれるのかい?」
困惑した表情で、黒崎は尋ねた。すると、ユリアはこくんと頷く。
草太もまた、ユリアの行動に唖然としていたが……その時、黒崎が偏屈者であることを思い出した。このオヤジ、施しは受けん! などとユリアに言いかねない。
次の瞬間、草太は動いた。速やかに黒崎の背後に回る。そして耳元で囁いた。
「おい、おかしなこと言わずに素直に受けとれ。でないと、残り少ない髪の毛むしり取るぞ」
だが、黒崎はその囁きには反応しなかった。ニッコリと笑い、おにぎりを受け取る。
「ありがとう。お嬢ちゃん、名前は何ていうの──」
直後、パチーンという音が響き渡る。草太が黒崎の頭をひっぱたいたのだ。
「いいか、この娘の名はユリアだ。それとな、ユリアは口がきけないんだよ。覚えとけ」
またしても、耳元で囁く草太。すると、黒崎の表情が変化した。狼狽したような顔つきでユリアに話しかける。
「えっ、あっ、その、ごめんよ……ユ、ユリアちゃんは優しいね。おじさんは、おにぎりが大好きなんだ」
そう言って、黒崎はユリアの前でおにぎりのビニールを剥く。ユリアは、好奇心に満ちた目でじっと見つめている。
やがてビニールを外すと、黒崎は一口おにぎりを食べてみせた。ユリアを見つめ、ニッコリ微笑む。
「とっても美味しいよ。ありがとうね」
すると、ユリアもニッコリ笑う。二人は微笑みながら見つめ合っていた。しかし片や可愛らしい幼女、片や頭の禿げ上がったホームレスである。何とも画にならない組み合わせだ。
しばらく見ていたが、やがて草太はユリアに近づいて行った。
「ユリア、そろそろ帰ろうぜ。帰って、一緒にごはん食べよう」
すると、ユリアは草太の顔を見上げて頷いた。草太の手を握り、とことこと歩き出す。
だが、すぐに足を止めた。ユリアは振り返ると、黒崎に手を振る。黒崎も、ユリアに手を振り返した。
「ユリアちゃん、またね」
そう言いながら、彼は笑顔で手を振っている。
草太は、改めて黒崎を見つめた。鼻は低く、顔はあちこち傷だらけだ。頭は禿げ上がり、ずんぐりした体に汚い作業服を着ている姿は典型的なホームレスである。
どう見ても、ユリアのような少女に好かれる要素があるとは思えない……しかし、ユリアも笑顔で手を振っている。本当に不思議な少女だ。草太は苦笑し、黒崎にちょっとだけ手を振って見せた。
そして、ユリアの方を向く。
「ユリア、早く帰らないとカゲチヨが独りで寂しがってるぞ」
その言葉に、ユリアは笑顔で頷いた。
草太とユリアは手を繋いで、のんびりと歩いて行った。