來魅の狭い冒険 ~世界を知る為に~
ふかしぎ真霊奇譚外伝 來魅の狭い冒険 ~世界を知る為に~
最強の妖怪と呼ばれた、一人の娘が存在した。
その力は一国もを掌握出来る程強力だったという伝説もあった。
そして―――100年ほどの封印から解けた妖狐の一種。
これは復活した直後の小さな話。
ある昼下がり。
とあるビルの上。
そこには金髪…というより橙かかった髪の少女が一人。
狐のイメージしたようなデザインの仮面をしている。
そしてまるで巫女服のような白い和服。
なんとも可愛らしい服装。
見た目は10、11歳くらいの小学生くらい。
名前は「観薙來魅」(みなぎ らいみ)。
最強クラスの霊力や妖術を持つ、いわゆる神格レベルの妖怪、である。
空は見事な快晴。
「はぁ~……、良い天気だの」
そんな少女がなぜか街中の昼下がりにビルの屋上にいる。
およそ100年前に有名な術師達により存在を封印されていた。
だが、何の因縁か、100年経ちその封印が開放されたが、その力は完全ではなかった。
かのように思われた。
「……力は…、ほとんど取り戻せた…」
本気を出せば一つの国くらい掌握できるとも言われる最強の妖怪。
そう言い伝えられてから久しい。
封印されてから100年。
その間の中で考えが変わっていた。
「くっくく……。あの人間の小娘っ子、私を本気にさせるくらい楽しめる…」
ひとりニヤつく。
封印が解かれたあと、一人の小柄な人間の術者と戦った。
「あの娘っ子…ルキと言ったかの?」
黒くて綺麗な髪質。
そしてツインテール状に縛り上げた髪型。
仏頂面だったが綺麗な顔立ちだった。
「むふふ、可愛らしい人間の小娘だったな。また会うのが楽しみだ」
立ち上がり、ぐぐーっと体を伸ばす。
「それにしても私が封印されてから随分変わってしまったなー。
街並みが…えらい変わりようだ。細長い箱型の建物が沢山あるしのう」
一面辺りを見回す。
見慣れない風景。
一望したが、変わってない場所もある。
街を囲っているように佇む山並み。
「ふむふむ。さすがにあの時よりは開発が進んでいるようだが…山は健在のようだ」
100年たらずとはいえ街は大分変わっただろう。
來魅は時間の流れを感じ取っていた。
「ふむ。ちぃっとばっかし街中を探索してみようか」
そう言うとビルから飛び降りる來魅。
だがそのまま落下はせず空を飛ぶように、下降を緩めてまるで鳥のように奥へ消えて行った。
和服に金髪のように明るい髪の色。
そして見た目は子供。
都会の中ではかなり違和感がある。
「ふむ。やはりこの格好ではかなり目立つな。みんなこちらを見るな」
さすがに自分でも周囲との違和感に気づく。
このままではいけない。
「…洋服というやつか?まあ、中には着物のような服の奴もおるが…。そうさのう…」
腕を組んでしばし考える。
ということで現代のような服にしようということでまずは周りの人間を観察。
「ふむ…先ずは流行を確認するには本がいいかもしれんな。本の店みたいなものはあるかの」
ズラっと並ぶ商店街。
そして本屋を見つけた途端、すぐに店へ向かってチェック。
「ふむふむ。今はこのような服装が流行なのか」
來魅は確信したように次は服が売ってる店へと足を運ぶ。
だが現代通貨なんぞ持ってない。
ましてや來魅は普通の人間ではなく、純粋なる妖怪である。
ともかく、服を売っている店だと思った建物の中へ入っていった。
ファッション雑誌などでチェックした事を思い出し服を物色する。
傍から見ればなんかのキャラクターのコスプレをした幼女にしか見えない。
そんな違和感バリバリでも気にする事なく服を探す。
「…ふむ。私の大きさに合う物は………と…」
來魅の身長は推定140cmくらい。
いや、それよりちょい下くらいかもしれない。
自分自身も分かってる。
なので子供サイズコーナーへと向かう。
「おお、これとか合いそうだな。これにしよう」
何着か決めた模様。
だが当の本人は途中で気づく。
金を持ってない事を。
「ふむ…私は金を持ってないではないか。さて、どうしたものか…」
大妖怪のくせに途方に暮れる來魅。
事を大きくはしたくない。
人間のルールに従う事もないのだが、來魅は揉め事を起こしたくない。
そもそも目立つ訳にはいかない。
「く、なんたる無念…私としたコトが…」
そもそも、100年経ってるのだ。
通貨自体が昔とは違う。
現代の通貨がどういうのかも知らない來魅が気づいてるかは謎だが。
「……ここでむりやり奪うってのも我が名がすたるってものだ」
なぜかそこら辺はわきまえる。
だが、そこで話しかける人間がいた。
「どうしたの~?」
若い人間の女…。
オレンジ色の制服を着ている。
どうやらこの街、鞍光市の学校のひとつ、鞍光高校の生徒の女子生徒のようだ。
ボブカットっぽいショートカットにツーサイドアップにした髪形の女子高生。
「な?!なんだ?!お前」
突然の声に驚く來魅。
「なんか独り言でぶつぶつ言ってるからどうしたのかなって?」
「え?あ、いや…その…金がなくてだな……」
「お金がないのー?」
その女子高生はきょとんとする。
そしてしばらく30秒くらい考える。
「えーっと、どっかでお財布落としたとか?うん、そうに違いない。ね?そーでしょ?」
思いがけないセリフに來魅は逆にきょとんとする。
「ま、まあ、そうかな…」
とりあえず話を合わせておく。
「可哀想に~。よし、お姉さんがそれくらいのお金どうにかしてあげる!」
「は?何を言って…」
だが、聞く耳持たず、女子高生は來魅を半ば強引にレジへと連れて行く。
「ちょ…何を…」
「いいからいいから~。うちは大金持ちだからこれくらいどってことないのさ~」
合計3万円近く。
他に靴や、装飾品など込み。
「ま、これくらいなら安いもんだね」
(……今の時代の物価の価値とかは分からんが、安いのか?)
疑問だらけ。
まだまだ現代世界を知らない。
いろいろ知る必要がある。
結局ある程度の服を買い揃えた。
店の外に出た瞬間だった。
「早速着替えてみよう~」
「え?!」
またもやなすがままにされる來魅。
思わず和服を脱がされそうになる。
「ここではまずいだろう!」
「あ、そっか」
女子高生は人通りある所で着替えさせようとしてた。
天然バカなのかなんなのか。
とんでもないマイペースに來魅もさすがに困惑していた。
近くの公園の公衆トイレで着替える來魅。
來魅自信が選んだ服は黒メインのワンピース。
そして女子高生が選んだ装飾品など着けた結果、なんとなくゴスロリ調に。
「わ~似合うね~」
満足気の女子高生。
「…これが現代の服飾か…?いや、でもさっき見た本ではこんな感じだったな…」
來魅は読んだ本のゴシックファッションの部分を見てたようだ。
「うし、お姉さんはここで帰るけどその服達は大事にしてね~」
他に2着ほど買った。
そして手元に残ったお釣り。
2万円程と細かい硬貨。
「……なんなんだ、あの人間は」
不思議に思いながらも來魅は人間の中でもいい人間がいるんだな、と思っていた。
ただ、かなりいい加減な人間ではあったが。
「しかし…この私に不意に近づいたというのも不思議なものよの。おそらくは…あの若い女も術者類のものか」
かなり油断していたとはいえ、気配を感じさせなかった。
それに赤の他人に金を渡すという不可解な行動。
妖怪である來魅でも理解し難いものがあったのだった。
グゥ~…。
「腹が空いたな」
空腹時の音が鳴る。
妖怪言えども姿外見、体のつくりなど人間とほとんど変わらない。
普通に食欲がわく。
多少霊力補給でなんとかは持つのだが、空腹時の食欲はどうしても耐えられない。
残りを渡されたお金でどこか食べに行こう。
そう考えていた來魅だった。
とにかく街中を歩き回る。
いろいろ食事できそうな店を見て回る。
「ふむ……。500くらいから1500くらい…よく分からんが現在は円というのが相場なのか?」
値段なんぞピンからキリだが、なんとなく解ってきた様子だった。
そこで來魅の目に入ったものはハンバーグステーキ屋だった。
「洋風の食べ物か…旨いのか?」
店の前で立ち止まる。
ショーケースに入っている見本。
そわそわしてくる。
気になって仕方ない。
結局時間はあまりかけず、誘われるように店に入る。
「ほう…よさげな店だ」
キョロキョロ見回す挙動不審なゴスロリっ子・來魅。
「ご注文お決まりでしたらこの呼び出しボタンでお呼び下さい」
「お、おおう…。ぼたん?」
何もかも初めて。
「これは…めにゅー?この中から選べばいいのか?」
ドギマギしながらじっくり見る。
「…はんばーぐ…。でかでかと大きく出てるのだからこれが美味いに違いない。これにするか」
よく分からないので単純にメイン料理のハンバーグセットにする事にした。
「でざーと……?これはなんだ?」
知らない物が多すぎてどれも頼みたい症候群になる。
「いや…ここは堪えてでな…。このぱふぇていうのだけにしとこう」
注文を決めた來魅。
ドキドキしながら呼び出しボタンを押す。
ぽろろーんっと、景気のいい音が店内で響く。
一瞬ビクッとなる來魅。
(な、なんぞ…?)
すると女性店員がすぐやってくる。
(ほうほう…店員が察知してやってくるのか)
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「じゃ、じゃあ、このはんばーぐでぃっしゅってのとぱふぇってのを……よろしく頼む」
「かしこまりました。ご注文を繰り返しますね?」
「ほ、ほむ?」
………とまあ、待つ事10分。
しばらくして注文した物が出てくる。
「うぉぉ…これは…熱そうだ」
ナイフとフォークがあるがイマイチ使い方解らないので近くにある箸で食べてみる。
「熱っ!」
妖怪でも熱い物は熱い。
ここはなんとか堪えてひと口。
「だが…うまい…。なんだこれは…口の中で広がる世界は…!」
見事にハンバーグの美味さに撃沈する來魅。
自然と笑みがこぼれてくる。
「今までない食感だ…!」
感動のあまり独り言が大きくなっていた。
他の周りの客も妙なゴスロリ娘がいると思い始める。
それに見た目は小学生くらいの女の子。
それも一人で来ている。
不思議に思われてしまう。
ましてや平日の昼間。
「おっと…自重しなければ…」
周りの反応に気づく。
続いてパフェが来る。
「これは…さっきと違ってひんやりしているぞ」
早速食す。
当然、すごく冷たい。
「こ…これは…。冷たいが甘くて美味しい!」
また大声で独り言。
「何てことだ…。これではおかしな娘に思われるではないか…」
自分自身で変な事言っていたとは気づいていた。
「それにしても世の中ここまで進化していたとは…」
100年の間に様変わりした世界では驚くばかりだった。
來魅が歩いてると電気店で足を止めた。
気になったのはテレビ。
「おお…なんだこれは…。箱に人間が…?」
お約束の反応であった。
「動く写真みたいなもんか…?まるで遠い相手と連絡妖術のようだ。むむ。勉強が必要かもしれん…」
案外冷静だった。
その昔、なんらかの妖術で通信妖術があったのを思い出す。
とにかく今の世界を知りたい。
そしてなんとか溶け込もうとする気持ちがあった。
「それにしても外来語が増えてるんだのう…」
街の風景を眺める。
看板に書かれてる文字。
日本語である漢字、平仮名、片仮名、そして片仮名表記である英語。
そして英語含む外国語の文字列。
さらに日本語も多様化している。
外国の言葉や固有名詞など日常化されている。
來魅にとっては何もかも新鮮だった。
「……うーん…テレ…ビ?写真が映像化されてるようなものか。
ふむふむ。これは…英語か?これは?うむむ」
英語交じりの文字に悪戦苦闘。
解読するのに苦戦中だった。
「今の妖怪達もこのように馴染んでるのだろうな…」
全ての妖怪達が馴染んでいるかどうか解からないが、時代の流れと共に生きているものはそれに適応して行くものである。
100年の時間を取り戻すために來魅は世界を知るために回り始める。 それなりの言語の勉強をしようと考えていた。
街をしばらくぶらついた後、街はずれ。
來魅はとある廃墟に来ていた。
廃墟と行っても崩壊も何もしていない綺麗な建物。
おそらく小さい旅館だったのだろうか。
板張りなどはされているがほぼ管理は放置状態。
物もホコリまみれであるがかなり残っている。
「…あれから二日経ったな」
手元のお金は2万程度。
ほとんど食事代。
ハマりにハマったハンバーグ定食。
そればっかり食べていた。
いろいろ勉強した。
言葉の意味。
現代にある店。
今も続いてる物など。
「さて…」
そう言うとスっと立ち上がった。
前方に手を掲げ何か力を込める。
ボッと火のように揺れる強力な霊気が來魅の手の平の上で集約している。
「ためしに遊びにでも行こうか」
そして來魅は何処かへと飛び立った。
薄暗い森。
人の気配なんぞないような所。
一際違う妖しい空間が漂っていた。
「ふふ…変わらないな。さすがにココは」
一度来たことあるような言葉。
封印される前に来たことあるようである。
來魅がここに来た理由。
ある人物…というより妖怪に会いに来たのだった。
しばらく道無き森の中を進む。
人間はおろか動物さえいなさそうな森の奥。
そこには不思議な祠があった。
相当昔に作られたものなのか。
長い年月にも負けずに在り続けた祠。
その隣には小さい小屋がある。
なぜこのような場所にあるのか…?
その答えはすぐ出た。
「ふむ。大きな霊力を感じる。まだ生きていたか」
誰か小屋にいるような言葉。
來魅はその小屋へと近づく。
「生きてるんだろ。入るぞ」
「……その声は…!!來魅か!」
小屋の中から低く野太い声が聞こえた。
小屋から出てきたのは2m以上あるだろうか。
巨漢の男性。
坊主のような風貌。
「久しぶりだな。赤坊主のオヤジ。まあお前からすると100年ぶりだと思うがな」
「…來魅…!お主こそ生きておったのか…!」
この巨漢の坊主は妖怪とも言われる赤坊主。
名前を阮醐。
「なんだ。死んでたとでも思ったのか?」
「…お主があの有名な人間の術者達に敗北したと聞いてたからな」
「敗北か。敗北と言えば敗北だったな。あれは」
「…処で今更何しにここに来た?」
間を少し開けて來魅が話す。
「力もほとんど戻ったみたいだしな。お前に相手してもらおうと思ってな」
「…バカ言うな。どういう理由なんだそれは」
阮醐が突然の來魅の発言に呆れる。
「…あれから100年経ったとしてもお主に勝てるとは思えん」
どうやら阮醐より來魅の方が遥かに上だという。
「何。腕試しって事でどうだ?」
「……手加減はしてくれるだろうな」
「フフ。どうかな」
腕試しと名指した戦いが始まっていた。
阮醐は肉弾戦と同時に術攻撃も放つ。
高度な戦術を繰り出す。
だが、來魅は難なくそれらの攻撃を避けていく。
「フフッ!さすがだな阮醐!サビついてないどころかより磨きがかかっているな!」
「よく言うな…」
しばらく戦いは続く。
というか一方的に阮醐が攻撃を仕掛けてるだけだが。
「ハハハ!阮醐!どうした!本気を出せ!」
「バカ言うな…!当に本気出しとるわ!」
凄まじい攻防が繰り広げる。
このまま行くと回りの森が吹き飛びそうだ。
「そろそろやめないか…!」
阮醐がそう言うとピタッと動きが止まる來魅。
「なんだ。もう降参か?」
「…当たり前だ…!お主に勝てるのはこの世界にいるかどうかだぞ…」
「……ふむ」
納得したのかおとなしくする來魅。
「100年経ってもお主の強さには追いつけんのか…」
「何を言ってる。昔とは違うではないか」
「…やっぱり変わらないな。100年前のままだ。お主は」
「そりゃ、封印されてたからな」
なぜかエヘンッ!と威張る來魅。
封印されていた事を自慢げのように言う。
その顔に首を振って呆れ返る阮醐。
「……時々その外見通りな性格なんだなと思うぞ…」
「何か言ったか?」
「…いや…」
しばし沈黙が流れる。
阮醐は一気に疲れきった表情をしていた。
「どうした?もう疲れたのか?年だな」
「……よく言うものだよ…」
「ふふ」
「ところで、だ。お主はこれからどうするのだ?100年前とはもう世界が違うんだぞ?」
「ん?これからか…。一応街中の様子とか見てきたけどな。
はんばーぐってのが美味しいものだったぞ」
「……ハンバーグ食べたのか…」
阮醐は苦笑していた。
現代世界を一通り見てきた來魅。
なぜかハンバーグなども食べて感動したりしていた。
「ところで、お主その服装はなんだ?」
「ん?」
來魅の服装は黒を基調としたゴスロリ風。
先日いい人?がお金を出してくれて買ってみた服だ。
「気前の良い人間の若い娘っ子が買ってくれた。洋服だ。世の女はこのような服装が好みのようだな」
くるくるっと回る。
その姿が可愛らしい。
「…??なんだかわからんがお主が気に入ってるのであれば何も言わないが…」
「なんか変か?」
「いや…。逆に似合いすぎて何も言えんよ」
「ふむ。中々楽しかったぞ」
「…來魅よ。これから何をする気だ?まぁお主を止めるものなんぞいるよしもないけどな」
阮醐の言葉を聞き來魅は足を止める。
「ふふ、本当にそう思うか?」
「何?」
「私を封印した術者の子孫と会ったぞ」
「ほう」
つまり琉嬉や耿助の事。
「どうだったのだ?」
「まだ私の敵ではない…が」
「…が?」
「世界最高くらいの術者になるだろうな。私が言うのだから間違いない!」
「…そうなのか」
目を丸くしながら関心する阮醐。
阮醐も相当の力の持ち主ではある。
來魅の力は解っている。
その來魅がそう言うのだから納得した様子だった。
「さて、また遊びに来るぞ阮醐。お前も街中に出てみろ。楽しいぞ」
「…そうか。気をつけろよ」
「ああ」
気がつくと來魅の姿は既になかった。
そして祠に回りは派手に荒れていた。
「…まったく。嵐のように現われおって…。この状況どうするんだ…」
後始末に困る様子の阮醐であった…。
「ふふふ…。力は元に戻ってるな。あの時力が封じられてどうなるかと思ったぞ…」
どうやら來魅は封印される前に妖力類の物も封じられていたようだ。
「……封じる力に長けているのは彼方の人間と…参堂の人間か…。にしても…あの小娘彼方家の人間だな…」
小娘と言われる人間。
つまり彼方琉嬉の事である。
復活した際、明黄麟神社で一戦交えている。
圧倒的な力の差で來魅が退けている。
「あの小娘…。やられながらも私の動きを封じようとしてたな…」
そう言うと來魅の腕には傷…ではなく模様みたいのが出来ていた。
模様…というより何かの呪文のようなもの。
「…あの強力な一撃を繰り出した後にこのような術も練っているとはな。いやはや…」
思わず関心していた。
來魅は感づいていた。
昔のような術者は減っているのかと思いきや、実はまだかなり存在していた。
それどころかもしかしたら昔の術者より優れているのがいるのかもしれないと。
「ふむ。中々面白い事になってきたな」
それどころか來魅は楽しみになっていた。
自分自身に敵う人間や、妖怪などほとんどいない。
だが、それに匹敵する者がもしかしたら現代にいるかもしれない。
そんな複雑ながらも興味が沸いていた。
封印が解けてから数日。
阮醐との腕試ししてからさらに日が経っていた。
來魅は街中をフラフラ歩いていた。
手ぶらでゴスロリ服で歩く小学生にしか見えない。
昼間から歩いていると何度も警察官に呼び止められ質問される。
來魅は適当にごまかし答えていた。
ある時は思い切って逃げる。
家出娘のように見られているようである。
無論、逃げる事は余裕で可能だ。
「……まったく。しつこい奴等だな。面倒な町だな。ここは」
仕方ない。
普通なら來魅くらいの子供なら学校などに行ってる時間である。
逆に夜中も子供だけが出歩くのもあまりない。
だから警官に見つかれば呼び止められる。
そんなこんなながら、來魅はフラフラと街中を巡り歩く。
「今日も図書館とやらにに行ってみようかな」
來魅は勉強をしていた。
現代に通じる本を読めば社会の出来事など解かるからだ。
早速向かう。
「ふむむ!……休館日だと…」
最近御用達の図書館が休館日だった。
残念がる來魅。
「何てことだ…。これじゃ今日一日私は暇ではないか」
なんだか自分でもどこから出て来るか分からない怒りと悲しさが同居していた。
「ま、まぁ…ここで怒っても仕方ないな…」
やり場のない思いを抑えながらその場を後にする。
『今日○○で日本時間未明、20人が死ぬテロがありました』
またもやフラフラ街中を歩いているとテレビのニュースが目に入る。
「…む」
世界のニュース。
どこかの国のテロのニュースだった。
「……今も戦があるのか。人間は相変わらずだな。
……妖怪も大した変わらん事してるがな……」
どこかやりきれない気持ちだった。
そして妙にイライラ感が溜まってきていた。
「どうしてくれよう…このイラつく気持ちは」
まさに触れれば大爆発。
不機嫌になっていた。
「いや、マテマテ、私よ。ここで暴れても仕方ない」
自分に言い聞かす。
「このお陰で封印されるコトになったではないか…また同じ事を繰り返すというのか…」
どうやら短気のせいで封印されたらしい。
ともかく妙な葛藤に悩まされる來魅。
「ふーむ…」
トテトテと、軽妙な足取りで來魅が入っていったのはゲームセンター。
「……ここは…楽しそうな所だな。にぎやかで」
様々な音楽や音などが騒がしい場所。
何か気を紛らせれればいい。
そう思ってにぎやかそうな所に来てみた。
そこで來魅が目にしたのはガンシューティングゲーム。
「なんだこれは…?銃?」
ふと目をやると100円と書いた文字が見える。
「ここに金を入れろって事なのか?」
早速入れてみる。
ジャーンッッ!と壮大な音楽と共に始まるゲーム。
「おぉ!」
説明画面をよーく見て始める。
ゆっくりながら字面と動いてる映像を追っていく。
「おおっ!本物の銃みたいだ!」
なぜか感動しながらゲームをやる來魅。
しかも、回りから見ればゴスロリの小学生の女の子がはしゃいでるように見える。
「ふむ…。早くもやられてしまった。現実とは違いなかなか難しいのう」
しばしゲームオーバー画面を眺める來魅。
でもちゃっかりハイスコアは更新はしていた。
さすがに反射神経は凄まじいものだ。
「…けっこう面白いではないか。他のもやってみよう」
いろんなゲームに手を出してみる。
アクション、パズル、格闘、などなど…。
一通りやってみたがどれも自分が納得いく程上手くいかない。
なにせ、初めての事だらけ。
だが、それはそれで來魅にとっては良かった。
イライラしてた分も幾分かは紛れた。
「なんてこった。ついつい金を使ってしまった…。思わず3000円程使ってしまったぞ」
二万円もあったお金が今は残り5000円程度。
「これは俗に言う無駄使いか…」
來魅は反省していた。
現代のゲームの面白さに思わず感動し、そしてハマりこんでしまった。
それだけカルチャーショックだったのだろう。
何もかも新鮮。
來魅は子供のようにのめり込んで行った。
見た目は子供だが、実際は150年以上生きている。
うち100年は封印されている。
封印される前は生まれてから50年くらいしか経っていない。
ようするに妖怪の中では比較的大分若い部類だった。
封印年月を考えても150歳程度と考えてもまだまだ寿命の長い妖怪の中では若い。
ましてこの現代に復活。
あらゆるものが新鮮に感じている。
「ふむーっ。さて、今日はそろそろここまでしといて帰るか」
ゲームセンターから出て行こうとする。
そこで、ある気配に気づいた。
「……妖気」
來魅はそういうととある人の目の前に立ちはだかる。
「ん?なんだお前?」
30代くらいの男…。
のように見える。
煙草を吸いながら麻雀ゲームをしている。
その辺に居そうな30代くらいの風貌だ。
「…お前人間ではないな」
男はキョトンとする。
「はぁ?何言ってるんだ?お前。ガキには用はないんだ。どっか消えな」
乱暴な言葉を吐いて來魅を遠ざけようとする。
「……一つ話しを聞きたいんだが…」
「あ?」
「やむを得ないか…」
來魅の右手が青白く光りだす。
「!?」
男は一気に臨戦態勢になる。
「なんだ!?術者かお前!」
人影のない路地裏に出た二人。
來魅は男を外に連れ出した。
「珍しいな。人間に擬態する妖怪か。それとも…半妖か」
來魅は男に問い出す。
「……だったらなんだ?」
「聞きたい事があると言ったろう?」
「答えられる範囲だったらいいけどな」
「ふむ」
男は名を影居と名乗った。
一応半妖の種族らしいが。
現在は闇ルートの商人みたいな事をしてるらしいと。
「…半妖って今はどれくらいいるんだ?」
「さあな。それなりはいるんじゃないか?」
「ふむ。それと今半妖の一番の頂点はいるのか?」
「あぁ?頂点?」
「半妖をまとめてるような、長みたいなやつだ」
「さーなー。いろいろ噂あるけどなぁ。俺にはあまり関係ない事だし。
ジュウなんたらとかって奴の事は聞いたことあるぜ」
「ふむ。把握した」
ジュウなんたらと聞いても來魅はピンと来なかった。
ジュウがつく名前の半妖…もしくは妖怪。
少なくとも100年前には聞いたことはない。
來魅は少々興味が沸いていた。
「なあ、お前大体何?ガキのくせにそんな事聞いてどうすンの?」
「今の妖怪の状況を知りたくってな。別に深い意味はない」
「はん。そんだけかよ。せめて情報料くらいくれればいいのにな」
「情報料?」
「ガキでもいい金にはなりそうだしな。お前みたいなかわいい娘ちゃんはきっといい値で売れそうだ」
「……最低なヤツよのう」
來魅は影居の発言にクスっと笑う。
しかしその笑みはすぐ消える。
「お?やるのか?いいぜ。こう見えも半妖の端くれ。それなりに戦えるぜ」
影居は隠し持ってたナイフを取り出す。
接近戦主体のようだ。
そのナイフは普通のナイフじゃないのはすぐ理解出来た。
霊具の一種だと思われる。
妙な霊気が溢れている。
半妖。
通常の人間よりは遥かに強い能力を持っている。
そう言われている。
影居もそれなりの力を持っているに違いない。
だが…。
「来ないのならこっちから行くぜ!」
影居が仕掛ける。
ナイフから霊気の圧力が一気に上がる。
威力を上げているのだろうか。
だが、來魅には当たらない。
「ホラホラ、避けてるだけじゃ何もできなぜ!」
意外にや意外。
かなり慣れた手さばき。
これで何人のも倒して来たのだろうか。
「ふむ。やはりこの程度か」
來魅が右手を前に出す。
「なっ!?」
影居の突き出したナイフがあっさりバリアみたいなものに防がれる。
「くっ?」
本気を出したのか本人の妖力が増す。
「その程度で防げると思うなよ!ガキが!」
ナイフは一本ではなかった。
数本のナイフに妖力を込める。
「お?」
「くたばれ!」
妖力を込めたナイフを隙をついて投げつける。
來魅目掛けて飛んでいくナイフ。
ドンッ!
爆発が起こった。
周辺は爆風でグシャグシャ。
「はは…バカめが…!どこのどいつだか知らんが、ガキのくせにたてつくからだ!」
安心したのもつかの間…。
「さっきからガキガキうるさい奴だな」
「へ?」
爆風の影から來魅が姿を現した。
その瞬間――!
「お前如きにやられる來魅様ではないわっ!」
「んなっっ、バカなっ」
混乱する影居。
「送り火……」
一気に間合いを詰め、來魅の右腕から炎が巻き上がる。
影居はそのまま炎に飲み込まれた。
「あががぁぁ~~~~~~」
火柱が巻き上がってそして、一瞬で消える。
來魅の妖術の、黒くも青くも見える炎。
本気を出せば一帯が大きな被害をもたらす。
一応、來魅は自分なりの手加減を放った。
おかげで大きな惨事にはならなかったが…。
ボロボロになり大やけど状態の影居。
「お…お前一体……。普通のガキじゃねえな…」
「まぁ今の時代には知る奴なんぞほとんどいないがな。
私は妖狐の一種、観薙來魅だ」
「よ、よ、よ、妖狐ぉぉ!??!」
「昔は世界を牛耳る程とか言われたもんだ」
影居は落胆した。
「はっはっは。そう気落とすな。そしてさらば」
「…ちょ…待て…放置かっ!」
「ん?先ほどの発言だといろいろ不幸にした人間やらいるんだろう?
それに比べればこの仕打ちは妥当だと思うがな…」
「お前…妖怪なのに人間の肩を持つというのか…?」
「…………ふむ。私は、たまたま妖怪として誕生しただけだ。
生きてる生物の種族がどうのこうのという考えはない。
私は私の生きたいように、生きる。それだけだ」
「な…なんだとっ…」
影居はそこで気を失い倒れた。
さすがに半妖
生命力は高い。
とはいえこれではしばらく動けないであろうが。
「まったく愚かな奴だ。この私に戦いを挑むとはな」
今回もほとんどダメージはなく倒してしまった。
まさに最強―。
まさに大妖怪。
その力はあまりにも強大であった。
「…これは…?」
手にしたのは影居の胸ポケットから落ちたスマートフォン。
それを手に取りいろいろいじってみる。
「これは…なんだ?よく人間がいじってるかまぼこ板みたいなやつだな。これがすまほってやつか?
いわゆる携帯電話というやつか…」
一応はスマホや携帯電話の存在を知っている來魅。
すると突然ジリリリリッと音が鳴りだす。
「うおっ?!」
着信が鳴るって慌てる。
「どうすれば…?!」
触ってるうちに受信する。
ロックがされてなかったようだ。
おそらくは、影居のプライベート用のスマホではなく、仕事用の。
『おい!何やってるんだ!早く来い!』
「……声が…。これは無線のようなものか」
しばし何をしていいのか分からなく、軽くうろたえる來魅。
そして息を飲み込み、喋り出す。
「おい、お前。場所はどこだ。よく分からんがそこに行ってやる」
『はぁ?何言ってるんだ?そもそも、お前誰だ?影居じゃないな。子供みたいな声だが…女か?』
「一応女だけどな。とにかく行ってやる」
『……何者だか知らない奴には教えられんな』
それもそうだ。
自分の居場所を晒す訳にも行かない。
闇の世界に生きる者にとっては命あってのものである。
電話の相手はそうやすやすと教えるわけにも行かない。
だが…。
「影居とかいう奴かなら、丸焦げになってここで倒れてるぞ」
『…な、なんだと?どういう事だ?!』
電話の向こうの相手の声色が変わる。
「だから、丸焦げになってるって。私が倒してやったのさ」
『…そんなバカな?!影居程のやつがやられるだと…?!』
電話の相手は驚愕していた。
影居の力の程は知っているようである。
「まあ、いい。なんとなく霊視で場所は特定出来そうだ」
『え………?』
來魅はそう言うと目を瞑り、精神を集中した。
影居の体に手を当ててさらに集中する。
來魅の脳裏には微かに映像が「視えて」いた。
「ふむー。なんとなくだが視えてきた…、けど…」
どこかの事務所みたいな部屋。
そしてその建物。
來魅の脳裏に視えてきた場所。
「イマイチ分かりにくいな…そう遠くはないだろうがな」
そうして來魅は影居の所持してるものを物色する。
「ん…なんだ。これは」
手に取ったのはレシート。
「買ったもの…?ふむ。店の名前が書いてあるな」
そして再び霊視。
しばらくすると、
「ここの店が近いとするとなんとなく解かった」
そして、即飛び立つ來魅。
『おい!なんなんだ!?一体どうしたってんだ!?』
「さあて、来てやったぞ」
「…なんだこのガキは?」
霊視で視えた場所と同じ。
來魅はそこに到着していた。
堂々と正面からやってきた。
怪しい事務所に入っていく子供。
それはとても異様な光景だったに違いない。
「さっきの電話とかってやつで話してた者だぞ?」
軽快に返事する。
「この板で私とさっき会話してたやつはどいつだ?」
「…このガキ…まさか」
一人の白いスーツ来た男が反応する。
「…ふむ。お主か」
ニヤつく來魅。
それが不気味に見えてくる。
白スーツの男がうろたえる。
「お前…ガキじゃないな…半妖か?」
「ほほう、理解が早い。それにしても妖怪が人間と手を組んでるというのかなんというのか…時代が変わったものだな」
淡々と話を進める。
「どういう意味か知らんがここはガキが来ていい所じゃないんだよ。お嬢ちゃん」
一人の若い衆が白スーツの前に出て来る。
「お嬢ちゃんか…くっふふふ」
來魅は笑っていた。
「まぁこういう愚か者はいたぶるのは『嫌い』じゃない」
手に霊力が宿る。
「なっ?!なんだ?!」
放たれた霊気は一人の男に直撃する。
一瞬で一人を片付ける。
「く!」
他の仲間らしき人間達が銃やらナイフを取り出す。
が…。
「残念だな。銃など効かないぞ」
來魅の前に弾かれる銃弾。
「なんだと…?コイツは…まさか?!」
「ほう、なんか知ってそうな口ぶりだな。だが、遅い」
すばやい動きで捕らえる。
來魅は見えないほどの手刀を繰り出す。
ただの手刀ではないが。
まったく何もできないまま男はその場に倒れる。
「ま、ま、待て!お前は何なんだ?!半妖の一族じゃないのか!?」
「残念ながら純粋な妖怪だ」
「…妖怪だと…?!」
「よく間違えられるがな。見た目はなんら人間に近いもんでなあ」
そう、見た目は普通の人間のあまり変わらない。
これは術によるものなのか、元からなのかは不明だが。
「…影居をやったのはお前なのか?!」
「影居とはあの半妖の事か?まぁ弱くて相手にならんかったな。この前戦った人間の方がよっぽど強かった」
「なんだと……?!」
混乱するトップの男。
「お主も半妖か?」
「だったらなんだというんだ?」
「ま、私には関係ないがな。はっはっは」
もはや適当に笑い飛ばす來魅。
興味が本当に無いようだ。
「な、なんだと…?」
「半妖が多くなったんだのう。これも時代か…。よし、覚悟は良いかの?」
構える仕草をする來魅。
右手には凄まじい霊力のエネルギーが集まってくる。
その強さを感じ取ったのか、白スーツの男は、
「分かった…!分かったから…、やめてくれ!金も出すしなんでもするから!」
その瞬間―。
無常にも霊撃が放たれた。
その日の夜のニュースは一つの暴力的組織が壊滅したというニュースが流れていた…。
「さて、気も紛れたし。はんばーぐでも食べに行くとするか…」
すっかり大好物となったハンバーグ。
やっぱり見た目同様子供なのかなんなのか。
相当気に入った様子だった。
「さて…どうしたものか…。金ならたらふくもらったしな」
ちゃっかり壊滅させた組織から奪い取った金があった。
これでしばらく贅沢できる…。
かなり自由奔放な來魅であった。
「そうだそうだ…の彼方琉嬉とかいう小娘の所にでも向かうか。また楽しませてもらえそうだしな」
来たるべき戦いを知ってか知らないでか、今日も來魅は自分なりの楽しい事に手を伸ばす。