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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第1章 運命に従う者

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第6話 無意識の共鳴

救ったはずなのに、

誰も気づかない。


派手に勝てば称賛される。

数字が出れば評価される。


けれど――

静かに崩れなかっただけの結果は、

たいてい「何もなかったこと」にされる。


火乃宮凛は立ち続けている。

強く、まっすぐに。


水月蒼真は、後ろにいる。

目立たず、気づかれずに。


昨日、確かに何かが起きた。

けれどそれは、記録には残らない。


見えない貢献に意味はあるのか。

成果が示せなければ、存在していないのと同じなのか。


第6話「無意識の共鳴」


――静かな違和感は、

確実に、積み重なっていく。

報告書は、三行で終わった。


暴走未遂。

前衛による制圧。

負傷者なし。


以上。


水月蒼真の名前は、その下に小さく記されている。


後方支援。異常なし。


それだけだった。


 


会議室の空気は乾いている。


教官が総括を述べる。


「火乃宮の対応は迅速だった。出力管理を徹底すれば問題ない」


凛は静かにうなずく。


恒一が続く。


「乱流は想定外だったが、制御は成功だ。次は完封できる」


誰も蒼真を見ない。


 


月乃だけが、端末の波形を見つめている。


炎が乱れた瞬間。


そして、ほんの一瞬だけ落ちた出力。


数値は微細だ。誤差とも取れる。


だが、落ちている。


まるで音が吸われたように。


 


会議が終わる。


廊下に出ると、透真が小声で言った。


「なあ。昨日、前に出たよな」


「……出た」


「なんで?」


蒼真は答えられない。


止めたかった。


ただ、それだけだ。


だがそれは理由にならない。


 


凛が立ち止まる。


振り返らずに言う。


「あなた、何をしたの」


責める声ではない。確認だ。


「何も」


本当に分からない。


 


透真が口を挟む。


「でもさ。蒼真が触れたあと、炎、軽くなってたよな」


凛がゆっくり顔を上げる。


「軽くなってない」


即答だった。


「私は制御できていた。あの程度で崩れない」


声は強い。


だが、器を持つ指先だけが、わずかに白くなる。


凛は視線を逸らさない。


「強さは、借りるものじゃない」


その言葉が誰に向けられたものか、蒼真には分からなかった。


 


夜。


訓練場。


凛は一人で剣を振っている。


炎が走る。


橙色。安定している。


だが振り下ろした瞬間、ほんのわずかに揺れる。


白に近づいたあの瞬間。


背中に触れられた感覚。


熱が抜けた。


 


「……一人じゃなかった」


小さく漏れた声は、すぐに消えた。


「違う」


強さは、自分のものだ。


そうでなければ、前に立てない。


 


一方、蒼真は寮の部屋にいる。


掌の赤みは引いている。


だが、あの感覚は消えない。


凛の波。


荒れた熱。


そして、自分の内側にあった静かな空間。


押し返さなかった。


奪わなかった。


ただ、受け止めた。


 


(あれは何だったんだ)


調律士は波を整える。


合わせる。


均す。


だが、自分がやったのは違う。


ぶつかっていたものを、静かにしただけだ。


 


「……偶然だ」


口に出す。


そう言えば、小さくなる。


 


翌日の演習。


凛が前に出る。


炎が強まる。


その瞬間、蒼真の胸が勝手に反応する。


意識していない。


だが呼吸が変わる。


そして、炎がすっと安定する。


 


誰も気づかない。


教官は記録を取り、


恒一は雷を放ち、


訓練はそのまま続く。


凛だけが、ほんの一瞬だけ横を見る。


 


炎が消える。


爆ぜもせず、


ただ、自然に。


 


月乃が端末を見る。


波形が、また落ちている。


同じ位置。


同じ沈み方。


 


「再現性がある」


誰にも聞こえない声で呟く。


 


昼休み。


凛は何も言わない。


蒼真も、何も言えない。


報告書は更新されない。


数値は正常。


成果なし。


 


見えない貢献は、存在しないのと同じだ。


この世界では。


 


凛が席を立つ。


去り際に言う。


「明日も来て」


命令ではない。


確認でもない。


 


蒼真はうなずく。


 


もし自分がいなくても。


凛は立っていただろう。


恒一もいる。


制度もある。


 


それでも。


炎は確かに軽くなった。


 


成果が見えなければ、意味はないのか。


 


蒼真はまだ、自分の力を理解していない。


理解していないからこそ、否定できる。


 


「俺には無理だ」


言葉にすれば、前に出なくて済む。


 


だが胸の奥で、


静かな何かが、確かに反応している。


 


無意識の共鳴。


それはまだ名前を持たない。


だが、形になり始めている。

第6話「無意識の共鳴」までお読みいただきありがとうございます。


今回は、大きな爆発も劇的な宣言もありません。

けれど、物語にとってはとても重要な回です。


蒼真は凛を救いました。

しかし、それは誰にも「救い」として認識されません。


報告書には残らない。

数値にもならない。

称賛もない。


では、それは“なかったこと”なのでしょうか。


この世界は、測れるものを価値とします。

見える強さ。証明できる成果。数字。


けれど本当に世界を支えているのは、

誰にも気づかれない働きかもしれない。


凛は強さを信じています。

蒼真は自分を信じていません。


それでも二人の間で、確かに何かが起きている。


まだ名前はありません。

まだ正体も分かりません。


ただ、静かに繰り返されています。


次話では――

その「静かな違和感」を、誰かがはっきりと見つめ始めます。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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