6 パーティ勧誘
「あなたが、噂のアユムさん?」
「はい?」
いつものようにギルドに入ると、知らない女の人に声をかけられた。な、なんだ? びくびく。私、悪い魔法使いじゃないよ?
「どうなの? アユム・キノシタさんなの?」
「そ、そうですけど……?」
「よかった。あのね、私たちとパーティをくまない?」
はい?
どうも話によると、毎日ソロでそれなりに活動していると言うことをギルド職員から聞いて、私に声をかけてきたらしい。
なに勝手に個人情報流してるんだよ、と思ったけど、できるだけパーティ組んで生存率をあげてより難易度の高い依頼をしてほしいから、わりとあることらしい。
そう説明してくれた女の人は鞭を持ってるショートカットの色っぽい感じのお姉さんで、後ろにがたいのいい鎧とかつけてる剣士っぽいお兄さんが二人いる。
3人パーティか。確かにこれで私が入ったらバランスいいかも。前衛前衛、中距離、後衛。他の職業のスキルは知らないけど。
「僧侶なんでしょ?」
「は、はい」
「僧侶のフリーって珍しいんだよね。スキルに攻撃がないからさ」
「はぁ」
「さ、行こう行こう」
「え、あ」
無理矢理連れていかれた。
え? 魔物にはバーサクしてんだから、嫌なら同じようにしろって? 無理無理。
人間とそれ以外は別ですよ。暴力よくないよ。それに確かに強引だけど、まあ、悪い提案ではないしね。後衛の私には肉壁が必要ですよ。
「アユムちゃんは、HP回復をかけてくれたらいいからね」
超絶馴れ馴れしくて、ちょっといらっとするリーダー、ベルさんと、馬顔のバッドさん、百巻デブのバディさん。男二人はなんかにやにやして気持ち悪いけど、殆ど話さないし、ベルさんに頭があがらないみたいだからいいや。
「はい、わかりました」
まあ、入ってすぐ連携しろとか無理無理なので、言う通りに回復に専念しますか。
「どりゃぁぁ!」
「HP回復」
「うおぉぉ!」
「HP回復」
回復が間に合わないくらいの勢いで突撃しとるでこいつら。
て言うか回復もMP5消費で1割回復だから、23回も使ったらMPが切れる。
仕方ないからMP回復を10P消費して取得する。MP回復はMP10消費で1割回復なので、HPと違って100以上のMPがないとどんどん減っていく。
まだ115のMPなので、一回使って1しか回復しないから、とる気はなかったけど仕方ない。
「MP回復MP回復MP回復MP回復、HP回復、MP回復MP回復MP回復MP回復MP回復MP回復、HP回復」
ひたすら回復させた。
結果、喉が乾いて大変だったことはそうだけど、私自身は怪我をすることもなく、強敵だった熊まで倒せた。て言うか、普通に前衛の攻撃なら傷ついてるし。
よく考えたら、私って力がない上に武器までただの木だからね。そりゃ無理か。
「いやー、今日はよかったね。やっぱり僧侶いると、安心して攻撃できるね!」
「うす」
「おす」
相変わらず男二人は薄気味悪いけど、一日でちょっとは慣れてきたかな。
「ねぇアユムちゃん! 明日からもよろしく頼むよ!」
「は、はい」
四人で割っているから、いつもより凄く稼げた、と言うこともないけど、安全性とより強い魔物を倒せることを考えると、やっぱりパーティって重要だよね。
今後もずっと組むかはともかく、とりあえずパーティプレイになれてみよう。できるようになったら、サブ職魔法使いだって言って、前衛もしようかな。
って、今日の感じだととてもじゃないけど無理か。ひたすら回復してたしね。
「さー! 今日は飲むよー!」
「うす」
「おす」
……まあ、それでもいいか。
一人じゃなくて、複数人でご飯食べるのは凄く久しぶりで、何だか涙がでそうで、このままパーティやっていこうかな、と思えた。
○
パーティを組んで三日目、私達は町を出た。拠点を中央の都に移すと言うのだ。
元々、他所へ行ってみたいと思っていた私には、どちらかと言えば朗報だ。少しばかり性急で、まだこの街だって十分に見て回れていないと言う気持ちはあるけど、一本1000Gで仕入れた鉛筆を三本と鉛筆削りのセットにして10万で売り付けるようなぼったくりのある街だと思えば、未練もそんなにない。
「ベルさんたちは、よくこうして拠点を移してるんですか?」
「ああ、ちょくちょくね。これからはアユムちゃんも、忙しくなるよ!」
「へー」
ちょっとわくわくしながら、馬車を乗り継いで一ヶ月かけて王都へ到着した。
「うわぁ、凄い! 大きな街ですね!」
「ああ、だろう? 私らが懇意にしてる宿があるから、まずはそこで荷物をおろすよ」
きょろきょろと回りを見ながら、私はベルさんたちについて行く。向かった先はかなりぼろっちい宿でひいたけど、さすがにここから私だけ別の宿に行きますとは言えない。もう日も沈んだし。
宿は確かに馴染みのようで、宿屋のおじさんと親しそうに話していた。普段話さないバットさんとバディさんも、言葉少なに挨拶してた。
荷物を置いて(やっぱりアイテムボックス的なものはないみたいで、怪しまれないようにある程度の荷物をまとめて鞄をつくってる。といってもかさばる布だけいれた張りぼてで、重いものは仕舞うふりしてアイテムボックスにいれてるけど)夕食を食べると、急に眠くなってきた。
ベルさんは旅の疲れがでたんだろうって言うけど、おかしいなぁ。疲れないはずなのに。
ふらふらしながら割り当てられた部屋に入り、ベッドに入りながら、システムをだす。一応、レベルとステータスの確認をしてから寝ないと。
「あ、れ」
ステータス画面に、状態:状態異常・睡眠ってなってる。これ、 異常、なの?
考えるより先に、私は眠気に勝てずに寝てしまった。
目を覚ますと、縛られていた。
「!?」
「おや、起きたかい。まだ寝てていいんだよ?」
「んんんん!?」
猿轡をかまされ、両手両足が動かない。隣のベッドに座っていたベルさんは優しく微笑んでから、隣に来て私の頭を撫でた。
「何が何だかわからないって顔だねぇ?」
「ん、ん」
「ふ、お馬鹿だねぇ。あんたはこれから売られるのさ。恨みたければ、ソロのくせに何の攻撃スキルもない僧侶を選んだ自分を恨むんだね」
「んん!?」
「ベルの姉御、起きたんすか?」
「ああ」
混乱さめぬところに、バッドとバディが入ってきた。バディは気持ち悪いくらいに顔を赤らめててる。
「なぁ、姉貴、もういいんだろ? 俺、ずっとやりたかったんだよ! こう言うくそ生意気そうな、ちっこいの好みなんだよ!」
「仕方ないねぇ。多少値はさがるけど、思ったより僧侶としてレベルが高いみたいだし、まあ大丈夫だろう。いいよ」
「んんんんん!!」
よくねー!
火球! くっそ! やっぱり詠唱ができないと魔法が使えない!
バディはいそいそと私の隣に来ると、にやぁと笑って私の頬をなめた。
ぐわぁぁ! こん、こんなの、認められるか!
「んん! んん!」
「ちっとうるさいから、黙れな」
「んぶっ!」
殴られた。痛い。痛い。もうやだ。
「あーあ、泣いてるじゃないか。あんまり痛め付けるんじゃないよ」
「わかってるって。はーい、脱がせるぞー」
ベルとバッドが出ていくのに手をふってから、バディは私の服に手をかける。やだ。うそ。
考えろ、考えろ。詠唱、あ、詠唱!
私は無詠唱の魔法を習得して、頭の中で唱えた。
無詠唱! 火球!
「ぎゃああああ!」
炎でた! よっしゃ! 無詠唱自体は無詠唱で使えた! 勝った!
私は顔面に炎をうけてのけぞるバディを蹴りつけて、さらに唱える。雷球!
「ぐおぉぉ!!!?」
距離をとり、自分に向けてもいっちょ火球!
「!!」
あっつい! 手が燃えてるからそのまま燃えるように熱い! 水球! っでねぇ!
くそ! 三ターンって3回魔法を使うってことか!
やけくそで燃えてる手のまま、拘束している紐は燃えたので猿轡をむりやりはぐ。
あっつい。顔面あっついわ! 魔法の火は簡単には消えない。でも猿轡さえなければこっちのものだ!
「水球、HP回復」
ほ。これで落ち着いた。
「何事だい!?」
あ、さすがに騒ぎまくってるバディの声をきいて、さっきの二人が戻ってきた。ちっ。ここは先制攻撃だ!
「火球火球火球火球火球火球!!」
「んなっ!?」
「なんだぁ!?」
二人に魔法をぶつけまくって、私は部屋にある鞄だけ引っ付かんで窓から飛び降りた。
いっ、たいけどまだ大丈夫! 骨も折れてない! MPは無駄に出来ない!
私はそのまま逃げ出した。
○