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血染めの月光軌 -BLOOD ABYSS-  作者: 如月 蒼
第一章 創造祭編
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#037 凸凹

 レゼルが女性向けの洋服店で数多の視線に晒されていた頃から、時間は少々巻き戻る。


「レゼル君、今日放課後空いてる?」


 A組の教室で和風喫茶のメニューを試食していたレゼルは、ミーファにそう声を掛けられた。

 彼の席の前には女子生徒が二人いて、少し緊張した面持ちでレゼルを見詰めている。


 昨日の実技授業の時、ノイエラと一緒にいた凸凹(でこぼこ)コンビである。背の高い女子はサラ・ダリア、背の低い女子は水蘭(みらん)・G・イヴマリーだ。

 彼女達の和風喫茶での仕事は厨房仕事らしく、家庭科室で作った試作品をレゼルに味見させているのだった。


 レゼルは最初、何故彼女達が自分を味見役にするのか分からなかった。もしや毒でも盛られたのか、と中々に失礼な事も考えたが、二人の表情がそんな事は無いと語っていた。

 二人共、レゼルに話し掛けて来た時は今よりもかなり緊張していて、上手く呂律(ろれつ)が回らない状態だったのである。これは料理に一服盛った人間の顔では無いと思ったレゼルが試食する事を了承すると、二人は安心したのか胸を撫で下ろし、サラに至っては倒れ込みそうになったのだ。


 心境の変化なのか何なのかは知らないが、粘つくような視線を投げてくる生徒などよりは、こうして一人のクラスメイトとして接してくれるようになった二人は有難い。そもそもが、《(クラウド)》に忌避感を持たないミーファ達の方が異常なのだから、二人が最初はレゼルを避けていたとしてもそれは責めるべき事では無いのだ。


「放課後? 特に何も無いが」


 レゼルが抹茶ケーキを嚥下(えんか)し終えてからミーファの質問に答えると、彼女は安心したように笑った。


「良かった。じゃあ、空けて置いてくれるかしら」

「ああ、分かった」


 レゼルは頷いて、放課後に何かあるのかと聞こうとしたが、その前に水蘭がミーファに話し掛けた。


「ミーちゃんも良かったら食べて。試作品の抹茶ケーキと杏仁豆腐(あんにんどうふ)


 ミーちゃん、という呼び名はミーナと区別が付かなくなるとレゼルはどうでも良い事を思った。

 ミーファは女の子らしく、レゼルの机の上に乗った二つのデザートを見て目を輝かせる。


「二人が作ったの? 美味しそうね」

「ありがとうございます、代表。抹茶ケーキの方は糖分多めにしてありますよ」


 サラが苦笑しながら言う。

 どうやらミーファの異常な(?)甘党はクラスの皆にも周知の事実のようだった。


「だからか……ちょっと甘いかなと思ったけど、凄い美味しいよ」

「本当ですか、ソレイユさん」


 糖分多めといっても抹茶ケーキなので、甘さは常識の範囲内だ。レゼルは特に甘いものが苦手という訳でも無いので、素直に美味しいと思った。

 それに二人の料理の腕は、高級料理店の料理長かと言いたくなるセレンには流石に劣るが、中々たいしたものである。見た目も良いし、味も悪くない――というより美味しい。


 サラは恥ずかしそうに、だが満更でも無さそうに微笑んだ。


「実はこの抹茶ケーキ、自信作だったりします」

「サラ、私も食べて良い?」


 何時の間にか、ミーファがフォークを構えて抹茶ケーキを見詰めていた。


「ええ、勿論どうぞ――っと、でもこちらを」


 彼女はレゼルの前にあったケーキではなく、何処からか新しい抹茶ケーキを取り出し、ミーファに渡した。


「え? サラ、私は別にこっちのでも良いわよ」


 ミーファが、レゼルの食べ掛けのケーキを指差す。

 サラは上品に笑って、何故か少し淡泊な声で言った。


「何を仰っているのか分かりませんよ、代表。流石に間接キスを狙うというのはどうかと」

「な、何を言ってるのよ!? 私は別に、狙ってなんか――」

「ミーちゃん、顔赤いよ? 大丈夫?」

「……ッ、だ、大丈夫よ水蘭。ちょっと寒さにやられて軽く風邪を引いただけよ」

「代表って、リレイズに生まれた時から住んでますよね? 寒さには慣れている筈では?」

「……」


 ミーファが俯いて黙り込んでしまう。

 サラはそんな彼女を見ながら楽しそうに微かな笑みを浮かべていた。ミーナが悪魔の笑みならば、小悪魔、という表現が正しい微笑みだ。


「……分かったわよ」


 ミーファはやがて顔を上げ、サラに渡された方のケーキを食べ始めた。


「ん〜、美味しいけど、もうちょっと……いや後200グラムくらいお砂糖を足しても良いんじゃないかしら?」

「じゃあ丁度良いね。これくらいの甘さでいこうか、サーちゃん」

「そうですね、水蘭」

「え? いえ、二人共、私はお砂糖を足した方が良いと――」


 女子三人の話を右から左に聞き流しながら杏仁豆腐をパクついていたレゼルに、ミーファの言葉を無視した水蘭の言葉が掛けられた。


「ソレイユ君、杏仁豆腐の方はどう? 味、大丈夫?」

「ああ。美味しいよ」

「良かった。そんじゃあサーちゃん、また家庭科室にレッツゴー」


 別にお腹が空いていた訳ではないが、そこは男子の胃袋である。抹茶ケーキと杏仁豆腐の空っぽの皿とフォークを回収して、水蘭はサラを引っ張り教室を出ていった。


「水蘭、代表がまだ食べ終わっていないのだけれど――」

「あー、じゃあミーちゃん、後でお皿とフォーク家庭科室に持って来てねー」


 廊下から二人の声が聞こえ、レゼルがミーファに視線を向けると、彼女は至福の表情で抹茶ケーキを頬張っていた。


「……それでミーファ、放課後に何かあるのか?」

「ん? ああ、ひょっとね。ひょうてんかいの、むぐ、ひごひょなんだけど、もぐ、そうぞうひゃいのひょうはいひょうを――」

「ミーファ、まず、食べ終えてから話せ」



「招待状?」


 抹茶ケーキを食べ終わって、レゼルの隣の席――つまり自分の席に座ったミーファに、レゼルは首を捻った。


「ええ。《無限の星影(インスタ)》のね。リレイズの戦闘領域にいる正規創造術師(プロ)達には勿論、今の時期にリレイズに来ているお偉いさん達に招待状を渡すの」


 ミーファは頷いて、そう言った。

 彼女は更に言葉を続ける。


「これは創天会の、その中でもリレイズの領主であるお母さんの娘の私の役目よ」


 今年から四年間はね、そう付け足してミーファは曖昧に笑った。


「正直面倒なんだけど、仕方ないわ。それで、その招待状を今日の放課後に渡すから、レゼル君に付いて来てもらいたいの」

「……それ、学院の外に出るよな? 大丈夫なのか?」


 彼が心配しているのは勿論、自分が《雲》という事である。

 創造術を使って銀髪碧眼になっても、レゼルの情報はリレイズの街全体に広がっている為、すぐに彼が本当は《雲》だとバレてしまうだろう。


「実技試験の時みたいにフードで顔を隠してもらえば大丈夫。何かあったら私がフォローするから。それに創造祭ではどうせ外に出る事になるんだもの、練習だと思えば良いわ」

「……分かった。俺は付いて行けば良いんだよな?」


 ええ、とミーファは頷いて、


「招待状を渡す仕事以外にも、寄らなきゃいけない場所があるからね」

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