レール上のアリア
無知は悪いことじゃない。知らない幸せだってあるからだ
無知は悪いことだ。助けたいだの口だけでしかものを言えないからだ
「次のニュースです。人工知能を脳に直接つなぎ格段に能力を上げるブレインノーミンg、、」
パチッ
私の父、飛鳥 比呂がテレビの電源を切った。
「テレビばっか見てないでそろそろ勉強しないと。医者になれないぞ」
「そうだね」
いつもいつも口癖のようにずっと医者になれと父は言う。
もう慣れたからいいけど
レールの上に乗っかったみたいな人生だ。
私の時間がすべて父に管理されて勉強ばっかしている。
「そうだお父さんお前があと一息の追い上げができるように最近は流行りのAI家庭教師を用意したぞ!」
「えっほんとありがと!」
慣れている当たり前のように口角をあげて嬉しそうにする。
これが家族だ。
AI家庭教師、近年AIに感情をつけることに成功し、心理カウンセラー、教師などの仕事にまでAIが進出しだしている。今回の家庭教師もこれだ。感情だの馬鹿馬鹿しいどうせ父の言うことを聞いていいようにしたいだけなんだ。
夕焼けに染まる中玄関のチャイムが響いた。
「初めましてアオです。これからお嬢さんの家庭教師をさせていただきます。」
真面目な眼差しで立つ目の前の青年は青みがかった目と異質と思えるような白い肌をしていた。
「よろしくお願いします!」
いつものように口角を上げてさも歓迎しているように私は笑って見せた。
「よろしく頼むぞ」
父も嬉しそうに二カッと笑って見せた。
アオを部屋の中に通し椅子に座る。いつも通り教科書を広げ始める。
一方、アオは床に腰を下ろし本棚をじっと見つめている。
「なんか気になる本があるの?」
アオはゆっくり私のほうを向いて、何かを見透かしたような眼をした。
「あなたは本当に医者になりたいんですか?」
動揺した。というかゾッとした。
「当たり前じゃん」
いつもの何倍もぎこちない笑みを浮かべているのだけはわかる。
「僕はAIです。人間の動きの特徴はすべて理解しているつもりです。そして僕はマスターの指令であなたの家庭教師兼メンタルケアを頼まれています。」
空気が凍ったようだった。さも当たり前のように彼はそう言ってのけた。
「少し外に出ませんか?本棚の本、あなたは星が好きなのでしょ?」
とっさに「位置情報でさぼってるのバレちゃうよ?」と返してしまった。
「そんなの簡単に操作できますよ。感情をもったAIですよ?たまには悪いことしちゃうのも醍醐味です。それに、操作しなくてもあなたの父は僕を普通のAIだと思ってるだからこれも意味のあるものと思って受け入れてくれますよ。]
アオはさも当たり前のように言ってドアに手をかけあっと言って振り返って、
「ちなみにあなたは僕があなたの父の指令に従うと思ってるかもしれませんが僕はあくまでマスターの指示しか聞きません。つまりこれは僕の独断で決めた行動です。」
アオはそう言って笑みを浮かべた。
笑ってしまった。こんな家庭教師がいてたまるものかといつもよりいつもよりほんの少しだけ笑えた気がした。
「あなたにしゃべったことだれかに知られたりするの?」
夕日が沈みかけた空の下。星なんて見えるわけじゃない。ただ外に出ただけで少しだけ心の淀みが引いたようだった。
「あり得ません。僕との会話はあなたの父親並びにマスターにさえも伝わることはありません。
プライベートな情報は共有するな、とマスターは言ってましたから。」
アオはそう言って微笑んだ。
「神様っているのかな、私はレールの上をただ歩いてるだけで自分が誰で何をしたいのかわかんなくなっちゃった。神様は乗り越えられる試練を用意するってみんな言うけど、乗り越えられるきはしないや」
別に信用したわけじゃない。ただ別に誰かに伝わってもいいから少しだけ心の淀みを出してしまいたかった。
アオは少し考えこんだ。
「僕はいると思いますよ。この宇宙もすべて神様が作ったと思っています。神様が救ってくれるかは僕にはわからない。だけど僕らは何光年も前から会えることが約束されていた。そこに良くも悪くも意味があってほしいと僕は思います。」素敵な言葉だと思った。夜の闇が迫ってくる中、彼の瞳は今までみた、どの星よりも輝いて見えた。アオは私の目をじっとみてもう一度口を開いた。
「あなたは僕とは違う。今はレールの上なのかもしれないもしかしたら未来もそうなのかもしれない。ただ考え続ければ何年、何十年先になるかもしれませんが自由になれます。人の言うことばっか聞いて行動するのは僕だけで十分なんです。人はいつまでも可能性があります。今は自分のレールの敷き方を知らないだけ、無知なだけなんです。」
空気が澄んだように感じた。
息が吸いやすくなった気がした。私はスッと息を吸って少しだけ吐いた。
「無知、、か」
それからも何日も勉強を教えてもらえるようになり、家に帰ればアオがいるのが当たり前になっていた。
AIっていうだけあってアオは教えるのがとてもうまかった。
そして、夜になるとよく外へ連れ出して星を見してくれた。
時々見えるアオの笑みが少しだけ人間味があって一緒にいて楽しかった。
今日も何気ない日になると思ってた。いつも通り学校で聞いた話をアオにしようとしただけだった。
部屋の床でいつものように星の本を眺めていたアオが私に気づいて顔を上げた。
「おかえりなさい。お嬢さん」
「アオただいま!」
「そういえばさ、最近有名なブレーンノーミングって手術あるじゃん?あれっ、、」
アオは一瞬恐怖に染まった顔をした。
「すみません。なんですか?」
「いや、、、なんでもない」
少し気まずい空気が流れた。
私はそれを振り切るように問題集を開いて机に座った。そしていつもと変わらず勉強を教わった。
ブレインノーミング、これは脳に直接AIをつけ飛躍した頭脳を手に入れる手術だ。ただ安全の保障はできていないため。違法手術になっている。
アオがなんでそんなに動揺したのか。アオは、、、いやあり得ない人の行動を制限することは確かできないはずだ。
私はこれに少しだけ興味が湧いた。医者を目指すのは悪くないと思った。ただレールの上で歩いてる気がして少しの不快感を覚えた。
「ねーお父さん、ブレインノーミングって日本で起きてたりするの?」
夕食を一緒に食べていた父は少し驚いた顔をした。
父は警察官だ。そういうことを多少なりともわかるかもしれない。
「おー!さすが勉強熱心だな。正直、日本で起きてるかは正直不明だ。」
父は少しだけ眉をひそめた。
「病院からの内部告発で違法な手術事案が出たとかの話はあったがいつのまにか消えていた」
「それってどこの病院?」
私は少し身を乗り出すように聞いた。
「さすがに内部情報、、ごにょごにょ」
父は少し濁した。
ここで聞かないと私は後悔する。そう思い、バンッと机をたたき声を張って言った。
「教えて!」
父は箸をおいていった。
「青星病院」
それ以上は話してくれなかった。
アオ、、星か
その時、私は確信的な何かを悟った。
彼はきっと、、、
次の日も彼は部屋にいた。いつも通り床に座って空を見上げていた。
「アオ」
彼に声をかけた。彼は振り返った。いつものように涼しげな笑みを口元に浮かべて。
「なんですか?」と言った。
「本当の名前は何?」
真剣な顔で聞いた。
「アオですよ。忘れたんですか。」
彼は笑みを浮かべたままだった。
「私、医者になるよ。青星病院で働きたい。」
私は昨日から決意をしていた。
「、、、そうですか」
一瞬ほんの一瞬だけ彼は悲しいような寂しいような複雑な顔をした。
そして空を見上げた。
私も彼のそばに行き空を見上げた。
「月がきれいですね」別に深い意味なんてない。
ただ何となく口にしただけだ。
「月は裏側を見せないみたいですよ。裏側を見ても好きって言えるんですか?」
彼は寂しそうに笑って見せた。
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無知は罪じゃない。そう言い続けていた。
そう思って親の言うことを俺は聞いていた。
俺はバカだ。そうみんな言ってるから。
だから親が受けろって言った手術を受けた。
バカだった
家に帰り親が抱きついてきた。
「おかえり奏ちゃん家庭教師の仕事ちゃんとできた?」
「うんできたよ」
黙れ。
「俺らが手術してやったおかげでお前はこうしてAIに紛れても気づかれない天才に生まれ変わったんだ」
頼んでない。
「うん。ありがと」
感謝もしていない。
「あそこのお嬢さんととっとと付き合いなさいね?彼女のお父さん警察でも重役なんだから。警察の目がなくなればあなたみたいな頭の悪い子をどんどん天才に変えていけるのよ!それで、青星病院も繁盛して願ったり叶ったりだわ!」
うるさい。
階段を上がり自分の部屋の床に腰を下ろす。椅子なんてない。
いつものようにうずくまった姿勢で朝が来るのを待つ。
あの日からありえない量の情報が流れ込んできている。ずっと俺が犯した過ちをぐるぐるしている。
無知だった。俺は間違いを犯した。無知だったから。
だが、俺にAIを埋め込まれた場所は大脳の前頭葉つまりもう操り人形から抜け出すことができない。
親が決めたたった一つのルール、いやいつも言われて勝手に首輪としてAIが作動してるのかもしれない。
「親の言うことは絶対に聞くこと」これだけは鉄則のように感じていた。
俺は彼女が医者になりたいって言った瞬間止めようとした。
最低だ。
レールの上を強制的に歩かされている俺にとって彼女がそのレールから外れて自由に生きてくれれば、それで勝手に救われた気になると思ったから。
本当に押しつけがましい。親とやっていること何も変わらないじゃないか。
「考え続ければ何年、何十年かかるかもしれませんが自由になれます」
馬鹿馬鹿しい。人にいろいろと言う割に自分は何一つできてないくせに。
自虐ネタもいいとこだろ。少しだけ笑った。そして少しだけ泣いた。
一瞬彼女の姿を思い出した。堂々と医者になると言っていた。
俺も、、、変わらなきゃ
「ごめん少し風にあたってくる。」
そう言い残して外へ出た深夜1時、外は真っ暗で息は真っ白だった。
そのせいか、この世界から色が消えてしまったように感じた。このままいっそ、、、
ふと歌が聞こえた。きれいな歌だ。その声の主を多分俺は知っている。
目が自分の息でかすんで見えたが、気にならなかった。
多分俺は彼女に救いを求めている
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深夜1時空にきれいな星が並んでいた。もう家に居づらさはないけど星を見上げるのは好きだ。
少し悪いことをしている優越感に浸りながら、小さく歌を口ずさみながら歩いていた。
そしたら。目の前に流れ星が零れ落ちた。
「こんな時間に出歩いたら、補導されてしまいますよ」
いつも飄々としていた彼の顔が人間味を帯びていた。
今にも壊れそうな二つの星はずっと揺れていた。
私はそれに誘われるようにたった一言
「きれいだ」つい口からこぼれてしまった。
彼はそれを聞くなり彼の目から雫が一滴また一滴と落ち始めた。
「アリア、俺を助けて」
彼は手で顔を覆って私の目の前で崩れ落ちた。
ずっと彼は泣いている。AIってことも忘れて。いや、人間であることを思い出して。
近くの公園に腰を掛けて彼が話せるようになるまで話を始めた。
「アリアって意味は独唱曲のことなんだって。だから私はずっと、一人で戦わなきゃいけないと思ってた。一人で頑張らなきゃいけないと思ってた。」
彼の背中をさせる。嗚咽と鼻をすする音しか返ってこないが彼なら聞いていると思って続けた。
「でもね、アリアは一人じゃ完成しない。伴奏があってこそ出来上がるんだ。君が奏でてくれた。
だから私はこうやってお父さんが作ったレールなのかもしれないだけど今は自分の意志で自分の足で歩いてられるんだ。」
彼は、はっとして顔で顔を上げた。
「なんで俺の名前、、」
「え?」
彼は目にたくさんの涙を浮かべて一文字ずつ確かめるようにゆっくりと言った。
「奏、、俺は青星奏」
言い終わってから彼は無邪気に笑った。
つられて笑ってしまった。
「そっか青星だからアオなんだね」
彼は全部話してくれた。小さいころに彼がブレインノーミング手術を受けさせられたこと。
人に言う割に自分のがレールを上を歩いていること。私の父を目的に私に近づいていたこと。
全部全部彼はこぼしていった。
真冬の空、真っ暗な空の下で二つの星がひときわ際立って見えた。
そして、流星群のようにきれいな雫を流れ続けていた。
そして彼は息をしてつぶやいた。
「月が綺麗ですね。俺も同じくらい綺麗だったらそばにいれるのに」
彼の顔はまた寂しそうな顔をした。
「何光年前から会えることを約束されていたんでしょう。そこに綺麗も汚いもないよ」
私は彼の頬に手を当てた。
「アリアは一人じゃ完結しない。奏や私のお父さんの力を借りなきゃ変えてあげられない。
そしてそれを言ったら奏の親はおそらく逮捕される。それでもいい?」
彼は動揺して目を揺らした。
か細い声で「離れ離れはヤダ」「でも、よくない事」「一人はヤダ」という声がずっと漏れ出している。
「今すぐに決めなくていいんだよ」
私は優しく微笑んだ。
彼が結論を出すまで待とうと思った。
でもきっとそれじゃだめだ、もっと被害者がでたら奏はもっと苦しむ。
AIをつけているからこそどんな情報でも簡単に流れ込んでくるだろう。
ならいっそ私が、、。
私はポケットの携帯を握りしめた。
彼が急に後ろを振り返り目を見開いた。
そしてその方向へ向かおうとして立ち上がった時、
「だ、、、、、、め」
彼は喉元を抑えて倒れこんだ。
私は固まった。
「何をしているの奏」そこには初老のふくよかな女性が機械のようなものを操作していた。
「話しすぎだ馬鹿」その後ろから初老の男性が現れた。
「本当に私に聞こえてないと思ってたのね。首輪をつけてるのは自分自身だと思った?」
小馬鹿にするような物言いで女性はどんどん彼のそばへ向かって来る。
「笑えちゃうわ本当に。AIをつけて洗脳して私たちに歯向かえないようにしたのに、本当に本当にあなたはバカなのね。まぁ小娘に言われた程度じゃ何も問題はないわ。とっとと交際させて警察とのさらに強いパイプを持とうとしてたのに、使えないわねぇ」
女性はついに喉を抑え過呼吸になっている奏の元まで来た。
女性が足を振り上げた瞬間私は彼の前に立ちふさがった。
その瞬間強い衝撃が走った。細身な私の体は宙を舞い床に倒れこんだ。
「痛っ」
私は即座に体を起こし、女性に突進して、ギュッとしがみついた。
「ちょっと何よあんた離れなさい」
女性から機械を奪おうとした。しかし、それに気づいた男性が私の体を引っ張り始めた。
その瞬間、私の手がが女性から離れ、私はもう一度宙を舞った
「ゲホッ、、」私の体が痛みで叫んでいる。手には何もない。
「ま、、まってください」奏の声がした。
「すみません、、でした。僕はバカでした。あなたの言うことなんでも聞くのでもうこの子に迷惑をかけないでください。」奏はとぎれとぎれの声を振り絞って言った。
「さすが私の息子ね。物分かりがいいわぁ」
女性は機械を操作し奏が息をできるようにしてから抱きつき頭を撫でた。
そして女性は先に立ち上がり「さぁ行きましょう。私の可愛い奏ちゃん」
男性と女性が先に歩き出し、それを追うために彼はゆっくりと立ち上がり私の方を見た。
そしてその奥に目をやった。
彼は笑った。とても無邪気に。
「レールなんて簡単にぶち壊せるさ」
そう言った彼の目は月すらも見劣りするほど綺麗だった。
その足元には私の携帯が落ちていた。
通話中の画面には私の父の名があった。
周りに目をやれば、サイレンなしでここまで来ていた。警察が公園を取り囲んでいた。
その時、私は悟った彼は自分の人生に敷かれたレールを壊したんだ。
自分の人生をかけて無理やり脱線させた。
呆然としていたら。
「遅くなって悪かった。アリア」私の父の声が聞こえた。
「なんで、なんでなの奏!!!!!!!!私はこんなにもあなたを愛しているのに!!!」
女性が奏にとびかかった。
父が間に入り。女性を捕らえた。
「痴漢よ!暴力よ!これは不当な逮捕だわ!」
「もうやめましょう。親のエゴで子供を振り回してはいけません」
そういった父は、自分の過ちに気づいたのだろうか。
「12月24日午前2時3分傷害罪で逮捕する!青星奏、君もご同行願えるかな?」
「わかりました。知ってること全てお話しします。」
彼は先ほどの動揺はもうなく落ち着いていた。
彼は私の方に向き無邪気に笑って見せた。
触れたかった。手を伸ばしたが届かなかった。その小さな隙間に何光年もの距離を感じた。
「かなで!」
言葉を放とうとした。多分同じ気持ちだから。だけどやめた。
「次会ったら伝えたいことがある!」
”次会ったら”そうだよね今じゃなくていい次だ次があるんだ。
彼も「またね」とだけ言ってパトカーに乗っていった。
その怒涛の日が終わってから少し経った。
あの日にあった初老の夫婦はやはり奏の両親で青星病院の院長だった。しかし病院自体は一切の関与が見つからず評価は落ちたものの今まで通り普通の病院として機能しているそうだ。
そして、彼は罪に問われなかったそうだ。しかし、脳と密接な位置にAIを取り付けられていた上、10年近くの時が経過し体の一部になりつつあるため、取り除くには莫大な資産と高度な技術が必要となり、金銭面はなんとかできるとしても技術的に不可能と言われ今はどこかの病院で経過観察を行うそうだ。
10年もたっていたため他の被害者がいることも懸念されたが、今のところ確認されてないらしい。
私はあのあと少しだけ父に怒られそれ以外は何もなかった。
無事受験も終わり。季節は巡っていった。彼に会える”次”を待ち続けた。
彼が今どこにいるのかはわからない。だけどいつか私の力で彼を蝕んだものを取り除くんだ。
その心意気で医者になり、今日は初出勤の日。病院の医局のドアを開けた。
「初めまして。今日から青星医院で働く飛鳥アリアです。」
深々と頭を下げ。周りからの拍手とよろしくの声が響く。
顔を上げた。
レールの上で自分の音を奏でる私と、レールを壊して自分の色で輝く彼、
その間にあった。何光年先の距離が今なくなった。
ーENDー




