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血染めの月光軌 -BLOOD ABYSS-  作者: 如月 蒼
第一章 創造祭編
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#001 冬のある日

[第一章 創造祭編・第一部「編入生」 創始]





 世界から朝というものが消えた。

 世界から太陽というものが消えた。

 その代わりに、人間は力を手に入れた。

創造術(クリエイト)》という、神様からの贈り物を。



      ◆



 冬のある日。


 駅のホームに、奇妙な二人組が降り立った。


 体格からして、一人は男。体格からして、というのは、その男がコートのフードを目深に被っていて顔を晒していないからだ。


 もう一人は小柄な少女。こちらは顔を隠したりなどはしていない。

 緋色の髪と瞳を惜し気もなく晒した、可愛いと美しいの中間にいるような少女だ。顔立ちはまだあどけないものだが、雰囲気がどこか神秘的な様相を醸し出していて、美しい、と言っても何ら遜色無いのである。


「やっと着いたな。ずっと揺られていたから腰が痛い」


 男が腰を擦りながら呻くように言った。


「レゼル、年寄り臭いですよ」


 レゼルと呼ばれた男は、緋色の髪の少女に指摘されて腰を擦るのを止めた。


 表情は見えないが、レゼルは今眉をしかめているだろう事が少女には容易に分かった。

 彼に嫌な思いをさせてしまったかもしれない、と思った少女は、慌てフォローした。ただ、慌てた表情は顔には出なかったが。


「でも、汽車に乗るなんてレゼルはかなり久し振りでしょう? 腰が痛くなるのも仕方ないと思います。私に至っては今日が初めてですし、腰が痛くなるというのは嫌という程理解しました。今まではずっと飛空艇でしたし」

「え? セレン、大丈夫か?」

「はい。レゼルが心配する程の事ではありません」


 少女――セレンは、全く抑揚の無い声で言い、レゼルに頷いて見せた。

 彼女は相変わらずの無表情だが、レゼルからしてみればそうでもない。今だって、一見何の感情も浮かべていない様に見えるが、よく見れば頬がほんの少しだけ引き吊っている。どうやら腰の痛みを我慢しているらしい。

 だが、セレンが心配要らないと言うのだから、とレゼルはそこには触れない事にした。


「やっぱ、変な姿勢で寝てたのが悪かったのか? ……最悪だ。大事な試験の日なのに」


 レゼルの口調に少し苦々しさが混じった。


「サーシャさんに知られたら笑われますね」

「そうだな。……いや、笑われる前に『汽車で寝ただと? 貴様、浮わつくにも程があるぞ! 何時なんどきも気を抜くなと言っただろう! 油断大敵!!』とか言われて、ボッコボコにされそうだな」

「ボッコボコ、というよりザックザクじゃないですか? それにしてもレゼル、口真似が上手ですね」


 そんな事を誉められても全然嬉しく無いんだが、と思いながら、レゼルはやっと歩を進め始めた。

 その後ろをセレンがちょこちょこと付いて来る。


 足元は石畳。それなのに、冷えきった空気が充満する駅のホームに響く足音は一人分。

 周りに人影は無い。立ち話をしていた間に他の客はホームから全員出ていった様だ。

 足音は緋色の長髪を持つ少女のものだけ。

 ちょっと背伸びしたくて買った様な大人なデザインのベージュ色のブーツが、カツン、カツン、と音を立てている。

 対して、レゼルの方は足音など皆無だ。見る者が見れば、それだけで、彼がかなり武術に精通している事が分かるだろう。


「……でも、サーシャさんは心配してくれているんですよね」


 セレンは目の前の背中に声を掛けた。先程の話の続きだ。

 だが、背中からは、世界一深いと言われるアリーナ海溝より遥かに深い溜め息が返ってきた。


「心配も行き過ぎればありがた迷惑だ。俺達が学院に入るのを、サーシャさんが反対したから、俺達は入学じゃなくて編入って形になったし」


 今は冬。学院の入学式は春。


「かなり出遅れましたね。しかも、学院は後三週間もすれば冬休みに突入します」

「編入して一ヶ月も経たない内に休みかよ。これもそれも、あの切り裂き魔(サーシャ)のせいだな」


 ホームの出入口をくぐって外に出る。すると、ホームの中の静けさが嘘の様に街の喧騒が聞こえてきた。


 あちこちに灯る街灯の光が、明るく空間を照らしている。この街では、終わる事も途切れる事も無い夜空に輝く星々の光が少し弱く見えた。


 今は別に、時間帯が夜という訳ではない。今の世界に朝というものが無いだけだ。

 昔は、太陽というものが世界に光をもたらしていたらしい。朝が無いのは、太陽が無くなったからだと言われている。

 何時、太陽が無くなったのか、それは誰も知らない。ただ、そういうものが昔あった、というだけで、詳しい歴史は残っていないのだ。

 可笑しな事だが、朝が無くなったというのに『朝御飯』などという言葉は現在も使われている。


 駅前のロータリーには色々な露店が出ばってきている。売っている物は様々だが、全体的に温かい食べ物や飲み物を売る店が多い様だ。季節が変われば売る物の種類も変わるのだろう。


「それにしても寒いな。ディブレイク王国に来たって実感するよ」

「今更ですか? ……でも、寒い、というのは同感します」


 沢山の人々が行き交うロータリーの光景を、心なしか興味深そうな表情で見渡すセレン。

 そんな彼女を微笑ましそうに眺める。


「セレン、寒いなら俺のコートを……」


 セレンの、ワンピースにマフラーだけ、という北の王国には相応しくない格好を危惧して自身の羽織るコートに手を掛けたレゼルだが、その手を目にも留まらぬ速さでセレンが掴んだ。


「駄目です、レゼル。ここはもう、飛空艇の中ではありません」

「……そう、だったな」


 レゼルが手を降ろすと、セレンも掴んでいた手を放した。


「私なら大丈夫です。寒いと感じる事は出来ますが、風邪を引く事は出来な……いえ、無いので」


 少女の言葉に、レゼルは奥歯を噛み締めて、目深く被ったフードの奥から少女の(あか)い瞳を覗き込んだ。

 セレンから見える彼の瞳は、漆黒。何時もならその眼を見て安心するはずなのに、セレンはそれが出来なかった。

 何故なら、彼の瞳が少なからず揺れているようだったから。

 自分は風邪など引かないから大丈夫、そう伝えたかっただけなのに、またやってしまった。セレンはレゼルの漆黒の瞳から逃れる様に俯いた。


 しかし、その直後、わしゃわしゃと頭を不器用な手つきで撫でられた。

 思わず顔を上げれば、そこにはフードの奥に、レゼルの笑顔があった。

 無邪気な、まだあどけなさの残る、男――というより少年の笑顔。しかし、その笑顔にはどこか陰がある。


「お前が俺を気遣ってどうするんだ。悪いのは俺なんだぞ?」

「違います! レゼルは悪くなんてありません」


 セレンは、撫でられて些かくしゃくしゃになってしまった髪を揺らしながら、ぶんぶんと首を左右に振った。

 その仕草が少し大袈裟な気がするが、レゼルに気持ちを伝えたいのならこれくらいするべきだ。


 セレンは知っている。自分の感情が、決して表情に出ない事を。


「私は、レゼルに感謝しています」


 その言葉も強めに言ったのに、多分レゼル以外の人が聞けば、淡々としている、と思うだろう。表情だって、相変わらずの無表情。

 だけど。


「……ありがとな」


 自分は、彼に気持ちが伝わってくれれば、それでいいのだ。

 今度は本当の笑顔になったレゼルを見て、少女はそう思った。

 だが、彼は唐突に焦ったような顔をした。


「……セレン。指定されてる時間って、何時だっけ?」

「えっと、学院の前で4時半です。試験官を務めてくれる人が放課後なら時間が取れるからって」


 何時の間にか、二人の足は止まってしまっている。

 周りの人々が、立ち止まったまま動かない男女を見て、迷惑そうに顔をしかめていた。


「……今、何時?」

「……」

「……いや、セレン。何時かって訊いてるんだけど。腕時計見てくれ」


 セレンの左手首には、シンプルなデザインの腕時計がある。サーシャが無理矢理彼女に持たせたものだ。

 レゼルも腕時計は持っているが、それは右手で無造作に引くトランクの中に突っ込んである。腕に何かを付けるのは嫌いだ。はっきり言って邪魔なのである。

 しかし、セレンは自分の腕時計に目を落とす事もないまま、変化の無い顔で空中を見詰めていた。

 何かあるのか? と彼女の視線を辿れば、


「……あ」


 流石、ディブレイク王国の誇る第二の首都・リレイズの街。このロータリーからは当然とでもいう様に街の時計塔が見えた。

 煉瓦造りの時計塔が示している時間は只今、


「四時二十五分……」

「後、五分……」


 二人は呟きが終わらない内に歩みを再開し、露店などには目もくれずロータリーを抜け出した。


「うわ……」


 思わず、レゼルの口から声が漏れた。


 ロータリーを出て眼前に広がるのは、リレイズの街を半分に割るかの様な大通り(メインストリート)

 左右には様々な店が軒を揃え、出店もある。売り子と客の声がこの街を活気付かせていた。

 だが、レゼルが声を漏らしたのは大通りの様子に気分が浮わついたからではない。

 大通りとその人垣を越えた所にある、白亜の城の様な建物。神殿や王宮と言ってもいいだろう。そんな、厳かな建物が、大通りを挟んでレゼルの前に(そび)えている。


 それを見て、声を漏らした――かと言えばそうなのだが、別に建物の雰囲気に圧倒されたとか感嘆したとかそんな事でではなく、レゼルはただ、


「遠過ぎだろ……」


 厳かな建物――創造術(クリエイト)という技術を行使する者、創造術師(クリエイター)の為の教育機関、リレイズ創造術師育成学院(クリエイターいくせいがくいん)、略称・創造学院(そうぞうがくいん)までの距離がかなりある事に対して、うんざりとした為、声を漏らしたのだった。


 後、五分も無いのに。

 レゼルは右手でフードを押さえ、左手でセレンとはぐれないように手を繋ぎ、人混みの中へ駆け出した。



      ◆



創造術(クリエイト)》。

 それは、神様からの贈り物だとされている。

 それは、物を創造する力。

 ――星の光を、使って。

 創造術が何かは、後々説明していきます。うおおお文才無くてごめんなさい(汗)

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