ある日、幻聴さんはやって来ました
ある男がいました。年齢は40歳ぐらいでしょうか。名前は伏せておきたいと思います。なぜなら、この男、名前に特徴がないんです。それは自分でも気にしていて、コンプレックスの種であるようです。私は決して彼の名前をこの話のダシにしようとは思っていません。いや、私は今から彼の話をしますが、決して彼を傷つけてはいけないと十分、警戒しています。しかし、彼の物語は語る価値があるのではないかと思っています。
その男はある病を患っていました。簡単に言うと、幻聴の病気です。一歩踏み込んで言うと、それは統合失調症という病気です。その男性がその病気が発症したのは高校3年の時の卒業式間際(ニ、三日前)の時でした。今、思い返せば、厳密には卒業式間際ではなかったかも知れません。それ以前から、朝、起きるのが辛すぎる症状がありました。それは病気の前兆ではなかったのかと思う時があります。ですが、その当時は何が何だか一切わからず、遅刻の常習者でありました。
卒業式間際に『幻聴』さんは訪れました。初めはそれが幻聴さんだとは気付きませんでした。
≪俺は山口組の組長だ。今からお前を殺しに行く≫
私はどうする事も出来ませんでした。私はただただ、恐怖に悶えました。もう、私は完全に殺しに来るものだと確信していました。自分の家でその『幻覚』は起き、家には両親がいたので、恐る恐る相談しました。母親もその話を信じてしまい、一緒に私の部屋まで、そのヤクザの組長が来ているかどうか、確かめに行きました。が、そのような人が自分の部屋にいるなどという事実は全くなかったのでした。私は「幻覚か!」と思い、ハッと我に返ります。それが私の統合失調症という病気の始まりでした。
統失(略させて頂きます)の始まりは不幸の始まりでもあります。私の「幻聴」は≪親父を殺せ≫や≪女をナンパしろ≫の繰り返しでした。本当に親父を殺してしまうんじゃないか? という恐怖もありましたが、現実で、女性に声を掛けて、ストーカーと勘違いさせられた事もありました。それが原因で仕事を辞めさせられたり、警察に怪しまれて、結局は任意での精神病院への入院をさせられた事もあります。幻聴は延々と一日中(夜中も)聴こえ、私の不幸はMAX値状態でした。具体的に言うと、鬱の症状なんかとは比べ物にならないくらいの「しんど辛」さでしたので、私の20代は完全に不幸でした。
実は40歳の彼には秘密があった。それは彼が幻聴の内容を誰にもひた隠しに隠していたという事実だった。さっき、私が記した彼の≪親父を殺せ≫や≪女をナンパしろ≫のこの二つの繰り返しだという件だが、これは私が知っている範囲での幻聴の内容であり、真実だと思っていたが、違っていたのか。いや、私が調べる限りでは彼はこの二つの「幻聴」さんの繰り返しで合っている。きっと、彼には彼の「勝手」があるに違いない。彼には幻聴がさぞかし恥ずかしかっただろうが、私にはそんな風に見えない。しかし、彼の「苦悩」は彼には奥深い深遠ともいうべきものだったのかも知れない。
結局、彼が苦悩していた事は時が過ぎると何でもありませんでした。ある時、彼に転機が訪れました。就職活動を始めたのでした。それまでは福祉作業所に勤めていたのですが、一般の企業で勤めてみようと、ハローワークに通うようになったのでした。就職活動を続けていたら、私はある女性と出逢いました。彼女の名前は菜穂子と申します。作業所の同僚女性です。私がこの菜穂子と出逢ったのは、菜穂子以外の誰かではなく、この菜穂子本人であった。それが運命というものではないかと私は思っている。菜穂子と違う女性とは違い、菜穂子そのものと出逢った事が、運命であったのだった。
統合失調症(以前は分裂病と呼ばれていた)は現在では「ちょっとずつだが、確実に治っていく病気」だと医学的に証明されている。1年や2年の幅では改善しにくいが、10年~20年の間隔であれば、確実に治っていくと実証されている。とにかく、自分に合った薬を決まった時間に必ず飲むこと。薬は滅多に変えてはならないし、減らすのもやめたほうがいい。
私は、いや、もう告白するが「彼」と呼んでいる者は私の事である。私は、今でさえ病気は「寛解」している。しかし、寛解というのは「幻聴は聴こえる事は聴こえるが、安定している状態」の意味を指す。私は幻聴の事を「幻聴さん」と呼んでいる。ある日、突然、それは訪ねて来た。幻聴さんは今でも聴こえている。私には恋人がいて、友人もいる。その人達には感謝しても足りないぐらいである。今では病院の総務部で働いている。もう一度言うが、「男」というのは私の事である。ただし、年齢は若干違います。