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大学に夢はあるのか?  作者: 左佐登 成
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夕日、それは(はかな)くも美しい。古今東西、美しいものには静寂がつきものと相場が決まっている。

 だから人は美しいものを飾ったり、傍に置きたくなるのだろうか。

だがしかし………、 

「お祖父ちゃん!私のカヌレ食べたでしょ!」

 毎度のことながら我が家は騒々しい。

「マヌケ?人をコケにするのも大概にせぇ!」

 「怒ったふりして誤魔化さないで!私のカヌレ、食べたでしょ?」

 怖いなー、怒っているのに冷静な人ほど恐怖を感じるよねぇ…。それが身内の場合だと特にね…。耳遠いふりしてる老人を一蹴しちゃったよあの子。

 「ごめんな奈々…、サクサクしちょって(してて)そんなに甘くなかったもんやき(だから)つい…。魔が差しただけや」

 自分が悪いと思うことは素直に謝るこの老人が俺の祖父、蔵史(くらし)(ゆう)(へい)

顔は全体的に彫が深く、一見北欧の人に見えなくもない。体格も年齢よりもガッチリしている。

俺より背が高く、白髪をオールバックに仕立てていて、もみあげから顎まで伸ばしている白の髭。今の服装は迷彩柄のモンタージュのTシャツに黒のチノパンツである。

そんじょそこらの老人とは一味違うのは見た目からしても当然であろう。

もちろん見てくれだけでなく、祖父はここらの大地主で、先祖は江戸時代の藩主、山内(やまのうち)家の重臣だったとかなんとか…。

 なんにせよここの近場で祖父のことを知らないものはいないだろう。

「まったくもー、最初から謝ってくれればいいのに。今から一緒に買いに行こっ。散歩がてらに。」

 そして先ほどまでカヌレを食べられたとキャンキャン騒いでいた娘は俺の従妹(いとこ)愛宕(あたご)奈々(なな)。

 俺の父親の姉の娘である。

 県立高知西部高等学校の二年生である。ロングな黒髪。前髪は可愛らしいピンクのピンで留めている。顔つきは人懐っこさを覚えさせる愛らしい顔……、俺には分からない。若干あどけなさは感じさせるものの、言動は立派な大人のそれである……、俺以外には。

高校では調理部に所属しており、腕前は中々のものだ。

校内の男子生徒には少なからず人気はあると知り合いから聞いているが真偽は不明である。

だって興味ねぇし。

「ふみ(にい)の分も買ってきてあげよっか?」

顔をコテンと傾げ、甘い声で俺に尋ねる。

きゃわゆいぃぃ!きゃわゆいけどぉ……、

「いいよ、お前絶対嫌がらせで雷おこしとか買ってきそうだし」

 「ふみ兄にそんな渋いもの買わないよー、買ってあげるとしたら幼児用のクッキーとか麩菓子とか味がうっすーいの買うよ」

 さっきの表情は幻か、夢だったのか…。

 こんなことをクスクス笑いながら言うような奴である。俺じゃなかったら泣いてるだろうなぁ。

もちろん祖父さんの家に住んでいるのにはわけがあるのだが、今はまだ説明しようがない。

悪しからず。

 以上、俺を含めるこの三人がこの邸に住んでいることになる。

 「じゃあ踏人!ちょっくらナウいJKとデートしてくるわ!」

 これ反応しなくてもいいやつかな???ちょいちょい老人って面倒くさいよなー。

 「死語入ってるから色んな意味でいってらっしゃい。あと、もう少ししたら友達来るから」

 一応返事を返す俺って聖人じゃない?

 「OK。茶菓子でも買って帰るわ」

 そう言うと祖父さんと玲は居間から出ていき玄関へと向かった。

 二人とも買い物に行き、居間に一人。そのまま鞄を畳の上に置き、横になり右手で頭をもたげた。

 祖父と孫ってあんなに仲良いかな……、特に恵里は高校生だぞ。世間ではどうなの?

 でもまぁ仲が悪いよりはマシか。父親と娘が仲悪いって話はよく聞くけどなー。家の場合だと洗濯物は皆のまとめてするからなー、改めて考えるとすっげぇ仲良いわ。

 ……、うわー、あの人たち洗濯物取り込んでないよ…、めんどくせえ。

 でもやってなかったらやってなかったで五月蠅いからなぁ。

 うちの家訓の一つに気づいた」ら自分でやるというのがある。

まぁ単にド忘れしただけかもしれない。しょうがない、やるか。

 横になった体を起こし、庭の方へと歩いていく。

 縁側のつっかけを履き、物干し台に干されている洗濯物を眺める。

 なんか本能をくすぐる布がある。なんだありゃー?

 近寄って見てみると、どうやらブラジャーらしい。黒を基調としたそれは真ん中に小さな赤いリボンがあった。

 これ、奈々のだよな……。あいつこんなセクシーなもの着けてたんだ。全然知らんかった。

 百パー祖父さんのじゃないし……、想像しただけで気持ち悪いな、やめよう。

 「うわーマジで引きますわ。自分の家の洗濯物まじまじと見る人、引きますわー」

 不意に声が聞こえ我に返ると、庭の垣根の奥に友人、林崎(りんざき)がいた。

 「これは違うぞ。俺は調香師になるのが夢なんだ。だから女子高生特有の良い匂いを研究してるだけなんだよー」

 極めて冷静に対応しながら

「そっかー、でもその行為はギリギリアウトだから一応写真撮ったわ。これを某SNSアプリに投稿したら、俺もお前も一躍時の人だな!もちろんお前は悪い意味で!」

 自ら友達を減らそうとしているということに気づいているのだろうか。むちゃくちゃ満面の笑みで親指をグッと立てていた。

「いやホント勘弁してください。何がお望みですか」

 とりあえず人生崩壊を阻止すべく、自分の手のひらどうしを擦り合わせ林崎に胡麻をする。

 「へぇ……、なんでも言うこと聞くんだ………。」

 林崎は口から邪気を出しながら微笑んだ。

 こいつの笑みは恵里のとそれとは全く違うんだよなぁ。悪寒が走るというか嫌な予感がするというか、とにかく怖い。

 「……できる限りでお願いします」

 思わず敬語で話してしまう俺が情けない…。

 「じゃあ家にあげてよ」

 林崎はもう一度微笑んだ。だが、今度の笑みに邪悪さはなかった。

 


 


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