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血染めの月光軌 -BLOOD ABYSS-  作者: 如月 蒼
第一章 創造祭編
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#008 光剣

 創造術(クリエイト)は、決して万能ではない。


 例え優秀な血筋に生まれても、創造術を使いこなすのに努力は必要で、それは一般人が想像も出来ない程に血の滲むものだ。


 創造術は、神様からの贈り物。けれど、神は決して甘くない。

 少しでも使い方を誤れば、創造術は術者を死に追い込む事だってある。


 人間を創造する事は創造術師(クリエイター)の禁忌。

 その理由は、人の命を人が創るという事が神への冒涜だから、という事もある。確かに、創造術宗教団体は人命創造は人間のすべき事ではないと定義している。

 しかし、創造術医学の方面に詳しいものならば、知っているだろう。人が人の命を弄ぶ、それは神への冒涜だ――それがただの宗教的な表の理由で、人命創造が禁忌となっている(ほんとう)の理由は、それが成功する訳がなく、今まで禁忌を冒してきた創造術師達が例外無く全員死んでいるからだ。


 創造術で創った物、つまり創造物は、一度創造したらずっと留まり続けている訳ではない。世界に実体化している時間は人それぞれで実力にも関わってくるが、大体が五分も経たず消失(バニッシュ)してしまう。

 しかしそれは創造物を放って置いた場合で、創造術師が定期的に融合体を送れば創造物は実体化を維持出来る。

 だからと言って、融合体を送り続ける事は容易な事ではない。エナジーが消費され続けるのは勿論のこと、星の光を取り込むのだって体力と集中する為の精神力が必要なのである。

 創造目的の最初の構築(コントラクション)よりは創造物維持の為の融合体の方が少なくて済むのだが、無理に維持しようとすれば、エナジーの消費速度より早くエナジーを回復出来る生命力を持っているというあり得ない異能がない限り、死、という可能性もある。実際、それで命を落とす創造術師は毎年何十人といるのだ。


 だから、もし人間を創造出来たとしても、その存在を維持し続ける事は不可能だ。


 そして例外無く、禁忌を冒した者は構築が終わる前にエナジーを暴走させて死に至る。一瞬でも人間の命が人間に創られるという事はない。


 創造術には制限時間があり、創ることの不可能なものも存在する。


 創造術が万能ではない理由はこのような事情からだが、他にも色々制約がある。



 ――創造術師は創造術に頼り過ぎてはいけない。



 そう言ったのは、白銀の輝きを纏う最強の創造術師だった。



      ◆



 編入試験が終わった後、レゼル、セレン、ミーファ、晴牙、ノイエラ、ミーナ、ルイサの七人は寮のロビーにいた。


 壁に掛かる時計は既に十五分程今日に突入している。しかし眠たそうにしているのはセレン一人だけだ。


 ロビーにある応接用だと思われるソファに座って、レゼルとセレン以外は今は晴牙が持っている剣を興味津々に見詰めている。

 それは、レゼルが実技試験で男子生徒を気絶させた剣だった。実技棟からずっと、レゼルはそれを維持し続けている。手元を離れた創造物に融合体を供給するのはそれなりに高度な事なのだが、ここにはそれを驚くのはノイエラくらいしかいない。彼女にしても、レゼルの実力は見ているからそれ程驚きはしなかった。


 青く透き通る刀身は五十センチ程。柄の部分は完全な黒色で、装飾は一切無く、ただ握る為だけにあるような無骨さがあった。


 ふと、左隣に座っているミーファがレゼルを上目遣いで見詰めてきた。

 レゼルの髪と瞳は、今も銀髪に碧眼である。


「……何で、変わったの?」


 ミーファが独り言の様に、主語の抜けた言葉を呟いた。

 しかし、レゼルは答えなければならない雰囲気を感じ取った。剣を見ていた者達も、レゼルに視線を移してきたからだ。


「ああ、これは、創造術を使うと色が変わるんだ。理由は分からないけど」

「創造術を使うと?」


 レゼルとテーブルを挟んで向かいに座るミーナが首を傾げる。


「はい。例えば……」


 レゼルは右斜め向かい、つまりミーナの隣に座る晴牙に目を向けた。

 正確には、彼が持つ剣に目を向けた。

 一瞬で、その剣を構築していた融合体の二つの成分が引き離れる様をイメージする。

 すると、晴牙の腕の中にあった剣は、刀身と同じ色の光の粒子をぱっと散らして消えた。


 融合体の供給を止める事で創造物は薄れていくように消えていくが、今レゼルがやったように、一瞬で意図的に消す事も出来る。これが消失(バニッシュ)する、という行為だ。


 そして、レゼルには変化があった。


「あっ……」


 ミーファが小さな声を上げた。セレン以外の者は等しく、まじまじとレゼルを見詰めている。

 レゼルの髪と瞳の色は灰色と漆黒に戻っていた。


「ふむ……よく分からないが、興味深いな」


 レゼルの左斜め向かいにいるルイサが顎に指を当てて考え込む。


「やっぱり……その、《(クラウド)》……の、髪と瞳ですよね……」


 ミーファを挟んで、少し戸惑ったような声が聞こえてくる。ノイエラだ(彼女のレゼルへの自己紹介は既に終わっている)。


《雲》、という名称は《雲》本人達にとって立派な蔑称だ。だから口調がつっかえつっかえになったのだろうが、今の状況からしてその言葉を使うしかなかったのだろう。

 そしてその証拠に、


「本当にレゼル君て《雲》なの?」


 と、全く遠慮などせずにストレートに訊いてくる学院長(ミーナ)がいる。


 しかし、別にレゼルが気分を害す事はなかった。

《雲》と呼ばれるのにも蔑まれるのにも慣れている。そして現実自分は《雲》という存在なのだから、それを否定は出来ないしする気もない。


「はい、俺は正真正銘の《雲》ですよ」


 だから、レゼルはあっさりと頷いた。


「……創造術が使えるのにか?」

「《雲》は創造術が使えないと誰が決めた?」


 晴牙の質問に質問で返す。晴牙は、ポカンとした表情になった。


「それは……いや、創造術が使えないから《雲》と呼ばれる事になったんだ。誰かが決めた訳じゃない」


 ルイサが答える。

 レゼルは口調を敬語にして、言葉を続ける。


「はい。ですから、創造術が使えるという面から見ると俺は《雲》ではないのでしょう。しかし、容姿の面から見ると俺は《雲》なんです」

「……えっと、つまり?」


 ミーファが困惑顔で首を傾げる。その仕草が、やはり彼女とミーナは親子なのだと思わせた。


「普段は《雲》だけど、創造術師の時は《雲》でなくなる、という事」


 レゼルは簡潔に言った。


「創造術師の時は創造術が使えてるんだから、それは当たり前だと思うんですが……」


 ノイエラの遠慮がちな指摘に、レゼルは思わず苦笑を漏らした。


「そう、なんだよな。……悪い、俺も自分の事がよく分かってないんだ。でも、確実に俺は《雲》だって、感覚が言ってる。生まれたときから、俺は確実に《雲》だよ」


 しん、と寮のロビーに静寂が漂った。

 しかし、それはすぐにミーナによって破られた。


「まぁ、君が《雲》なのかどうかはもういいよ。さっきの剣だけど、試験の時の構築(コントラクション)消失(バニッシュ)の速度が随分違うね?」

「え? ……あ、そういえば」


 ノイエラが呟いた。

 他の者は全員ミーナの言った事に気付いていたのか、表情の変化などは無い。


「情けない事だけど、構築は何時したのか、私も分からなかった。でも、消失スピードは普通の速さだったよね」


 ミーナは言いながら、心底不可解そうに眉を寄せる。


 確かに彼女の言う通り、一つの創造物で構築と消失のスピードが全く違うというのは、あまり聞かない事だろう。そもそもが、その二つのスピードは、創造術師の実力によって左右されるものなのだから。


「まさか君、構築は得意だけど消失は苦手とか? いえ、さっき剣を消失させたのを見てた限り、苦手と表現するのは適切じゃないね。消失スピードもアマチュアの平均を大幅に上回ってたし、レゼル君、本気じゃなかったし」


 何だか少し話がずれてきている気がしないでもないな、とレゼルは思った。


 まだ「でも、構築に対して桁違いに簡単な消失が苦手な創造術師っているの?」とか「それはまぁ、世界に一人……いや五人? 人数なんてどうでも良いよ、とにかく世界を探せばそういう創造術師もいるだろうけど」などと呟いているミーナの言葉を止めたのはルイサだった。


「ミーナ、コイツが消失が苦手、という事はない」

「何で?」


 ミーナが非常に子供っぽい口調で訊ねる。

 さっきから、というか初めて見たその時から、学院長の性格にはちょっと問題があるのではないか、とレゼルは感じていた。ミーファには悪いけれど、この親にしてこの子あり、とは天地が引っくり返っても肯定出来ない。

 ――「猫」を被っているという事を多分わざとバレバレにしている所が、特に。


「実は私は、実技試験の前に少しだけだがレゼル君の実力を見ている。それで分かるが、彼は消失を苦手になどしていないよ。さっきの消失のときは試験でも何でもないんだから、手を抜いたんだろう。……そうすると、構築が異常に速かったのが疑問だが」


 ルイサは淡々と言った後、首を捻る。

 レゼルは控えめに笑って、種明かしをしても良いか、と考えた。


「エネディス先生の言う通り、俺は消失が苦手とかいう訳ではありませんよ。まぁ、消失は、もっと早くしようと思えば出来るのは事実ですけど……」


 別に戦闘中や試験中ではないのだから、真剣にやる人なんていない。消失は失敗する事が少ないし、失敗しても創造物が消失しなかったりするだけで、身体に影響を与える事はない。


 ふいに、右肩に小さな重みが乗った。ちら、と視線を向けるとセレンが寄っ掛かってきて安らかな寝息を立てている。眠気が限界を突破したらしい。


 まるで子猫のような可愛らしい寝顔にレゼルは口元を綻ばせた。

 彼の隣で、彼の表情を見て不機嫌そうな顔をする少女がいる事にも、全く気付かないまま。


 だが、前に視線を戻したレゼルはルイサのニヤけた表情には気付いた。今となっては遅いが、セレンを彼女の補佐役にしてしまったのはかなりの判断ミス、としか言いようが無い。

 ルイサの浮かべた笑顔(?)は、レゼルの微笑ましい笑顔とは方向性が全く違うもので、レゼルは危機感を抑えきれなかった。このレズ版ペドフィリアめ、という下品な言葉が頭の中を過ぎる。


「あの剣はですね」


 ちょっと不意を突いてやろう、とレゼルはニコニコと笑いながら(但し、目は笑っていない)、ルイサに右拳を突き付けた。


 セレンに釘付けだったルイサはぎょっとして水色眼鏡の奥の瞳を見開いた。


 しかし、流石は学院教師の創造術師。すぐに立ち直り、レゼルの拳が顔にめり込む前に『物』の創造を行使。彼女の手に陽炎(かげろう)のような空気の揺らぎが生まれ、それが小型拳銃の形をとっていく。


 ――が、レゼルの拳はルイサの顔に触れるどころか、彼女の顔から二十センチ程も距離がある所でピタッと止まった。

 しかし、ルイサは拳銃の創造を断念し、掌の上の融合体を霧散させた。


「この剣、〔光剣(ライトセーバー)〕は、構築スピードに特化した創造武器なんですよ」


 ルイサの顔と、レゼルの拳。その間の距離、二十センチを埋めるのは、実技試験でレゼルが創造した青く透き通った剣だった。

 但し、刀身はかなり短めになっている。


 鼻先に迫る刃に、ルイサは創造術を諦めたのだった。実技試験では男子生徒を気絶にしか追い込まなかったが、この剣には殺傷力があるとルイサは一目見た時から分かっていた。だから、ミーナは男子生徒が倒れた時に一瞬だったが殺害を疑ったのだ。


「構築スピードに特化した……?」


 訝し気な、けれど驚きは完全に消えたルイサの口調。

 ルイサはレゼルの髪と瞳が銀色と青色に変わっているのを確認すると共に、彼の表情も読み取っていた。

 彼の表情には、一欠片も殺意がない。目の笑っていない笑顔を浮かべてはいるものの、それは何処か演技チックだった。


 レゼルを観察する目付きになったルイサ、無邪気な子供っぽい表情で愉しそうに笑うミーナ。ミーナは童顔という訳では決してないので、その表情には少しだけギャップがあった。といっても、あくまで少しだけ、なのだが。


 そして、一様に驚きを表しているミーファ、晴牙、ノイエラ。

 彼らを眺め、レゼルは〔光剣〕をルイサの眼前から外した。


「君は本当に面白いね。奇襲、プラス、ルーちゃんが美少女の寝顔に気を取られていたといっても、《(バイオレット)》に勝ってしまうなんて」


 ミーナが心底上機嫌な様子で言った。

 ルーちゃん、とはルイサの渾名(あだな)だろう。クール美人なルイサには果てしなく似合わないが、ミーナが口にするだけなら果てしなく似合う。


 そして《菫》とは、ルイサの二つ名、《菫の創造術師(バイオレット・クリエイター)》の略称だ。


「いや、ミーナ、私は負けてなどいないぞ。確かに『物』の創造は諦めざるを得なかったが、あそこからどうにでも反撃に転じる事は出来――」

「あそこから、ならね。それはレゼル君が剣を止めてくれたから、だよ」


 ルイサの反論をミーナは容赦なくぶった切って捨てた。


「本当の実戦なら、ルーちゃんが『物』の創造をしようとする前に首が飛んでたね」

「じ、実戦ならば気を抜いたりはしない」

「今は、レゼル君だけが実戦の気分だった場合、って話をしてるんだよ」


 言い合う二人を見ていると、彼女達は学院でも仲が良いのかもしれない、とレゼルに思わせた。


「お母さ……じゃない、学院長。それに、エネディス先生。今はレゼル君の話を聞きましょう。――レゼル君、その剣が構築スピードに特化してるって、どういう事?」


 流石は一年代表、というべきか、ミーファが生徒の中で逸早(いちはや)く立ち直った。


 レゼルは横で眠る小柄な少女を起こしていない事を確かめると、右手に握っていた〔光剣〕をテーブルの上に置いた。消えてしまわないように、レゼルは融合体を常に剣に送り込んでいる。


「構築スピードに特化している、っていうのは、理屈は簡単だ。まず、この剣の刀身は何でできてる?」

「何で、って……」


 レゼルの質問に、先程まで〔光剣〕を興味深そうに眺めていた晴牙が考え込む。


「……見る限り、光、というか、レーザー光が剣の形になったみたいな」

「ああ、正解だ、晴牙。この剣――〔光剣〕は、刀身が光でできてる。光粒子の圧縮体、と言っても良い」

「……成程」


 ぼそり、と低い声でミーナが呟く。どうやら彼女は剣の性質が分かったようだ。

 しかし、レゼルは無視して説明を続ける。


「じゃあ、刀身の光は何の光だと思う?」

「それは一つしか無いだろう。星の光だ。エナジーと同調(シンクロ)させ、創造物の元となる融合体になる、星の光」


 即答するルイサ。

 だが途中で彼女も解答に辿り着いたのか、ハッと目を見開いた。


「はい、そうです。刀身は融合体の中にある光で構成されています――まぁ、光だけというより融合体そのもの、ですね。つまり、普通の創造物の構築なら融合体を外に引っ張り出してから実体を持たせないといけないのに、〔光剣〕は刀身の部分に実体を持たせなくて良いんです」


 ルイサからの発言があった事で敬語になる。

 レゼルはテーブルの上の青く輝き透き通る刀身を持った剣を見詰め、更に言葉を紡いだ。


「柄の部分は握る為に実体を持たせる――(さわ)れるようにしないといけませんが、刀身は融合体を圧縮して剣の形を(かたど)るだけで良い。これで、構築工程を大幅に省略する事が出来ます。勿論、剣の性能を少しも劣らせずに」

「……あ、そっか。刀身は融合体そのものだから、普通の剣を創造するように鉄や合金の成分を創り出す必要が無いのね」


 納得したわ、と付け足して頷くミーファ。

 晴牙やノイエラも、疑問が解消された、といったような顔だ。


「……で、これは……」


 レゼルの囁くように小さな声。

 彼は〔光剣〕を再び手にすると、(おもむろ)に腕を上に上げていき――


「――っ!?」

「きゃ……!?」


 ――自分の首に、〔光剣〕の青く輝き透き通る刀身を突き刺した。

 ブッスリ、という非現実的な擬音が聞こえてきそうな程、深く。


 ミーナとルイサは平然としているが、他の三人はぎょっとしていた。ノイエラに至っては縁無し眼鏡の奥でぎゅうっと目を瞑っている。


「……えと、そんなに驚くなよ。俺なら大丈夫だから」

「そんな事言ったってお前、剣に首が刺さって……」

「晴牙、落ち着け。逆だ。――それに、言っただろ? この剣の刀身は融合体なんだ。それも、俺の融合体だ」

「「「……あ」」」


 晴牙だけじゃなく、ミーファやノイエラも声を漏らした。

 彼らは青い光の刀身に貫かれたレゼルの首を見る。血は一滴も流れていないし、勿論彼の体内に影響を与えている事もない。


「もともと俺の身体の中にあった融合体が俺の身体の中に入っただけなんだ。ダメージを受ける訳ないだろ?」


 レゼルは〔光剣〕を自身の首から引き抜きながら、そう言って笑った。

 その光景を見て、ミーファが、


「で、でも、心臓に悪いわ。もう止めて欲しいわね」


 本当に安堵したように胸を押さえる。


「そうですね……」


 ノイエラも苦笑を浮かべている。

 少し唐突過ぎたかと、そんな少女達にレゼルは謝る事しか出来ない。


「あの、レゼルさん」

「ん?」


 ノイエラが肩までの髪を揺らしてミーファ越しに視線を向けてきた。


「じゃあ、実技試験で男子生徒の先輩が倒れたのは……」

「ああ、それか。それも簡単だよ。俺の融合体をあの先輩のエナジー脈に流し込んだだけだ」


 他人のエナジーと自分のエナジーは、性質の違いによって反発する。他人のエナジーを自分のエナジー脈に流し込まれようものなら、エナジーは反発のために乱されてしまう。

 レゼルが行ったのは、勿論、エナジーが暴走するという程の量ではない。が、それはつまり、流し込む融合体の量や性質を調整すれば人を殺める事も十分可能である、という事に他ならない。

 この、自分の融合体を相手のエナジー脈に流し込む、という技術は刀身が融合体そのものの〔光剣〕だからこそのものである。


 しかし、この〔光剣〕にも弱点がある。

 まず、維持する為の融合体が、他の同じサイズの創造剣と比べて倍程も多い。それは、鉄や合金などの成分に構築する普通の創造剣に対して、刀身が融合体なままの〔光剣〕は、その融合体を圧縮して剣の形に抑え込むのに少々多めの融合体が必要になるからである。

 それ故に集中力や体力も欠かせない。

 だからレゼルは〔光剣〕をあまり創造したままにして置かない。役目が終わったらすぐに消失させる。

 次に、『物』は壊せない事。創造術で創った物なら融合体を流し込むという方法で壊せるが、他の物は無理だ。〔光剣〕は刀身がすり抜けるから、攻撃手段が融合体を流し込むという一つしか無いのである。エナジー脈の無い物に使ったって効果は一切無い。

 三つ目に、融合体を流し込む作業は思ったよりも難しい。特に、相手のエナジー脈にピンポイントで自分のエナジーを流し込み、暴走させないよう量を抑える事が。


 融合体は取り込む星の光の量・性質によってもその性質が変わるが、エナジーのそれを変える事でも同じ事が可能だ。

 しかし、そのエナジーによる融合体の性質改変・調整は一流の創造術師でも難しい。

 融合体としてのエナジー消費がばかにならない〔光剣〕を軽々と維持し続けてしまうレゼルは、やはり実力があると言わざるを得ないだろう。ただ、〔光剣〕のエナジー消費が多い事は皆知らないのでこの事は誰も認識出来ていない。


「融合体を流し込んでエナジー脈を乱れさせる、ですか。凄いですね」


 ノイエラが感嘆の声を上げた。


「使い方によって危険度がかなり左右される創造武器だな、〔光剣〕は」


 眼鏡の位置を直しながら、ルイサが言う。


「そうですね。でも、創造術師との戦闘はこれが一番便利なので」


 レゼルは剣を胸の前に掲げた。

 それを構成している融合体の二つの成分を分離させるイメージを考える。ぱっ、と剣は一瞬で消え失せた。

 彼の銀髪碧眼が、《雲》の象徴――否、忌むべき特徴である灰色と漆黒に変わる。


「……それと、念の為聞きますが、実技試験の相手の先輩は大丈夫ですか?」

「それは問題無いよぅ、レゼル君。ちゃんと保健室に運んだし、ただ意識を失ってるだけ」


 答えたのはミーナだった。彼女が、〔光剣〕に殺傷力がある事を知っているからだろう。


「……明日には、何時も通り授業に出られるよ」

「……」

「……レゼル君?」

「いえ、そうですか。それなら良かったです」


 学院長にニコリと笑い掛ける。


 ――流石、学院長とは名ばかりではない。

 彼女は学院の中の事は全てを把握している。だから、当然のように気付いている。


 ちょっとだけ動きづらくなるな、とレゼルは頭の片隅でどうでも良い事のように考え、隣で可愛らしい寝顔を晒す緋色の髪の少女――セレンを見て、表情を(ゆる)ませた。


 ミーファが小さく頬を膨らませ、彼女の様子――というか気持ちを既に勘付いている晴牙、ノイエラ、ミーナ、ルイサは四人揃って呆れた顔を浮かべた。

 勿論(?)、レゼルは一切気付かない。

 読んで下さりありがとうございます。

 説明、分かりづらければ遠慮なく仰って下さい(>_<;)

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