日常
ここはマーズライト。
火星の首都的存在だ。
そのマーズライトの中央火星議会館の会議室で、二人の男が向かい合って座っていた。
「お会い出来て光栄です、グエン・ハルト様。」
「あぁ、久しいな。何年ぶりだ?カシム・ノート。」
グエンと呼ばれた金髪の男は、爽やかな笑顔で、カシムと呼ばれた銀髪のやや老け顔の男と話していた。
「覚えておりませんな、何しろ新型のALの開発に夢中でしたから。」
「ハハ、確かに。君はいつもパソコンと機材に向き合っていたようだからなぁカシム。」
「おや、筒抜けでしたか。まったく、フラムは口が硬いように見えてなんでも喋ってしまう…」
「いやぁ、私と君だけだよカシム。彼女は僕のことが好きなんだ。」
冗談交じりに笑うグエンに、少しムッとしながらもカシムは話を続ける。
「それで、実は本日は…」
カシムの表情が真剣になったのを見て、グエンは察し、声音を変える。
「…出来たのか?新型ALが。」
「えぇ、少々手間取りましたが、死んだ親父の遺言が役に立ちましたよ。」
「フッ、さすが親父殿だ。英雄的戦死者の名は伊達ではなかったということか…」
「…グエン様、親父との昔話を語られるのは大いに結構。しかし、英雄的戦死者と呼ぶのはやめていただきたい。」
カシムの目に怒りを察し、グエンは冷や汗を流す
「すまなかった、嫌な事件だったからね。印象に残ってしまうんだよ。」
「いえ、無理もありませんよ。同じ英雄的戦死者の親を抱える身ですし…」
「僕は…兄が嫌いだったから、なんとも思わなかった。すまない。」
「…カイ・ハルト様は偉大な方でございましたよ?」
カシムの発言に、グエンは鼻で笑い返す。
「なんだカシム、さっきの仕返しのつもりか?」
「いえいえ、そのようなことはございません。本心でございます。さて…話を本題へと戻しましょうか。」
少々イラっとして立ち上がり、お茶を出そうとするグエンに「コーヒー」とだけ言い
「そのままお聞きください。盗聴されているかもしれませんので、重要なことは後ほど。」
この言葉に、グエンは少し機嫌を取り戻した。そして思った、「やはり長い付き合いだ」と。
カシムは続けた。
「親父殿の遺言の一部です。『女帝は舞い降りた』、と。」
その言葉を聴いたグエンの顔には、無意識に笑みが浮かんでいた。
「そうか…先程の英雄的戦死者、という発言は完全に取り消そう。私は少々機嫌がいい…。」
「…グエン様は、日本茶をよくお飲みになられますね。」
「火星都市代表というのは、辛いものだよ。私は、地球の日本が大好きなのさ。」
カシムは「失礼します」とだけ言い残し、部屋を後にし
「…あの者は、いつかこの火星国家を滅ぼす男だ…。何とかしなければ。」
その答えを求めるように、彼の足は地下格納庫へと向かっていた。
午前のHRが終わると、女子生徒や一部の男子は真っ先に席を立ち、ジェリオの下に向かった。
ケイトやミーナも行ってしまった。最悪だ、これでは久しぶりのひとり飯になってしまう。
興味がなかったが、女子の声がやたら大きかったりするせいで内容が聞こえてきてしまう。
その中で気になったのは以下の会話だ。
女子生徒の質問
「ねぇ、ジェリオって本当にヒズミ様の弟なの?」
まぁ、これは僕も気になった。
「微妙に違うかな、養子としてロウの家に行ったんだ。本名はジェリオ・ソード。ヒズミ兄さんはお義兄さん。」
なるほどなぁ、仲良し兄弟っていうわけじゃなくて友達として、みたいなもんか。てか、ソードってなんだよ…。
ケイトの質問
「ジェリオってさ、ヴィオラエリアからきたんだよな!あそこってどういうところなんだ?TVでもあまり聞かねぇし…」
確かに、最初聞いたときはピンと来なかった。火星都市学の時間に火星都市のエリア一覧みたら、端にチョコンとしてたし。
「狭いし、物価は高いけど綺麗なところだよ。宇宙窓があるからセントラル側を見ると擬似太陽が、窓側を見ると本物の太陽がって具合で神秘的な光景を楽しめるよ。」
ふたつの太陽…み、見てみたい!すごい見てみたい!このエリアには宇宙窓なんてないからなぁ。見れるとしたら目を凝らしてみなくてもいい星々くらいだよ。
ミーナの質問
「彼女とかいますか!?」
いや、うん。来るとは思ってたけどまさかミーナが!?
「いない……あ、い、いるよ。」
女子が残念そうにしている。ジェリオくん、厄介事を避けたか。やるじゃないか。でも、いろいろともったいないぞ。
とまぁ、気になるのはこれくらいで、次の生徒が質問しようとしたとき、僕の席にヒズミが来たためにみんなの視線が痛い!
「…ヒズミ?」
「…コウタ、ちょっと来てくれるか?二人きりで話がしたい。」
「あ、うん。いいけど…まだお昼とか食べてないし…てか、購買で何か買ってこないと食べるものが…。」
「……私がおごる。さっさと来い。」
一部の男子と女子からキャーとかなんか聴こえた気がする…。
いや、ヒズミが男にしては容姿や声が女っぽいのは認めるが、そんなんじゃねぇだろ…多分。
とりあえずヒズミについて行き、購買にて僕は焼きそばパン、ヒズミは飲み物だけ買って二人で屋上へ向かった。
擬似環境設定が細かいせいで、風が吹いてやたらに寒かった。
二人で、言葉ひとつ交わさず無言で食事をした。
…てか、なにか喋ろよ!
「ひ…ヒズミ?僕に用って、何?」
「…君は、今やりたいことはあるか?このアッズロエリア限定で、だ。」
急になんだ?と思いつつ、ヒズミのことをよく知る僕は大人しく
「え~と…明後日のTCG同好会のオフ会の為にデッキ構築をしたいっていうのはアリ?」
「以外だな、君のことだからケイトと絵を描きたいとかだと思っていたぞ。同じ美術部だし。君達三人はいつも一緒だしなぁ。」
やっぱ僕って、ケイトとミーナの3点セットなんだなぁ…。
「ところで、そのTCGは、アームドギアか?」
「え?なんで知ってるの?」
アームドギアとは、この火星都市で流行っているカードゲームである。
ほかの天体都市にはない、たまにマーズグランプリが行われている。
コウタは、グランプリに参加し、惜しくも二位となった。
「私もやってるんだよ、騎士属性デッキを組んでる。」
「騎士かぁ…DPの高いやつ多くて敵に回すとなかなか進まないんだよなぁ…」
「そんなことを言うとは、魔術属性以外のを使ってるな?」
「あ~戦士と魔術の混同デッキ、戦士カードばっかり使ってるけど――」
それから話が激しくなっていって、終いには昼休み中語ってしまい、TCGオフに参加させてくれとも…生徒会長の意外な顔が見れた。
…でも、僕に用事って…なんであんなこと聞いてきたんだろう。
今やりたいことは…ヒズミと、一回アームドギアで対戦してみたいなぁ。