3 初依頼
「夕食をお願いしたいんですけど」
「はい。じゃあ、あちらの席に座って待っててください。あと、持ってきたので足らなかったら別料金で注文できるんで、メニュー見ててください」
「はーい」
一通り荷物を見た。服はもちろん十分にあるから、ちょっと浮くことを無視すれば今後も心配はない。他に武器とかだけど、しょぼい十徳ナイフはあるけど、あんまり役に立たなさそう。なんで私、100均で包丁のひとつも買わなかったんだろう。
料理を食べるときにつかうナイフ、フォーク、スプーンのセットは三つあった。でもこんなナイフじゃあねぇ。て言うかお母さんが、あんたがお嫁にいく時にとっておくね、って言って倉庫にしまってた高給ティーカップセットとか、タオルセットとか、そう言うのあるから余計に、何で包丁くれなかったんだよ!って気分になる。
木刀あるだけマシだとしよう。よく考えたら、明日から冒険者するのに、武器も防具も手持ちの剣道用具でしなきゃいけないのか。
うーん、売ったらまあ、なんとかなるかもだけど、ぼられて失敗したらいたいしなぁ。
いざというときのために、できるだけアイテムは残したい。食べ物は特に残したい。賞味期限切れてるお握りとかは、まあ、そのうち考えよう。学校帰りに買ってたのすっかり忘れてたんだよねぇ。それに冷蔵庫とかテレビとかの電化製品もね。出してないけど、もう使えないしねぇ。捨てるのは勿体ないから、置いておく。
戦闘に役立ちそうなのは他にはない。ロープとか網とか、サバイバルにつかえそうではあるけど具体的な使用方法が思い付かない。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
料理がきた。
とりあえず、薬草とりとかで様子見たらいいし、明日は今日と同じスタイルでいこう。
あと、売りに出していいリストも作っておこう。まず剣道の面はいらないでしょー。剣道着も、実際には機能的じゃないからいらないでしょー。あと漫画とか、かなぁ? 数あるしね。漫画だけで千冊オーバーとかびびった。兄たちからもう読んだしあげるーと言われて、倉庫送りになってたのが大きいな。小説も500ちょいあるし。CDは売れないかな。
「ん、美味しい」
ご飯は美味しい。これはいい発見だ。と言うか、普通にお米があるんだね。頭の色はカラフルで、洋風っぽい人ばっかなのに。ゲーム世界っぽいっちゃぽいのかな。
ご飯にお肉の炒め物とピクルス?みたいな添え物で、割りと美味しくいただけた。ちなみにお箸です。日本かよ。
で、メニューを見る。お腹が足りない訳じゃないけど、お腹一杯ではないし、何だか物足りないのでデザートでも。ん? なんだこの、奴隷メシ。50Gって安いなまた。
さっきから気になってた、席につかずに床に座ってるのが奴隷なんだろうけど。改めて文字で奴隷、と書かれるとインパクトが違うなぁ。よく見たら首輪つけてるし。
お、ちょうど奴隷の前にご飯が……ご、ごはん?
「よし」
ご主人様?のよしの合図で食べ始めた奴隷のご飯は、お皿にもられたなんか残飯だ。残飯としかいいようがないごちゃごちゃした何かだ。なんなの、あれ。
……あ、わかったかも。あれ、お客の食べ残しをまとめてるんだ。うぇ。食欲なくなった。
デザートはやめて、部屋へ戻った。
身を清めて、今日はもう寝ることにした。
パジャマに着替えてベッドに入る。特に寝心地は悪くない。スプリングじゃなくて板の台に布団をのせてるだけみたいで、ちょっと固いけど、要は板の間で布団で寝るのと同じだ。問題ない。
「……」
目を閉じると、妙に色々な音が聞こえてくる。階下の食堂が騒がしい。
布団の匂いは臭くはないけど、嗅いだことのない、異国っぽい臭いがして、何だか泣けた。
なんでこんなことになってるんだろう。目が覚めたら夢落ちだったらいいけど、もうすでに落ちてすぐに頬っぺたつねったりして夢じゃないって確認してる。
はぁ、何だか寂しい。いつも、別にそんなに家族べったりじゃなくて、むしろ殆ど自室に引きこもってるくらいで、夏休みなら友達とも家族とも会わないのが三日くらいは珍しくないのに、なんでそう思うんだろ。
鼻をすすりながら眠りについた。
○
翌日、宿をあけて冒険者ギルドへ行く。
依頼をとって、簡単な説明を受けた。初めてなので依頼の受領とかについても詳しく教えてくれた。
薬草と、食べられる野草の採取の依頼をとった。人の通り道じゃないところは魔物がでるから、危ないらしい。魔物も、人が通る道は避けてるんだって。昨日魔物に大して遭遇をしなかったのはそれだった。
ちょっとびびりながら街をでて、教えてもらった採取ポイントへ行く。私以外にも薬草とりしてる人が一人いてほっとする。
えっと、薬草はこれかな? あ、調べてみよう。
『ポーション草 鮮度MAX 状態:正常。 ザン草原に生えて……』
これで間違いないな。長いけど、ちらっと下までスクロールして内容をチラ見しておこう、ん? 鮮度が落ちない?
なになに。ハサミで切って水につけて持ち帰ると鮮度が落ちない? なるほど。そりゃそうだろうね。ギルドでは説明受けなかったけど、やった方がいいかな?
昨日アイテムの実験したところ、コップにいれた水もいれれて、そのまま溢れずに出てきてかなり応用がきくかんじだった。
試しに、水をいれっぱなしにしてたカップに花をさして、入れて、また出してみる。よしっ。できる。
ハサミはあるのでだして、手当たり次第に調べて取っていく。あ、これは似てるけど違うな。こっちか。むむ、これはなんか貴重そう。他のコップにいれておこう。
そうして頑張ってると、右前方から悲鳴が聞こえて、左手に持ってるコップを片付けてから立ち上がる。
「こ、こっち、くんな!」
少年がナイフを振り回している。木刀を出してそちらへ近づくと、昨日も見た犬がぐるぐる唸っていた。
「くんじゃねぇぇ!」
「ちょっ」
少年は私の横をすり抜けるように逃げていく。私に、犬の目線がロックオンされる。うぐ。
いや、犬くらいなんだ!
こっちきて体力とか強化されてるし、大丈夫大丈夫!
「はああぁ!! めえぇぇぇ!!」
突撃した。振り下した木刀は普通に避けられた。
地面にバウンドした剣先を、慌てて避けた方へ振り抜いた。思わず右手だけになってしまったけど、犬にはちゃんとあたった。
「きゃうん!」
ぼこっと思った以上の手応えで、犬を叩けた。おっ!? やっぱりこれ、力強くなってる!?
調子にのって怯んだ犬に追撃をかける。
「おらぁ! 死ねぇ!」
さらに鳴き声をあげた犬がうずくまるので、右足をあげて踏み込んで、さらに上から叩きつける。
5回、6回と木刀で殴り付けると、動かなくなった。剣先でつついたり、目玉の部分に押し込んでも動かない。
ふぅぅ……やったか。
「……やっちゃったか」
目の前には、魔物だろうけど普通に犬にしか見えない。おでこに石みたいなのが埋まってるくらいだ。
う、か、可哀想。私が殺したんだけど。
わかってる。殺すのに慣れなきゃ。死体に慣れなきゃ。そうだ。触って、もっと残酷にぐちゃぐちゃにして、平気にならなきゃ。
犬に近寄り、素手で触れた。まだ温かい。ぐにゃりとしている。気持ち悪い。
木刀を抜いたことで、左目が飛び出している。ぬめぬめしたそれをつかんでとりだす。ぷちっと、目玉から繋がってた線が切れた。
意外と固くて握りつぶすのは難しそうだ。いや、いけるか?
ぐっと力を込めるとできた。この力なら、中身の入った栗を握りつぶすくらいできそうだ。ぐちゅりと汁が飛んできて気持ち悪い。
足をもってひっくり返す。お腹を撫でてから、立って踏みつける。力をこめると、口から血が流れてきた。
「……うん」
大丈夫だ。気持ち悪いし気分が悪いけど、冷静だ。手がちょっと震えるけど、吐いたりはしてない。こんなに意味もない残酷なことができるんだ。
今後、魔物を殺したり、解体したりできそうだ。もっと心を殺していこう。
さて、魔物はたしか、魔力の結晶がお金になるんだよね。おでこのこれを、指で、むりやりとれないかな。
む、さすがに難しい。あ、カッターならあるんだ。よし。これで、うん、うん。よし、できた。
「へぇ」
ルビーみたいで綺麗じゃん。
太陽にかざして見てから、結晶をハンカチでくるんでアイテムにしまう。
手が汚れたので、空のペットボトルに補充しておいた水でてを洗い、木刀も綺麗にする。拭いたタオルはまとめて洗い物としておく。手が空いたら綺麗にしよう。
薬草と野草の採取を再開する。
その後、さっき殺した犬の死体のせいか、ちょろちょろ魔物がやってきていた。いずれもさっきの犬か、それよりやや小型の魔物だった。どいつもこいつも近づくと物凄い狂暴な声を出して威嚇してくる。
逃げることはないので殺した。魔物によって魔石の場所が違うようで、犬以外のは回収できなかった。
休憩をとりながらも続け、夕方が近づいてきたので帰った。
採取した草だけど、一個一個コップでだしたら、どこからだしたって言われそうだから、ナイロン袋にまとめて水ごといれた。
ごみ袋として、ナイロン袋は多目にストックされてるとはいえ、後で再利用できるようにしないといけない。あんまり汚れたりしないように、破れないように草原の草より上になるよう高く持ち上げて、持って帰った。
○