2 ギルド登録
二時間くらい歩くと街についた。旅人でーと言うと、変な格好だなと言いながら通してくれた。特に身分証も求められなかった。街の名前を聞いたら、よく覚えてないけど始まりの街の名前のはずだ。
冒険者ギルドの場所を聞くと教えてくれたし、剣と魔法のファンタジーで間違いない。獣耳とかひょこひょこしてるし。
てかよく考えたら、剣と魔法のファンタジーじゃなかったら、私の格好馬鹿みたいで怪しいよね。先走りすぎてた。ちょっと恥ずかしい。
途中で犬とか出たけど、木刀構えてやー!ってふりかかったら逃げてくれた。セーフセーフ。やっててよかった剣道。やっててよかった掛け声。
このまま冒険者ギルドへ向かう。二時間も歩いてるのに、不思議と全然疲れてない。途中でステータス確認したけど普通に減ってないし、これはHP減らない限り疲れないのか? スタミナバーとかないし。
冒険者ギルドにつくと、受け付けにはなんか見たことあるお姉さんがいた。
! 説明ページのトップにいた人だ。ほうほう。そう言えば、システムに調べるがあったよね。使ってみよう。
『アリッサ・マクニール 人族・女 level.13 戦士』
え、戦士なんだ。てか、見える項目少ないなー。これだけか。名前、種族・性別、レベル、職業ね。
数人が受付に並んでたから、順番待ちをしながら暇潰しに目についたものを調べていく。
ぱっと見て一番高いレベルは21で、筋肉なおっさんだった。
物も調べてみると、椅子とかはどこの何の木でつくられてて、誰が作ったかまでわかる。めっちゃ詳しい。でもここまで情報要らない。誰がいつ伐採した木で、何キロまで耐えられるとか、何で物はそんなに詳しいのよ。
人間との差を考えろ。いやでも、ネトゲらしいっちゃらしいのか?
ネトゲには全然詳しくないけど、他の人間の情報を簡単にさらしたら駄目だし。でもアイテムは誰が作ってとか、履歴で残ってそうだし。
「お待たせしました。次の方どうぞ」
「あ、はい。あの、冒険者ギルドに登録したいんですけど」
「はい。わかりました。では、あちらの一番奥のカウンターで受け付けてますので、お手数ですが並びなおしてください」
「は、はい」
お役所仕事か。確かに確認せずに並んだけど。
仕方ないから、並び直す。こっちは一人が受付中だっただけだからすぐ回ってきた。
「お待たせしました」
「はい。冒険者ギルドに登録したいんですけど」
「はい。じゃあここに手をのせて」
言われるまま、意味ありげに役所で言うとボールペンの位置に置いてある水晶に手をのせる。
「はい、アユム・キノシタさん、人族の女性で、レベル1の僧侶ね。最近転職されたんですか?」
「は、はい」
どうやらコマンド『調べる』と同じデータがでるらしい。てことは、普通の人はシステムはないのね。気を付けよう。普通にしてたけど、システム画面も他の人は見えてないみたいだし。
てか、勝手に名字が登録されてるのが地味に怖いなぁ。
「前のレベルの感覚で無茶をしないよう、気をつけてくださいね。はい、これギルド会員証。料金は1000G ね」
「えっ、お、お金かかるんですか?」
「はぁ? 当たり前でしょう」
物凄く馬鹿を見るような目で見られた。うっ。やばい誤魔化さなきゃ! てかお金ないよ!
システムの所持金欄は100Gだ。登録もできないんかい!
「う、じ、実はまだ、両替ができていなくて」
「ちっ。じゃあ、置いておくから、今日中に来てくださいよ。18時で受付終了だから、それまでに」
「あ、今何時でしたっけ?」
「15の鐘がなったところです」
よし、システムの時計はあってるな。お礼を言って慌ててギルドを出た。えっと、何かしら売れると思うんだけど。
鉛筆とか、一杯あるんだけど売れないかなぁ?
とりあえず場所がわからないので、露天に店を出してるおじさんに聞いてみることにした。ちょうどお客さんがいないし。
「あの、すみません」
「あん? なんだ?」
「私、物を売りたいんですけど、買ってくれる質屋とかこの辺にありませんか?」
「知らねぇな。でも、なー、串を買ってくれたら思い出すかもなー」
「一本100Gですね。じゃあ、一本……わ、私のこの国の通貨の全財産なんですぅ!」
「しかたねーな」
一本、と言った瞬間嫌な顔をされたけど、なんとか教えてもらった。ちなみに串ははしっこに置かれてた焦げてるやつを渡された。まずいよぅ。
とにかく質屋に行く。
怪しい雑貨屋の空気がぷんぷんしてるし、ドアも閉まってるからちょっと勇気が必要だ。
「す、すみませーん」
ドアベルがからころ鳴る。カウンターのおじさんがおう、と応えてくれた。
ほっとして近寄る。
「あの、私、ここで買い取りもしてるって聞いたんですけど」
「ああ、何でも買うよ。珍しいものならね」
「えっと、色々あるんですけど……」
言いながら、私は胴の中に手をいれる。システムがない以上、アイテムもないかも知れないし、あくまで荷物として持ってる物を出す体でいかないと。
つけててよかった胴! 大人用だからスペースには余裕がある。何を出そうかなぁ。
「あんたのその防具、珍しいね。材質は鉄かい?」
「あ、えと、これは売れません。防具とかの方がいいんでしょうか?」
「いや、別にかわったものならなんでもいいぞ。最近は羽ペンを集めてるから、この国にいない鳥からつくられた羽ペンとか、あるか?」
「羽ペンではないんですけど……私のところだと、こう言う筆記用具があるんですけど、ご存じですか?」
話の流れがうまい具合になったので、鉛筆と鉛筆削りを出してみる。鉛筆削りは一番しょぼいのを。前にお土産でもらった船の形の鉛筆削りは高く売れそうだから、とっておこう。
「ほう? いや、知らねぇな。この棒で?」
「はい。真ん中の黒いので文字が書けます」
新しいのを削るのは勿体ないから、使いかけの鉛筆をもう一本とりだして、鉛筆削りで実演して見せる。
「こう、削って使います」
「おおっ!? すっげぇ綺麗に削れるな!」
おおっ!? 鉛筆削りに凄い食いついた!?
「は、はい。その為の機械なので。で、これで書けます。書いてみます?」
「おう! ほう、ほう? なるほど、書きやすいな。木材に書き込むのに重宝しそうだな」
「はい。いくらで買い取ってもらえますかね? あ、もちろん、このペンはナイフでも削れるので、ここでペンだけ売ることも可能です」
「この削る機械もくれるんだよな?」
「はい、それもお売りするつもりです」
さりげなくオマケ感覚でもらおうとしてんじゃねーよ。おっさんはちっと舌打ちした。
「んー、まあ、削らねーといけねー面倒くささはあるし、一本10Gが妥当だな」
「はあ? いやいや、羽ペンはインク持ち歩く必要があるけど、これは持ち歩くのはこれ一本だし、それこそ立て掛けてる木材に書いても液だれもしない。それが10なんて。1000は欲しいです」
「はぁ? いくらなんでもぼりすぎだろ」
「こっちでは見ないんでしょう? それだけで希少価値だし、物好きには高く売れますよ。綺麗な状態で10本あります。今なら一万Gで、鉛筆削りは無料でつけます」
「…………良いだろう」
あ、あれ? すんなり? てことは、これでも安いってことか! くそっ最初の10Gどんだけぼったくろうとしてるんだよ!
ま、まあいい。まだ鉛筆は糞ほどあるし、シャーペンやボールペンも山ほどある。とりあえずの手持ちさえあればいいんだ。
くっそ悔しいけど、お会計をすませる。とりあえずはこれでギルド登録だ!
てなわけで登録した。ほっ。とりあえず、もう4時になるし、今日のところはどこか、宿でもとろう。
ギルド職員ににおすすめの宿を聞いてみた。見に行くとボロそうなところだったし、受付の人も恐そうな人だったから、やめた。料金表は一泊2000Gって見えたけど、安すぎて怪しい。
まだ9000Gあるんだから、5000Gくらいでまともなところを探そう。人に聞くのは怖いから、宿屋の看板を探してまわった。
何とか17時になるまえに、比較的綺麗なところで一泊6000Gで二食つきが見つかった。受付のお姉さんも優しそうだし、一階で食堂を兼業してるからご飯もまともそうだ。
明日働かなかったら死ぬけど、あんな汚いとこで、部屋もあるかわかんないし、それこそおかしな目にあうくらいならこっちがいい。
お風呂はないみたいだけど、身を清めるお湯をくれるみたいだ。タオルとかも部屋のを自由に使ってってことだから、これで落ち着ける。
夕食まで時間はあるし、落ち着いて荷物を改めていこう。
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