起動
その鉄の巨人は突如、僕から日常を奪い去り
絶望を希望と変え、友を鬼と変えた。
「お〜い、さっさと帰ろうぜコウタ!」
「あ、あぁ!待てって!ヒズミ、行こう?」
「あぁ、今日は負けないからな。」
あの屋上以来、僕とヒズミの仲は急速に良い方へと流れた。
あの日の明後日、僕はヒズミを連れオフ会へ行き、長い間みんなと楽しんだ。
ヒズミの実力は本当にすごいものだったよ。「猛攻速攻」の異名を持つ同好会長ですら守りを崩すのにデッキの半分以上の消費するくらいだ。
ヒズミは会員No.30と言われたとき、ポカンとしていた。
みんな嬉しそうにヒズミを迎え入れてくれたから、ヒズミも入ってくれた。
夜のチャットはすごく盛り上がったよ。早速称号が付いたしね、「閃零騎士」だってさ。
ちなみに僕の称号は「魔術戦士」。
それから今日までで、いつもの三人の中に新しくヒズミを加え、いつもの四人…いや、ジェリオも含め、五人になった。
学食ではいつも一緒だ。さすがにジェリオとヒズミの周りには常に人が溢れていて、今日までの間じゃあ二回しか一緒に食べられなかったけど。
今は、ジェリオが転校してきて、十日後の月曜日の放課後。
「ふぅ…やっと放課後かぁ…」
「やっぱ土日とか休み明けの学校ってのは疲れるわね〜…」
「僕は部活とかで来てるから変わらないけどね」
「私は毎日、先生に呼ばれてるから、同じく変わりはないよ」
「兄さんに散々使い回されたよ…」
「お前は使えるやつだからな、ジェリオ」
それぞれが愚痴をもらす光景に、平和だと思いつつ苦笑する。
「んじゃ〜今日は、ジェリオの歓迎と、ヒズミが心を開いた記念に…」
「ね。あそこに案内してあげる…♪」
「フフフ…ロウ兄弟は初めてかな…?」
「ど、どこに行くんだ?」
「こ、怖いなぁ…」
笑いながら怯えるふたりを連れ、僕たちは学校を出る。
あそこ、とは。
アッズロエリア端、ヴェルデエリアとの境界付近の廃工場だ。
「…ここは?」
「昔。ってか、そんな昔でもないけど。兵器開発に使ってたみたいだけど今は使われてないんだ…。いつも放課後にここに来てるんだ。正確には、ここの屋上に。」
ヒズミが、僕たちが始めてきた時にした顔とは別の意味で驚いていたが、それに気付く訳もなく中に入っていく。
「やっぱり、綺麗…」
屋上に来て、ケイトとミーナと僕は同じ言葉を漏らす。同様に二人も
「美しい…」
「…ッ。」
ジェリオに至っては言葉を失っている…そこまで、とは思わなかった。
そう、この工場の屋上からはアッズロ全体が見渡せる。
ここから見ると、丁度ど真ん中に僕らの学校があり、その横に大きなお屋敷がある。
「…あそこが、我が屋敷か。」
門の上に、黒い鴉の彫刻が特徴的。
ふと、重い音が聞こえ、視界の奥にある境界門が開くのが見えた。
「すげぇ…こんなハッキリと見えるもんなのか…?」
「運が良かったのね…今日は」
「…いや、待って。アレ…人?」
視界の奥、境界門手前の軍事施設から、武装した人が…いや、人じゃない。人にしては大きすぎるし、機械的すぎる。
「…なぜ、何故こんなにも早く事を起こしてしまうのだ…ガゼル!」
「…ヒズミ?」
突然、ヒズミがおかしなことを言い出したかと思うと、突然駆けていった。
「おい!ヒズミ!どこに…ッ!?」
ヒズミを追おうとした刹那、廃工場隣の鉄塔が轟音と共に炎に包まれた。
「おい…なんだよこれ!」
「なに…?何が起きたの!?」
ケイトとミーナの声が聞こえる。
「とにかく、速くここから出ないと!」
僕はふたりの腕を掴み、ヒズミを追うように屋上から下階へ駆け下りる。
「おかしいだろ!なんでこんな…門が空いたのも、あの施設から人が出て来るのも超遠くだったじゃねぇか!」
「違う!あれは人間じゃない!」
「じゃあなんだって言うのよ!?」
「…人型兵器か、その類いでしょう!」
「じゃあさっさとシェルターに!」
「あんな遠くに見えて、こんな近くに攻撃が来た!外に逃げたって死ににいくだけだ!」
「じゃあどうするって言うのよ!」
どうする?今はただがむしゃらに階段を降りているだけだ。大体、どうして階段がこんなに長い?
「…なぁ!こんなとこ、あったか?」
「え?…あれ、ここは?」
ケイトの声で正気に帰り、周り御見渡すと
「ここって…階段の下?」
「階段を駆け下りすぎたのか?」
「地下に続く階段なんてなかったはず…」
『ここはアッズロの地下だ。階段は確かにあった。』
突如聞こえてきた声に僕たちは周りを見回す、が、姿がない。
「階段はなかったっつってんだろ!」
『いや、あった。二階への階段の横に、扉があったはずだ。ここに来たということはな。』
扉なんて…いや、あった。白い壁にうまいことカモフラージュしてた気がする。
「ねぇ、アッズロの地下って…?」
『言葉通りだ。旧アッズロ兵器開発エリア地下格納庫へようこそ。コウタ・ハガネ、ケイト・シマグニ、ミーナ・レイナー。』
「どうして名前を…っ?」
その問いに答えるように…いや、問いを無視して、僕たちの前のシェルターが開いた。
そこには、三人の巨人…いや、三機の人型兵器があった。
声は告げる。
『GM-S04『プリュム』。ミーナ・レイナー。君の力だ。』
「私の…力?」
引き寄せられるように、ミーナは左の赤い目を持つ機体の前に立った。
『GM-S02『クレール』。ケイト・シマグニ。君の剣だ。』
「俺の…剣!」
おもちゃを見つけた無邪気な子供のように、ケイトの足は青い角を持つ機体へと駆けてゆく。
『そして、コウタ・ハガネ。君の翼は、GM-S08『ジュネス』だ。』
「翼…僕の翼。」
コウタの目の前には、一個しかない白い眼を持つ黒騎士…ジュネスがこちらを見ていた。
老人のような声は告げる。
『さぁ、君達ならばやれるはずだ。行け、敵は二つ目の機体だ。』
少年少女は、コックピットの中でそれぞれの思惑のもと、モニターを操作する。
「何なんだ一体…どうしてこんなことに…」
パイロット認証…オールクリア。
「わかんないけど…とにかくやろう!」
「そうだ!こんな面白れぇ事、楽しまなきゃ損だぜ!」
システム設定…OK。
「操縦は?」
「…なんとかならねぇか?」
『パイロットサポートシステムを起動させよう。』
「そいつぁありがてぇ!」
パイロットサポートシステム、OK。
他、オプション認識。
スタンバイ――
「こういうのって…掛け声とかいるわよね?」
「おう!ケイト、出るぜ!」
「コウタ、ジュネス出る!」
――GO。
無線ルームで、老人が呟く。
「…貴様の思い通りにはさせんぞ、グエン。親父殿、安心してくだされ…!」
はい、どうも。
なんだか急展開で、いろいろありますが…問題ありません。
次話をお楽しみに!