開戦
『操作は、大体はオートにしてある。君たちは機体を歩行させ、メインカメラが敵を捉えたら操縦席の右側にあるディスプレイを操作して遠距離用武器を選択、トリガーを引くだけでいい』
三機全て、コックピットに乗り込み操縦席に座るとそんな音声と同時に目の前にいくつかのデジタルディスプレイが表示された。
「カメラの外から攻撃がきたらどうすんだ?」
ケイトが操縦席横のディスプレイから『STRIKE GUN-颯-』をタッチすると、機体が振動した。
何もない飛行場のようなところに立つ唯一の三機の内、青い機体が腰の後ろに手を回し、ハンドガンのようなものを取り出す。
『操作モードがオートだから、右手付近に緊急モニターが開く。表示された方向にカメラを向けろ。あとはトリガーを引くだけだ。…勝手に銃を出すな。』
「なるほど、武装選べば自動で手に取るんだなぁ…。」
「ねぇ、敵に気づかれたりしないの?」
別のコックピットで、ミーナも同じように側面ディスプレイを操作し『GUN BLADE-椿-』をタッチしていた。
ケイトのクレールから、黒い機体をはさんで立つ赤い機体が同じように腰の後ろに手を回し、銃に剣が付いたような武器を取り出した。
『お前もか…まぁいい。この三機は奴らのと比べてレーダー範囲、感度共に圧倒的に高性能だ、もしあったとしてもオートで迎撃する。』
「チュートリアルってことね…。」
「…なぁ、ひとついいか?」
赤と青の機体がは借用にしているのに対し、何も動きのない黒い機体のコックピットから震える声が響く。
「…敵も……人間なんだよな…?」
その言葉に、両脇の二機の動きも止まる。
『…安心しろ、奴らは無人機だ。』
「…信じられませんよ、でも信じるしかないんですよね。」
男の声を、半分無理やり心に響かせコウタも側面ディスプレイから『オート解除』をタッチする。
黒い騎士『ジュネス』は背中に左手を回し、一角獣がかたどられた盾を取り出す。
そして、盾の内側に飛び出ている柄を掴み引き抜くと、時代劇で見るような『刀』が赤い粒子を撒き散らしながらその姿を現し、赤い翼を広げた。その翼も、赤い粒子で出来ていた。
その動きは、ケイトともミーナとも違う、あきらかに素人のそれではなかった。
それは、プログラムされていない動き。
『…君は一体、何者なんだ?』
深呼吸を一回、コウタはレーダーを確認する。自機を表す緑色の点の側面に青い点が二つ表示されており、その点に触れると『プリュム』『クレール』と表示された。
「…父が軍人で、よくシュミレーターをゲーム感覚で使わせてもらっていました。」
咄嗟に思い浮かんだ嘘をつく。父はガーデニングが趣味の、戦いとは縁が無い人だ。
『そうか。』
男の声はそれだけを言い、「ゴホン」とひとつ。
『君たちはこれから、私のもとへ来てもらう。ヴェルデエリア中央司令塔横の演習場の赤い格納庫だ』
「そこって、工業区間じゃ…」
『表向きはな。気にするな…ッ』
「どうしたッ!?」
突然、ガタッという大きなノイズが無線に混ざり、三人同時に聴きかえす。すると
『…な、何者かがいま、新型機を奪取していった。』
「な、なんだって!」
「そんな…新型はこの三機だけじゃねぇのかよ!?」
『新型は、その三機を入れて火星都市に合計12機あるんだ…奴らはこの倉庫の二機しかわからんようだが…』
12機という言葉に、ケイトは呆れたように唸った。
『と、とにかく!早くこっちに来い!その三機は奪われるわけには行かんのだ!』
ガタッ、ガタッ、プツン
「お、おい!どうなったんだよ!?」
男からの無線は、その男と”聞き覚えのある少年の声”と共に切れた。
「なんなのよ、一体…!」
「俺らの街さぁ、どうなっちまうんだ?」
「…ここで悩んでても埒があかない、とりあえずヴェルデ中央司令塔横の赤い格納庫にいこう!」
コウタがいつもの調子で話しかけると
「…まぁ、そうよね。いつここに来るかもわからないしね!」
「さっさと届けて、あの声のおっさん問い詰めてやろうぜ!」
「ハハハ…そ、そうだね。よし、行こうか!ここはアッズロ端みたいだ、ほらあそこに僕らの学校が…」
苦笑しながら、気を抜いて学校がある方向へメインカメラを向ける。
「…おい、なんだよコレ…」
「嘘、よね…こんなこと…!」
「ぁ…僕らの…街がッ!」
メインカメラに映し出されたのは、倒れたビル、壊れた民家、そして火を吹く学校に、銃や剣をもった大量のALが街を破壊していた。
「―ふざけ――でよ――。」
「ミーナ?どうし――」
ミーナの無線から小さく何かが聞こえ、聞き返そうとした瞬間。
「ふざけないでよっ!何で私の場所を奪うのよッ!いつも、いつも…無人機の鉄屑のくせにィィィッ!!」
無線越しに爆発するような声と、外部マイクが拾ったブースターが爆発するような音が同時に響く。
同時に、ミーナの乗るプリュムが最大出力でブースターを吹かし、燃える街へ…あの赤い粒子を飛び散らせ飛び込んでいった。
慌てて追おうと手元のディスプレイを操作しようとすると…
ふと目に入ったレーダー、ケイトのクレールの後ろと、自機であるジュネスの後ろに一個ずつ赤い点が表示されていた。