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血染めの月光軌 -BLOOD ABYSS-  作者: 如月 蒼
第一章 創造祭編
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#024 編入生の謎

 リレイズ創造学院、第一実技棟。

 一年A組の創造術(クリエイト)禁止の格闘訓練の授業は終わり、そこにいるのは二人だけとなっていた。


 どちらも生徒ではない。

 どちらも教師だった。


 一人は、一年A組の担任教師で《暦星座(トュウェルブ)》。

 もう一人は実技の授業担当教師でリレイズ家の――というよりミーナ専属の執事。

 ルイサ・エネディスと、ジェイク・ギーヅだった。


「まさか、学年で一番の格闘の腕を持つショウノインをあれ程簡単に圧倒してしまうとは……」


 スーツ姿で腕を組むジェイクの声には、驚きと素直な賛辞が含まれていた。


「副代表も入学当初、教官を倒しているが……レゼル君は彼よりも強いようだ。創造術の面ではまだ分からんが」


 ルイサは頻りに頷き、ジェイクの言葉を肯定する。

 彼女はレゼルが正規創造術師(プロ)並みに戦闘が出来る事を引ったくり事件の(おり)に分かっていたが、創造術無しの格闘でもかなり腕が立ち、あの晴牙にまで勝ってしまうとは、些か予想外だった。


 現代の創造術師(クリエイター)は、『能力創造』に頼り過ぎてしまう面がある。それを防ぐ為に創造学院では創造術を用いない格闘訓練を自主的にも行う事を推奨しているが、生徒の中にも結構な人数――特に上級生――が『能力創造』に頼り過ぎてしまう傾向にある。


 だが、レゼル・ソレイユという編入生は、そんな事は全く無いようだ。

 自分の創造術の技術に溺れたりせず、戦う為の本当の根本となる自分の身体を鍛えている。それは教師が称賛すべき事であった。

 昨日の格闘訓練の授業でも、レゼルが教官と模擬試合をして勝った時にルイサは「熟々(つくづく)面白い奴だな」と思ったものだが、今日の授業で晴牙に五勝もしたとあっては、それだけでは済まなかった。


 ルイサもジェイクも、聖箆院晴牙(しょうのいん・はるき)という一年生については、格闘に()いて一目置いている。地道なトレーニングを毎日欠かさない彼の姿は、他の生徒達にも良い影響を与えていると教師陣は全員が感じているだろう。

 ジェイクは先程、学年で一番、と言ったが、ルイサは今の創造学院の全生徒中一番なのではないかと思っていた。いや、ルイサだけではない。恐らくはジェイクも、晴牙の格闘訓練の授業を担当した教師は(みな)、そう思っているのではないだろうか。


 だからこそ、レゼルがそんな晴牙を相手に勝利をもぎ取った――しかも五回も――事実は、ルイサにもジェイクにも衝撃を(もたら)した。そして、生徒達――特に同級生――にも。


「昨日は教官に勝ったと聞いた。……全く、何なんだ、あの編入生は?」


 自分が仕える相手であり上司でもあるミーナに対しての言葉遣いとは全く違うそれでジェイクが眉を(ひそ)めて呟く。

 因みに、ルイサは彼がミーナの執事であり腹心である事を知っていた。


「さぁな。流石は『最強』の弟という所じゃないか?」


 ルイサはニヤリと笑いながらそう言った。


 最強。

 六年前に世界から去った、《暦星座》の一人であり、銀の名を冠した創造術師。


「エネディス、お前はそれを信じているのか?」


 ジェイクは切れ長の目を更に細め、訝しげな顔をしながら訊く。


「ああ、信じている」


 それに対して、ルイサの答えは即答だった。

 一瞬、ジェイクが呆気に取られたように彼女を眺めるが、すぐに我を取り戻した。


「……何故、そう言える?」

「お前は彼が創造術を使った所をまだ見た事が無いだろう?」

「……ああ、まだだが。それが?」

「似ているんだよ、《白銀》にな。そっくりだ」


 ふふっ、とルイサが口元を(ゆる)めて笑う。大人な、優しい女性のような表情に、ジェイクは居心地が悪くなった。――何故だかは、分からなかったが。


「似ているって……彼の髪と瞳は《(クラウド)》の二色じゃないか。似てるも何も無いだろう。――それとも、創造術を使うと銀髪碧眼に変わるという馬鹿げた噂が本当だとでも言うのか?」


 胡散臭そうな顔を向けてくるジェイクに、ルイサはくっくっと笑いながら、大きく頷いて見せた。


「ああ、その馬鹿げた噂は事実だよ。今日の午後に創造術の実技授業があるから彼の創造術を見る事が出来るだろう」

「……」


 ジェイクは黙り込み、眉間に深い皺を刻んだ。


「お前がそこまで言うのなら、本当なのだろう。では、その実技授業で《雲》の創造術とやらを見せてもらおうじゃないか。――と、ソレイユの話はここらで終わりだ」


 真剣な瞳に見詰められ、ルイサは頷いてから壁に寄り掛かった。闘技場と観覧席の段差を作る高さ二メートル程の壁である(勿論、闘技場が下だ)。


「昨日、奥様と共に戦闘区域に行ったんだろう? 首尾は?」


 ルイサは少し間を置いてから、(かぶり)を振ってジェイクの質問に答えた。


「……結果としては、何も分からなかった」

「……そうか。奥様も?」

「ああ、ミーナと私は行動を共にしていたから。……(まさ)しく、百聞は一見に如かずだったよ。NLFエース『ブラッディ』の噂は何度も聞いていたが、予想以上だった。流石に嘘だろうと思うような噂よりも圧倒的な技量を見せてくれた」

「炎の広域創造(ワイド)の事か?」


 再び、ルイサは顔を横に振る。


「それもあるが……」

「《堕天使(だてんし)》を単独で倒した事か? しかし、これは別に、《暦星座》レベルの実力を持つ創造術師なら何とか出来るんじゃないか?」

「簡単に言ってくれるな。そんな事をすれば一週間は身体が言う事を聞かないぞ? っと、まぁ、それもある。だが、一番注目すべきは『スピード』だよ。《堕天使》との戦闘時間の短さだ」

「……一時間、くらいか?」


 ジェイクの的外れもいいところの問いに、ルイサは思わず唇を歪めた。少し自嘲気味のような歪め方だった。

 だが、ジェイクの予想した時間は《堕天使》との戦争時間にしてはかなり短い方だ。一人で戦ってそれなら、(まさ)しく奇跡のようなタイム。


 しかし、


「正解は、五分以下、だ」


 ルイサの答えは、奇跡のタイムを大幅に下回っていた。


「……」


 絶句し、目を見開くジェイク。


「一応言うが、事実だぞ。……それと、今日の朝に協会のリレイズ支部から報告が来た」

「……協会から?」

「ああ。北側戦闘区域の大気検査の報告だ。炎の広域創造なんて環境破壊が目的のような創造術をかましてくれたんだ。検査が入るのは当然だろう?」

「……それで?」


 流石は創造学院の教師兼ミーナの執事というだけはある(「ミーナの」という所が重要である)。ジェイクは早くも落ち着きを取り戻した。


「……結果、北側戦闘区域に大気の異常は全く見られないそうだ。二酸化炭素は正常値、有害な気体も皆無。何故かは、分からない」

「馬鹿な……」


 再び絶句したジェイクに、ルイサもお手上げとばかり肩を竦めた。



 二人は知らない。

 ルイサとジェイクは結局最後までレゼル・ソレイユの話をしていた事を。

 これはもう述べたが、NLFエースが《堕天使》と戦っていた時間は五分以下ではなく――たった一分以下、という事を。

 読んで下さりありがとうございます!

 また短いな……。

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