満-ミツル-
「こちら、ミツル。火星都市への侵入を完了した。」
『はぁい。じゃ、地下エリアに行ってきてね。そこに破壊目標があるから』
「了解した。『ポーン』これより、新型兵器破壊任務を本格開始する。」
ヴェルデエリアのコアドーム上空から、半分火の海と化した市街を見つめる二つの目があった。地球製機体独特の、ツインカメラアイである。そして、カメラ越しに見える街並みに、ミツルは怒りの感情を燃やし、液晶に一発拳をぶつけ
「…もっとだ、もっと泣き叫べ…!僕の父さんの苦悩と、母さんの悲鳴は、この程度じゃ満たされないんだ…!」
ちょうど視界に映った瓦礫に、足を挟めてる人影を見つけた。とても怯えた表情で、目の前に降り立った二つ目の巨人を見ていた。
AS-L02『ポーン』の足はその男の目の前のがれきを蹴った。いや、女だったのかもしれない。だって、ミツルにとってそんなことなど関係ないのだから。
「怖いか?怖いだろう…さぁ、叫べ。目の前に迫る恐怖に悲鳴を上げろ…!」
ポーンは何度も何度も男の近くの地面を踏んだ。男は恐怖から、冷静な判断ができないように、ひたすらもがいていた。
「……醜いなぁ。」
そう呟き、今度は男を踏み潰した。
死の直後、何かを言おうとしていたようだったが、量産機のディスプレイは画質が荒い。米粒の口など見えはしない。
「ヴェルデエリア、工業区間…妙だな。道が広すぎる…車用の道路じゃないのか?飛行機の滑走路か?」
目的地につき、最初に思ったことがこれだ。
目の前には高いメタルビル、大きな格納庫、レンガ造りの司令塔。
一目見て奇妙だった。ビルと格納庫の間などを突っ切る道路、車道とは比べ物にならないくらい広かった。
ふと思い出したように格納庫を見てみる。
格納庫の中には、1機も機体はない。
「…軍事施設なのは明らかだ。だが何もないとは…。」
そう思いつつ、何気なく格納庫内に目を走らせていると
「…なんだ、あれは?」
ふと、壁に文字が書かれているのが見えた。白地の壁に灰色だから見つけづらかったのだろう…
――Checkpoint:1
「…チェックポイント?…なんだ、遊んでるのか?」
そう軽く笑った時、とある考えに至った。
「……演習場。…ッ!?」
そうか、演習場。
そうだ。よく考えたら
「あの大きな道路は、あの高いメタルビルは…。」
だが、焦ることはない。今からここを占拠するんだ。そう思ったとき。
視界の端、レーダーが反応を示すとともに赤い格納庫からALが1機出てきた。
白い翼を持った騎士。その顔には赤い目が二つ、ポーンを見つめいていた。
「…バカな…二つ目だと!?なぜこんなところに地球機がいる!」
白騎士が剣を構えたのと、ポーンが電磁ブレードを抜くのはほぼ同時だった。
数秒後、ポーンは両腕を切断されていた。
「…落ち着け、ミツル・カゲアシ少尉」
「そ、その声…!お前はっ!」
騎士の胸の中、パイロットの少年は学校指定のワイシャツを脱ぎ、地球軍の軍服に着替え無線を繋ぎ直した。
「ジェリス・ロウ。火星にて開発された『ヴァイス』を強奪。これより帰還する。」
同時刻、三体の機体のパイロットが決定、地球軍による火星都市一斉攻撃作戦が開始された。
出てきた赤い格納庫にしまわれた"もう1機"を見つめ
「…お前はどうするつもりだ、ヒズミ兄さん」
返事は、なかった。