第一話 ミレイナ襲来
引き出しには黒歴史のノートが詰まっている、ファンタジーからSF、ハーレムから裏切り、現実世界から異世界転生まで。様々な思いや妄想をノートに書き留めたが、いつの間にか物語を完結させることやめてしまった。物語の続きが思いつかないから、設定に致命的なミスがあったから、自分が納得できないキャラクターだったから、飽きたから。様々な自分勝手な理由で物語と一緒に描いてきたキャラクター達を引き出しに閉じ込めたまま6年以上経過した。彼女らはもう続きが見れないだろう、喜怒哀楽を感じず、ただ真っ暗な空間で一生を過ごすのだろう。
しかし彼女らは光を求めてここに来た。彼女らの新たな1ページを求めて、暗闇から抜けてきた。
就寝後、目が潰れるような白色の明かりが灯され、ベッドから体を持ち上げた。いつも就寝時には電球をすべて消し、真っ暗な空間を作ってから寝るのだが、誰かが明かりをつけたのだろうか。姉か?親か?
しかし予想は全て外れた、見たことがない少女が、眩い白色の光と共に部屋に入ってきた。だが何か親近感を感じるような雰囲気を醸し出していた。肩まで伸ばしている赤髪、大きな胸が強調されている明るい赤色のキャミソール、赤色と黒色のチェック柄のミニスカート、太腿が魅力的な濃い赤色のハイソックス、赤色と桃色の中間色の瞳、髪飾りの明るい桃色のリボン。会ったことはないが、何故か知っている。不思議であるが俺の心拍数が急激に上昇していた。
俺は思い出してしまった、未完の作品の登場人物である。黒歴史のノートの引き出しに埋もれていた少女、ミレイナだった。彼女は中学2年の時に書いた小説『最強少女ミレイナ』の主人公だ。この小説では、超能力を持つ13歳のミレイナが学校に侵入してきたモンスターを拳で薙ぎ払い、モンスターに襲われている友人や教師を守るストーリーだ。彼女が学校を守るために自慢の技でモンスターを退け、必殺技である『ハイパーバースト』で100体以上のモンスターを衝撃波で倒した。またミレイナを何度も苦しめるモンスター使いのライバルのリロには新しく開発した超必殺技『ボルケーノバースト』によって圧倒的な勝利を収めた。しかし学校を支配しようと企む最強の敵であるティグナにはミレイナを数倍も上回るスピードとパワーで苦しめられ、『ボルケーノバースト』も通用せずに簡単にやられてしまった。その後については記載されていない。多分、俺はこの作品に飽きて、他の作品作りに浮気していたのだろう。ミレイナは敗北して一生を終えた。
それに黙っていられないのか、引き出しから抜け出し、俺のもとに現れたのだろう。ミレイナは幼い表情で怒っていた。
「南川!美しくて強いこの私を見捨てるなんて、作者として最低よ!私はもっと強くなりたいのよ、でもあなたのせいで!」
身長145センチメートルの少女は俺の胸ぐらを掴み、ベッドから床に叩き落とした。高圧電流が流れるほどの痛みが全身を駆け巡った。その姿を少女は怒りに震えながら俺を見下していた。幼い少女の声は俺をさらに追い詰める。
「そんなにやらなくても」
「ふざけないで!あなたのせいで私は弱くなってしまったのよ!私の特徴である必殺技はティグナによって封印され、服も体も泥まみれになるほど負けたのよ!その原因は、作者のあなたでしょう!責任を取ってよ!」
ミレイナは床で倒れている俺の顔を何度も足で踏んづけた。まだ年齢は幼いのか、足の裏が柔らかく感じたが、13歳に踏みつけられるのは屈辱的な気分だ。
「待ってくれ、責任を取れって言われても、俺はどうすればいいんだよ」
「今すぐ続きを書いて!」
ミレイナは声を荒げて『最強少女ミレイナ』のノートを見せつけた。彼女の活躍が記載されている最終ページを開き、白紙部分に指を指した。
「『ミレイナはティグナを倒すことができず、ティグナの城に連行された』で終わっているのよ!このあとは何もないのよ!私はティグナの奴隷にされるかもしれない、ティグナにもっといじめられるかもしれない、ここで死ぬかもしれないと怖い思いをしていたのに、私の人生の続きがないことがもっと怖いわよ!ここで終わりたくないわよ!だから続きを書いてよ!」
ミレイナの目には涙が溢れていた、死よりも続きがない恐怖に怯えていた。白紙にはミレイナの涙が垂れていた。俺はミレイナの気持ちに負けてしまった。
「分かった、書いてやる。ミレイナに思い通りのハッピーエンドを送ってやる!」
「作者、南川直紀!私を綺麗に格好良く締め括ってよ!」
ミレイナは初めて女の子らしい、幼いかわいい笑顔を見せてくれた。この笑顔のために、俺はミレイナの活躍をもっと書いてやる!
しかし邪魔者が2人をどん底に突き落とした。今度は真っ青な光が部屋を包み込み、1人の少女がゆっくりと現れてきた。黒色のフード、黒色のミニスカート、黒色のハイソックス、黒色のショートヘアー、黒色の瞳、俺は少女の正体を知っていた。そしてミレイナも知っていた。15歳の少女、ティグナである。ティグナは笑みを浮かべながら、赤色のペンを持っていた。
「南川、ミレイナだけを贔屓するのかしら?ミレイナが超絶な能力に覚醒して逆転勝利する物語を書こうとしているのではないかしら?それだけは私が許さない!私もこの物語の続きを見届けるわ、南川君!」
俺はミレイナとティグナが不公平にならないように物語を構成しないといけない立場に立ってしまった。